山口県山口市の中心部に位置する山口情報芸術センターYCAM。市民の文化的な生活を支える拠点として設立から21年を迎えました。ここでは、実は映画も上映されています。映画館がなくなった山口市で映画文化をつむぎ続けています。
県都、山口市。ここには、映画館がありません。客足の減少などの理由で最後の映画館が閉じたのは12年前も前のことです。そうした山口市で、映画文化を発信し続けているのが「山口情報芸術センターYCAM」です。8月のこの日、YCAMでは、映画イベントのひとつ、「爆音映画祭」が開催されていました。
繊細な音を楽しむ映画祭
「爆音映画祭」とはスタジオの音響設備を最大限に利用し、大音量で上映することで繊細な、映画の音の世界も楽しもうというものです。天井や客席の下にもスピーカーを仕込み、そのスピーカーをシーンによって使い分けるなどして、通常の映画館では難しい音を表現する工夫が施されています。
映画評論家の樋口泰人さんが国内外で開催しているこのイベント、YCAMでは12回目とすっかりおなじみになりました。
爆音映画祭ディレクター・映画評論家・boid主宰 樋口泰人さん
「いろんなアクション映画とかでちっちゃい音がいっぱい入っているんですね、物語に夢中になってたりするとそういうのを聞き逃したりして、例えばそういうちっちゃい音がぼぉって湧き上がってきたら映画はどんなふうになるだろうっていう」
映画が持つ、物語・音・映像、この3つの魅力を感じてほしいという企画です。ここでは、国内でも最高レベルの音響設備を備えるというYCAMの強みが生かされています。
当初は反対の声も文化施設として定着
今から21年前にオープンしたYCAM。展示スペースや劇場、ミニシアター、図書館を持つ複合型文化施設です。文化や情報によるまちづくりの中心的な役割を期待されてのオープンでした。
まだ馴染みのない「メディアアート」というジャンルに焦点を当てた施設には当初、反対の声もありましたが、現在は、文化に触れ、交流する場として定着した感があります。
時事・社会問題扱う作品も
開館当初から映画事業にも力を入れてきました。2階にあるスタジオCでは国内外の映画を上映しています。フィルムの映写機もあり、デジタル作品だけでなく35ミリフィルムの作品も楽しめます。
YCAMの前原美織さん。上映する作品の選定や企画などに携わる、「キュレーター」という役割を務めています。
山口情報芸術センター・YCAM・映画担当キュレーター前原美織さん
「アートセンターですのでアートに関わる作品はもちろんですけどもドキュメンタリーですとかあとは時事問題、社会問題に今見ていただきたいものって言うのを選んでいます」
「撮影の裏話」が聞けるツアー
YCAMシネマには一般的な映画館とは違った魅力があるといいます。独立したミニシアター、いわゆる単館系で自由度が高い作品の上映が可能です。社会問題や歴史を学べる特集上映やアート系、ドキュメンタリーといった一般の映画館では上映される機会が少ない、さまざまな作品を前原さんが選びます。その活動は、上映だけにとどまりません。
監督自身が解説するファンにとってはたまらないツアーも映画祭では企画されます。
「夜明けのすべて」三宅唱監督
「短いシーンですから撮影当日のスケジュール上もそんなに時間を与えられてなかったんですね。当日改めて考えたらこれめちゃくちゃ重要なシーンじゃん。この映画の中でと」
撮影の裏話も披露されました。
バックステージツアーに参加した人
「そんなに音に注目して今まで映画を見たことがなかったなっていうふうに感じて。お話を聞いてすごく一つ一つこだわっているんだなって発見があって、これから映画を見るときに音っていう見る視点を新たに得たような気分です」
まちの「アートセンター」として
今年の爆音映画祭では3日間で13作品が上映されました。
前原さん
「山口市内には今、民間の映画館は一軒もなくなってしまったので、まちの映画館の役割っていうのもありますし、アートセンターですのでアートにかかわる映画を中心にみなさんに見ていただきたい、こういう世界もあったんだなっていう、また新たな発見をしていただけるような映画を上映していきたいと思っています」
「映画の宣伝費がたくさんかけられている作品ばかりが有名になりがちですけれども小さい作品も拾っていってYCAMシネマだからっちょっと見てみようかっていう、みなさんの興味を引くように、これからも仕掛けていきたいと思っています」
今後も映画の企画が盛りだくさんです。10月に「戦後の復興と家族」をテーマにした作品が上映されるほか、来年には、世界の短編映画を上映するショートフィルムフェスティバルも予定されています。山口で映画文化をつむぎ続けるために。文化、情報の拠点から発信は続きます。
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