2022年2月24日にロシアがウクライナへ侵攻を始めてから約1000日が経過した。今月に入り、ウクライナは19日アメリカ製の「ATACMS」、20日にはイギリス製の「ストームシャドー」というミサイルをロシアに向けて発射。対するロシアも21日に新型中距離ミサイル「オレシュニク」を使って、ウクライナ東部ドニプロを攻撃した。
【映像】大量に打ち込まれる新型ミサイル
両国がミサイルを撃ち合う中、いまだ侵攻の終わりは見えていない。アメリカ大統領選に勝利したトランプ氏は、大統領就任から24時間以内に、ウクライナとロシアによる戦争を終わらせると宣言しているが、今後の関与はどこまでウクライナ侵攻を終結へと向かわせるのか。また、両国にとって終戦に納得する“落としどころ”はどこなのか。『ABEMA Prime』では専門家を招き、ウクライナ侵攻の現局面と今後の見通しを考えた。
■新型ミサイルも投入 ウクライナ侵攻の現局面は
現在、ロシアによるウクライナへの侵攻は4州に渡り、進軍を進めるロシアに対して、ウクライナの反撃により踏みとどまっている状況だ。このタイミングでロシアが新型中距離ミサイル「オレシュニク」を発射した狙いとは何か。防衛研究所米欧ロシア研究室長の山添博史氏は「ミサイルの段階が上がってきていることに対して、ロシアも反応をしたかった。中距離ミサイルを配備し始めたとなると、INF条約が禁じた前のように、欧州を危険な時代へ戻すような意味があるかもしれない」とポイントを挙げた。
プーチン大統領の演説では「実戦で実験した」と語られたが、新型ミサイルの実験的利用については「初めて見られるタイプ。これまで何十年かやってきた技術ともちょっと違う意味があるかもしれない。大陸間弾道弾ミサイルの改良版であれば、核兵器を積んでヨーロッパまで飛ばすことができて、アメリカもなかなか手出しをできない、そういう兵器を作ってしまう可能性はある」と述べた。
国際政治学者で上智大学教授の前嶋和弘氏は「オレシュニクは欧州には届くが、アメリカには届かない」ことの意味を説明した。「アメリカには撃つことを事前通告しているが、トランプ政権に今後なるから『ディール(2国間取り引き)をするよ』というメッセージ。だけど欧州、もちろんウクライナは怖がらせる。すごく練った作戦だと思う」。
新型ミサイルも戦線に導入された今、ロシアとウクライナの関係はどうなっているのか。山添氏は「昨年の夏、ウクライナが大幅に占領地を回復しようという作戦をやって、それがうまく進まず、昨年の秋から1年以上、ロシアがウクライナの前戦を押し続けるということをやっている。(戦争も)1000日以上続いているが、毎日のように人が住んでいるところに、ロシアがミサイルを撃ち込んで、死者が毎日出ている。ドネツク州という、ウクライナ東部の重要な係争地にロシアの前進がかなり進んで来ている。重要な拠点をウクライナが失いつつあり、厳しい状態になっている。ロシアとしては、まだまだ押せるという意思がある状況だ」と述べた。
■トランプ氏の関与はどこまで影響を与えるか
アメリカ大統領に復帰するトランプ氏は「アメリカファースト」の方針を掲げており、一刻も早くウクライナ侵攻を終わらせたいと考えている。前嶋氏は「トランプ氏は公約として、就任して24時間以内に戦争をやめると言っているし、最近では就任するまでにやめるとも言っているので、今必死にロシア側、ウクライナ側と話をしているところ」と解説。ただ、その終わり方はウクライナにとって厳しいものになる可能性は十分にあり、「東部と南部を取られて終わるのか、あるいは一定程度ロシア側に攻め込んで、もう少しウクライナにプラスの状況で終わるのか。どっちにしてもあまりウクライナにとってよくない話。要するに戦争犯罪者であるプーチンを認めてしまう形になってしまう」と述べた。
トランプ氏にとっては、大統領再任に際しウクライナ侵攻を止めたとなれば、大きな“セレモニー”にもなるという。「『俺がウクライナの紛争を、バイデンの時にやってしまったアメリカの失敗を止めるんだ』という意識がある。ツールとしてはアメリカが武器提供をやめると言えばウクライナは動かないだろうと見ている。今年の6月、1年6カ月ぶりにアメリカの支援が通ったら、ウクライナ側がロシア側にも攻め込むようになった。これが止まれば、ウクライナも諦めざるを得ない。トランプさんとしても『俺はロシアと話せる』と、自分の就任の成果にしたいわけだ。最初からレガシーを作っていく、ノーベル賞(受賞)とかいろいろなことを考えている」と思惑を解説した。
■どうやったら終わる?“勝利のライン”とは
トランプ氏は、アメリカの協力が止まりさえすれば、ウクライナが戦えなくなり、終戦を迎えると見ているが、その通りに進むのか。山添氏は両国にとって、これなら“勝利”と呼べるラインを分析している。「現状で停戦するとしたら、ロシアは2022年7月の時よりも、ウクライナに取り戻されている。少なくともロシアは2州占領、もっと押して4州占領くらいまでやりたい。もう4州が自分の領土だと言っているので、ウクライナにそれをよこせと言わないと停戦の条件にならない」と指摘した。「これを諦めるならば相当な譲歩をロシアが得ないと、プーチン政権はトランプ政権に押し込められたということで、ロシアの中で正当性を持たない。逆にロシアに何でもあげるとトランプが決めて、ロシアがウクライナを叩きのめしてしまったら、バイデンの時よりもひどい負け方をアメリカがすることになるので、想像しにくい」。
また、ここ数日、イギリスやフランスがウクライナへの派兵を議論しているとも報じられていることについて、山添氏は「イギリス、フランスだけでいきなり参戦というのも、なかなかすぐには難しいと思うが、ウクライナがアメリカの支援が止まっただけで、全部自分たちの生存を諦めるかというと、そうではない。これは絶対に忘れてはいけない観点」だと述べた。さらに、長期戦になるほどウクライナ不利というイメージもあるが、「まずくなったらなんとかするのがウクライナ。すぐには終わらないとは思う。ロシアも思ったようには進めていない。だから今のペースで進んでいって、やっと1年かけてドネツク州全部を占領できる計算になっているので、ロシアにとってもそれを本当に続けられるかも分からない」とした。
(『ABEMA Prime』より)
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