南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模地震や激甚化する風水害に備えるため、石破茂首相が提唱する「防災省」構想。この実現のため防災庁設置準備担当業務を担うのが、首相と同じ鳥取県選出で側近とされる赤沢亮正経済再生担当相(63)だ。2日の就任記者会見で、当面の目標として2026年度中に「防災庁」の設置を目指す方針を明らかにした。

就任会見で防災省への思いを語る赤沢担当相

 政府内にチームを立ち上げ、現在防災を担っている内閣府防災担当を防災庁に移行する方法を検討する。人員・予算の大幅拡充を進め、26年度中に専任の大臣を置いた防災庁の設置を目指す。「防災省」への格上げについては「今ある役所に属している組織を移す作業はなかなか難しい議論になる」とし、先に防災庁の設置を急ぐ考えを示した。(小沢慧一)

◆「防災はライフワーク」

 「ある意味、一番思い入れの強い、私のライフワークです」。赤沢氏は会見で防災への思いを語った。  1985年の日航ジャンボ機墜落事故が起きた際、赤沢氏は旧運輸省の入省2年目の職員だった。「524人が乗ったジャンボの機影が消えた」との第1報を聞いた際は、「血管の中を無数の氷の粒がざーっと流れるような感覚」だったと振り返る。1995年の阪神淡路大震災の10年後に衆議院議員として初当選し「危機管理型の政治家になった」と語る。  東日本大震災では1万8千人以上の死者・行方不明者が出た。南海トラフ地震では、政府は最悪32万超の死者が出ると想定している。「東日本大震災では国民の心が折れかけた。その20倍もの被害が想定される南海トラフ地震で少しでも折れないように万人単位で犠牲者を減らしたい。そこに政治人生の半分以上をかけている」

引き継ぎ式を行う赤沢亮正経済再生担当相(左)と前任の新藤義孝氏=代表撮影

◆まずは「防災庁」で人員や予算を大幅強化

 現在の内閣府防災担当は150人程度で、予算は年間73億円。「役所は絶対認めないけど、大規模災害が起きると今の体制ではパンクしかけている」。そんな体制下では、事前防災の施策も何か災害が起きる度に中断せざるを得ない。「これでは南海トラフや首都直下の備えを十分にできない」と強調した。  防災庁のポイントは専任の大臣を置き、予算・定員を大幅に強化されることにある。しかし防災省については「各省に属している(防災関連の)組織を移す作業はなかなか難しい議論になっていく」と早期実現に対して弱気だ。例えば、ダムの決壊防止対策などは国交省など、専門の省庁に任せた方が確実だという意見が根強いからだという。  問題は、各省庁任せでは災害が起きたときの対応しかできず、事前防災が進まないことだ、と語る。「防災技術の研究開発やボランティア育成や管理、子どもへの防災教育。それをするためには選任の大臣を持った組織が必要」とし、「防災庁をどうやって防災省に移行するかは、事前防災を進めるうちに見えてくると思う」と期待した。

1日、皇居での認証式に向かう赤沢亮正経済再生相=首相官邸で(七森祐也撮影)

◆石破首相は「予知体制の強化」に言及するが…

 石破首相は防災省の議論の一貫で、「予知体制の強化」についても言及した。だが、地震予知は政府が1970年代から膨大な予算をかけて研究を進めたが実現できず、2017年に「確度の高い予測は困難」としている。  赤沢氏は「石破総理も予知が難しいのはわかっている」と説明。その上で近年は線状降水帯の予測精度が向上していることを挙げ、「地震予知ができるようになるとは言わないが、努力は最大限やるということ。多分、念頭にあるのは線状降水帯のことなどで、ああいう技術の進歩が地震でもできないかという思いから出た発言だと思う」と語った。  防災の専門省庁設置の狙いの一つは、国と地方自治体との連携の強化だ。「石破総理はいつも『住んでいる自治体によって救われない命があっては絶対ならん』とおっしゃる。あ、その思いが強いんだと思った」 災害対策の中心である災害対策基本法では、災害対策の一義的な責任を市町村にあると定めている。だが、財政規模により対策の取り組み方が違ったり、防災担当が「定年間近の職員の当て職」になっている実態があるという。

◆「できなければ政治家として負け」

 2016年の熊本地震では死者273人の8割を災害関連死が占める事態となった。「被災地に食料や水がきちんと届かないと、高齢者の方々が脱水症状になったり、衰弱して亡くなる。自治体に備蓄が足りているか国が調べたり、足りなければプッシュ型で食料を送ったりする。パワーアップした防災庁では少なくともそういうことが必要だと総理も思っている」

1日、記者会見に臨む石破首相=首相官邸で(平野皓士朗撮影)

 内閣府防災の人員や予算の増加は政令の改定などで可能だ。しかし、防災庁の設置には法案が通常国会を通過する必要がある。設置予定時期を26年としたのは「3年の総裁任期中に実現させる」ことを念頭にしているからだという。
 「南海トラフ地震が起きるまでに万全の事前防災ができなければ政治家として負けだと思っている。だが防災省は時間がかかる」と赤沢氏。まずは防災庁設置を急ぎ、「平時に事前防災を徹底的にやらないと、防災は進まないんだよ」と意気込んだ。 

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