3日夜、韓国・尹錫悦大統領が発令した「非常戒厳」により、韓国内は大混乱に陥った。国会議事堂の前には軍や警察の車両が詰めかけ、周辺では市民ともみ合う姿まで見られた。また、議事堂では中にいた議員が作ったバリケードを突破しようと、軍が窓を割って侵入する事態も起きた。
【映像】軍と市民が衝突 騒然となる韓国の国会議事堂
非常戒厳は、戦時下など非常事態で発令され、軍が司法、立法、行政の全てを掌握し統制力を強化、言論や集会の自由などが制限されるものだが、なぜそんなものが発令されたのか。『ABEMA Prime』では、韓国内でこの大混乱を目の当たりにした当事者、専門家から当時の様子、非常戒厳が出された理由を聞いた。
■戦争でもないのに出された「非常戒厳」
韓国が1987年に民主化されて以来、初めて発令された非常戒厳。国会周辺を大騒動に巻き込んだが、その国会内では定数300人のうち190人の議員が集結、全会一致で非常戒厳の解除要求決議を可決、わずか6時間で解除となった。当初は北朝鮮と戦争が始まったのかといった憶測も流され、世界に緊張が走った韓国の「非常戒厳」はなぜ発令されたのか。龍谷大学教授の李相哲氏は、現在の韓国情勢から説明した。「今、韓国国会は野党が多数を占めていて、尹大統領がやろうとすることを、ことごとく否定して手足を縛っている。閣僚の中で頑張っている人を、国会で弾劾して職務停止に追い込んで、既に22件の弾劾がある。また、野党代表の李在明氏が5つの裁判にかけられているが、これを捜査したソウル地検長の人、検事の3人も今、弾劾するつもりでいる。今回、おそらく尹大統領が一番戒厳をしなければならなかった理由は予算案だ。予算案は与野党が合意して、政府の意向を反映するのが普通だが、今回は与党を排除し、大統領府が要求する予算をことごとく否定している。大統領府が使うお金や、検察の特別稼働費をゼロにした。大統領が何もできないことが、このままズルズルと3年続くことを考えれば、今手を打たなければいけないという切迫感があって、戒厳をひいた」と、尹大統領が追い込まれていた状況を述べた。
では、なぜ非常戒厳によって、軍政に変わることが尹大統領の意向を通すことにつながるのか。「大統領が戒厳をしくと、戒厳司令部が作られる。そうすると軍が司法権、行政権、立法権全てを掌握する。今回の主な目的は国会解散にあった。なので軍を送ったのも国会だけだった。国会が大統領府と対立して仕事が進まないので、国会を解散しなければならなかった。韓国の現在の法律では、国会議員というのは1回当選すれば4年はクビにできないからだ。非常事態であれば、軍は国会を開催できる」。
野党が過半数を占める“ねじれ国会”では、与党や大統領府の政策は一向に前に進まない。そんな国会であれば非常戒厳を用いて解散する、という強硬手段。“逆クーデター”とも言えるものだが、事前の根回し不足もあったのか、国会に集まった190人の議員には与党議員も含まれ、深夜に解除要求決議を可決。大混乱を招いた非常戒厳は、たった6時間で終わり、尹大統領からすれば失敗に終わった形だ。
■非常戒厳、発令直後の国会周辺では何が
国会周辺の状況はどうだったのか。発令時、国会近くのカフェにいた韓国人YouTuberのきばるんさんは、当時の状況を振り返る。「戒厳という記事が出たのにはびっくりした。国会に近かったので生配信をしようと向かったが、上空にはもうヘリコプターが飛んでいて、国会近くには銃を持った軍人が約300人いた。記者やメディア、反対勢力、国会議員の人たちが『早く大統領と話をさせろ』という感じで国会の中に入ろうとしたが、軍人が止めていた。身の危険を感じたのでちょっと生配信をやめて、そのまま帰宅した」とし、現地でけが人などは出ていなかったという。
今回の非常戒厳の発令を、市民はどう受け止めたのか。「僕たちにとって非常戒厳は、ほぼ45年ぶりで教科書に載っている、本当に授業で習っているものでしかなかったので、もう本当に戦争が起こるんじゃないかと、そのくらいパニックになっていた。メディアも国会の中に入れないようにしていたので、具体的に何が正しい情報なのかもわからない状況だった」と、騒然とした状況を述べた。
そもそも尹大統領に対する市民の感情はどんなものだったのか。「大統領はもともと検察官出身。韓国でも国会議員を通してエスカレーターのように大統領になるというのが一般的だったが、今回は本当に急に検察官出身で何もノウハウがない尹大統領が選ばれた。実際やってみると、あらゆる政策がうまくいかないし、大統領の妻である尹錫悦が特権を行使して、政治干渉や収賄と様々なやらかしがある。支持率も20%まで低下して、週末にはたくさんの方で反対デモが起こっている。最近は地下鉄ストライキも起きて、従業員の70%が、賃金が低いことを理由に仕事を放棄しているから、地下鉄の50%しか運行していない。通勤ラッシュの時はすごい混乱が起こっていて、尹大統領の政策に混乱している状況だ」と語った。
今回は尹大統領の準備不足とも言われ、一夜にうちに解除となった非常戒厳。与野党問わず批判が噴出し、野党側からは大混乱を招いた非常戒厳の発令は「反乱行為」にあたるとし、弾劾訴追案が国会に提出されている。
(『ABEMA Prime』より)
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