新政権の人事を着々と進めるアメリカのトランプ次期大統領。厚生長官にワクチン接種に否定的な人物を指名するなど、疑問の声も上がっています。

■トランプ新政権に指名…厚生長官に“ワクチン否定派”

日比麻音子キャスター:
ここまでのアメリカ大統領選をどのように見られましたか。

東京大学准教授 斎藤幸平氏:
やはりドイツでもかなり話題になっていて、ドイツが今覚悟しているのは、ウクライナ戦争への支援をトランプ氏が削減してしまうことです。そして関税。ドイツの経済は今かなり調子が悪いので、トランプ氏の関税政策が経済の状況をさらに悪化させたり、EUの問題が深まっていったりするのではないかという懸念が出てきています。

日比キャスター:
今まさに斎藤さんはドイツにいらっしゃるので、様々な生の声が届いていると思います。斎藤さんが注視するトランプ氏の政策はありますか。

斎藤幸平氏:
イーロン・マスク氏が2兆円減らすという話もありましたが、財政を減らしていくやり方が最終的に誰に一番影響が出るかというと、実は民主党のやり方に不満を持ち、トランプ氏を支持してきた労働者階級や貧しい人たちだと思います。実はトランプ氏に投票したことによって、そういう人たちに対する支援がますます減らされ、格差が広がり、国内の不満がさらに高まっていくということを懸念しています。

日比キャスター:
そういった政権を担うメンバーという顔ぶれが見えてきました。

齋藤慎太郎キャスター:
まず、医療や保健分野を所管する厚生長官に指名されたのが、弁護士のロバート・ケネディ・ジュニア氏(70)です。ロバート・ケネディ元司法長官の息子で、ケネディ元大統領の甥にあたる人物です。“自閉症とワクチンは関連がある”と主張しており、ワクチン接種に否定的な姿勢をとるなど、様々な行動も起こしている人物になります。

実は人物、今回の大統領選挙に第3の候補として無所属で出馬をしています。そして8月に撤退を表明し、その後はトランプ氏の支持に回っているということで、トランプ氏に近い人物が指名されたということになります。

■ケネディ氏は陰謀論に染まった人物…極端な政策をとるおそれも

日比キャスター:
ここまでのアメリカ大統領選をどのように見られましたか?

明海大学 小谷哲男教授:
アメリカにとっても、あるいは日本を含めた国際社会にとってもあまり良い人事とは言えないと思います。トランプ氏の言いなりになるような人たちであり、アメリカのごく一部の人たちのためだけに働く政府になるのではないかと危惧します。

日比キャスター:
ロバート・ケネディ・ジュニア氏はどのような人物なのでしょうか。

小谷教授:
ケネディ大統領の甥であり、元々環境弁護士、環境活動家ですが、その環境活動をする中でだんだんと陰謀論に染まっていった人物です。特にCIAがアメリカのメディアを捜査し、アメリカにとって良くない事実を流しているという陰謀論に染まってしまった人物ですね。

日比キャスター:
そんな人物が公衆衛生部門のトップですから、混乱は避けられないのではないでしょうか。

小谷教授:
とりわけ反ワクチンで知られていますので、ワクチン開発のための補助金を減らす、場合によっては国民がワクチン接種をすることを禁じるなど極端な政策をとるかもしれません。

■波紋も…司法長官には過去わいせつの疑いで不起訴された人物

齋藤キャスター:
日本の法務大臣に当たる、司法長官に指名されたのがマット・ゲーツ氏(42)です。トランプ氏を強く支持する“保守強硬派”として知られています。

米メディアによると“議会で最も嫌われている議員”と報じられています。過去に17歳少女に対する性的人身売買の疑いで司法省から捜査を受け、不起訴になった経歴を持つ人物です。トランプ氏は「司法省に対するアメリカ国民の信頼を回復する」と話しています。 

日比キャスター:
なぜゲーツ氏なんでしょうか。

小谷教授:
トランプ氏はバイデン政権の司法省によって訴追されてきました。ゲーツ氏も訴追まではいかなかったものの、捜査されたことで恐らく2人の間に仲間意識があり、今回政権を取って司法省に“復讐”をするために、そのトップにゲーツ氏を指名したと考えられます。

齋藤キャスター:
ニューヨーク・タイムズは、ゲーツ氏の指名について、「トランプ氏が自らを起訴した司法省職員への報復を求める中、従順な見方に舵を取らせるのは挑発的な動きだ」と報道しています。

日比キャスター:
トランプ氏自身も裁判を抱えている状況ですが、影響はあるのでしょうか?

小谷教授:
当然ゲーツ氏が司法長官になれば、次期大統領であるトランプ氏に対する捜査・訴追は全て撤回することになると思うので、トランプ氏は自ら恩赦をしなくても制度を使って罪から逃れることができると思います。

日比キャスター:
まさに法の部分でも、トランプ氏にとっては都合の良い人事だということですね。

小谷教授:
ただゲーツ氏・ケネディ氏を果たして議会が承認するかという問題が出てきます。通常であれば上院が閣僚を承認しますが、上院が休会している間は、大統領が任命をすると、そのまま2年間は閣僚が議会の承認なしに就任できるというルールがあります。

恐らくトランプ氏は、ケネディ氏、ゲーツ氏、国家情報長官に指名されたギャバード氏の3名は、休会中の任命という形で議会の承認をかいくぐるのではないかと思います。

日比キャスター:
選挙が終わったばかりですが、それで国民は納得できるのでしょうか。

小谷教授:
このシステムは、実はこれまでの大統領は皆使ってきたので、それに対する大きな批判はないかもしれません。

ただ今回のゲーツ氏、ケネディ氏は犯罪や陰謀論の疑いがあるので、特に民主党支持者は大きな危機感を持つと思います。

■ニュースの司会者など“トランプ人事”サプライズ続々

齋藤キャスター:
他の注目人物も挙げていきます。

▼国務長官 マルコ・ルビオ氏
>中国やイランに対して“強硬姿勢”
>ウクライナ軍事支援に反対派

▼国防長官 ピート・ヘグセス氏
>保守系テレビ・FOXニュースの司会者
>元陸軍兵士でイラクやアフガニスタンに派遣されていた経験

▼新設・政府効率化省の責任者 イーロン・マスク氏
>テスラCEO
>トランプ氏の支援団体に約183億円を献金

こういった様々なサプライズ人事が行われています。

日比キャスター:
その中で特に注目している人事はありますか?

小谷教授:
マルコ・ルビオ氏はこの中で一番まともな閣僚だと思います。国務長官ですから、日本との外交は比較的やりやすいでしょう。

国防長官のピート・へグセス氏は、「女性が軍隊に入ることで米軍が弱くなった」と主張する人物ですので、米軍として体制を維持していくことができるのか、やや不安が残ります。

そしてイーロン・マスク氏は、イランの国連大使と秘密裏に会っていたということで、外交でも何らかの影響力を持つかもしれません。

========
<プロフィール>

小谷哲男さん
明海大学 教授
アメリカの外交・安全保障政策に詳しい
日本国際問題研究所 主任研究員

斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済思想 社会思想
著書『人新世の「資本論」』50万部突破

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。