望まない妊娠を防ぐための緊急避妊薬

 望まない妊娠を防ぐ緊急避妊薬(アフターピル)。国は昨年から薬局での試験販売を始めた。本来は医師の診察が必要だが、性暴力や避妊の失敗による妊娠から女性の体を守るため、薬局などで買えるようにする市販化を求める声は多い。試験販売は環境が変わる一歩になりそうだが、課題も浮かんでいる。 (熊崎未奈)

◆服用早いほど効果

 日本で最も使われている緊急避妊薬はノルレボ錠(レボノルゲストレル錠)というホルモン剤で、排卵を遅らせる作用があるとされる。性行為から72時間以内に1錠服用することで妊娠の可能性を下げる。早いほど妊娠を阻止する効果があり、日本産科婦人科学会の指針によると、阻止率は24時間以内で95%、49~72時間以内では58%とされる。  海外では約90の国と地域で、薬局やインターネットから購入できるが、日本では医師の診察と処方箋が必要だ。保険が適用されず、自費診療で、1錠約8千~1万5千円程度かかる。  通院の時間、距離の制約や病院にかかる恥ずかしさ、経済的な負担などから、緊急避妊薬の入手を諦める女性も少なくない。「妊娠できる年齢の女性なら、誰でも必要になりうる。必要な人にもっと届きやすくしてほしい」。緊急避妊薬の市販化を求める市民団体共同代表の福田和子さん(29)は訴える。

◆145薬局で試験販売

 処方箋なしでの販売を求める声が高まる中、厚生労働省は昨年11月から薬局での試験販売を始めた。日本薬剤師会が厚労省から委託を受け、全国145の薬局で調査研究として実施。16歳以上が対象で、本人が対象の薬局に行き、薬剤師から説明を受けた上で、その場で服用する。  厚労省は今年5月、開始後2カ月間の実績などを公表。全国で2181件の販売があり、利用者の8割が「今後も処方箋なしで服用したい」と希望した。  一方、福田さんが代表を務める団体が行ったアンケートによると、薬局での購入を試みた68人のうち、実際に購入できたのは15%にとどまった。対象薬局の数が限られることや、電話で事前に問い合わせるといった手順が障壁になったとみられる。  16、17歳は保護者の同伴が必要という条件もあり、ハードルが高い。名古屋市の産婦人科医、伊藤加奈子さん(47)は「薬局での販売を認めるなら、この条件は見直す必要がある」と指摘する。

◆「性教育と両輪で」

 「避妊の知識などの性教育が不足している中で、先行して薬だけ入手しやすくなるのはジレンマを感じる」とも。伊藤さんのクリニックでは月に数人から十数人に処方。10代の学生もいて、10人に1人は同意のない性行為が理由だという。犯罪性の高い事案は自治体の支援センターなどにつなぐ。今後の避妊のために低用量ピルをすすめたり、性感染症の検査やカウンセリングを受けてもらうことも。伊藤さんは「薬局で購入できるようになったら、誰がこの役割を担うのか。きちんと整備するべきだ」と話す。  福田さんも「性教育を充実させた上で、入手しやすい環境整備が必要」と強調する。厚労省は来年3月末まで試験販売を継続し、市販化に向けた課題を見極める方針だが、福田さんは「これ以上、何を調査したら市販化につながるのか。当事者にとっては人生に関わる問題。迅速に検討してほしい」と訴える。

◆緊急避妊薬を巡る動き

2011年 厚労省が日本初の緊急避妊薬「ノルレボ錠」承認  17年 厚労省の専門家会議で市販化見送り  19年 オンライン診療による処方が要件付きで承認  20年 世界保健機関(WHO)が緊急避妊薬へのアクセス確保を提言   同 内閣府の男女共同参画基本計画で「処方箋なしに利用できるよう検討」と明記  21年 厚労省の専門家会議で市販化への議論再開  23年 薬局での試験販売開始  ◇   女性の心と体にまつわる記事を随時、掲載します。


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