スズメバチには「お引越し」のシーズンがあり、いまの時期(9月上旬)が終盤だといいます。
たとえば、橋の欄干の下にある「まるいもの」【画像①】。それはスズメバチの巣です。
万が一、人間の住居周辺がスズメバチの新居に選ばれたら大変。
軒下などに【画像②】のような巣がないか確認してみてください。
害虫駆除の専門家、東洋産業の大野竜徳さんは、特に「キイロスズメバチ」に注意が必要だといいます。
ーキイロスズメバチにはどんな特性があるのでしょうか。
(東洋産業 大野竜徳さん)
「都市や人間生活の周りでもお構いなし、軒下や天井裏などに大きな巣を作ってしまい、攻撃性が高いものが多いです」
ーそのキイロスズメバチが「引っ越し」するのですね!?
(大野さん)
「キイロスズメバチは、お引越しを行うスズメバチとして有名です。日本ではスズメバチの巣は一年だけのものです」
ーということは、年に一度、引っ越しているということですか。
(大野さん)
「そうなんです。スズメバチの一生にこの秘密があります。キイロスズメバチの女王の一生を追ってみましょう」
秋の気配が訪れると…スズメバチが高層マンションでお見合い?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「夏の終わり、女王が生まれます。生まれた時にはすべての卵は同じ条件ですが、たまたま女王候補になったところに生まれた卵は女王になるべく育てられます」
「ほかの姉妹たちと大切に育てられた女王はすくすく育ち羽化します。女王として羽化した個体は、巣の中で恋の季節が来るまでのんびり英気を養います」
「秋の気配が訪れる頃がスズメバチの恋の季節。ココからスズメバチの巣の物語のはじまりです」
「女王は時期が来たら巣から飛び立ち、高い木の上などの目立つ場所を目指します。こういったところがスズメバチのお見合い会場です。都市部で秋に高層マンションの上にハチが集まるのはこのお見合い会場になっているからです」
「気に入ったオス蜂と出会うことができた女王は一生に一度だけ交尾を行います」
「そして、お見合いが終わった女王は別れとともに一匹だけで越冬に入ります。女王はたった一匹で暖かい場所を探して春までじっと過ごします」
ー女王が飛び立った巣はどうなるのでしょう?
「崩壊に向かっていきます。女王やオスが飛び立った巣には滅びの時が迫ります」
「秋が深まるころ、だんだんと気温が下がり、働きバチたちも動きが鈍くなっていきます。エサもなくなった巣は維持することができなくなっていきます。餌もなくなってくると、働きバチが自分たちの食い扶持を保つことも難しくなり、育っていた幼虫も巣から捨てていきます」
「これからの世代もいなくなった巣はだんだんと働きバチの数も減っていき、最後には滅んでいきます。女王が巣立った実家はココでなくなってしまい、お見合いに出かけた女王は帰る家もなくなります」
春につくった小さな巣が手狭になる夏 引っ越しを始める
ー一匹で越冬した女王は、どうやって巣作りを?
(東洋産業 大野さん)
「暖かい春が来て、女王がのそのそと動き出した時、周りには仲間はいません。女王が一匹で巣作りを始めます。この時、もし死んでしまっては未来はありません。女王はなるべく狭くて安全そうな場所に巣を作ります」
「最初の巣は握りこぶしくらいより小さな巣。女王は立った一匹で巣作り、産卵、子育てを行います」
「帰りを待つ数匹の幼虫を巣において、女王は巣を拡張、補修しながら子供たちのエサや世話を続けます」
「巣には数匹の幼虫が常に「お腹すいたー」とカリカリ音を立てています。この時期が巣の運命をほぼ決定しています」
「運悪く外に出たところを天敵に襲われて死んでしまったり、事故にあって巣に帰れなくなったりするとその巣はおしまいです」
ー女王は、巣の運命を左右するんですね。
(大野さん)
「スズメバチの巣は女王が一匹ですが、この女王が死んでしまうと卵が産まれなくなるだけでなく、働きバチも自分の仕事がわからなくなってしまうようで、どんなに大きな巣も崩壊に向かっていきます」
「働きバチより一回り大きな体を持つ女王がへとへとになりながら約1か月くらい。ようやく働きバチたちが羽化してきます」
「最初の育児はとっても大変。この女王に育てられた最初の働きバチは女王に愛情を受けて育ちますが、それだけではお腹がいっぱいにならなかったのか、少し小柄な娘(働きバチ)になります」
「小柄な働きバチですが、しっかり働けるようになると、いよいよ女王は卵を産むだけの立場になります。ココから巣がだんだん大きくなってきますが、姉妹が増えてきた巣は少し手狭になります」
「これが7~8月。手狭になったところから引っ越しを始める時期です。
働きバチたちは、ここがいいなぁ、あそこがいいなぁ、と良い場所を探し、仮の新居を作り始めます」
引っ越し時期の巣は仮住まい 「せっかく駆除してもまた巣が…」
ー新居への引っ越しはどんな風に?
(東洋産業 大野竜徳さん)
「たった数日でソフトボール位の新しい新居が出来上がります。ただ、新しい場所には危険があるかもしれません。仮の新居は10~30匹程度で行い、夜には見張り数匹を残して帰っていきます」
「引っ越しは、長いと1か月くらいかけて行います。夏真っ盛り、うまく引っ越しが終わった巣は突然大きくなっていきます。引っ越しが終わった巣が大きく、ずいぶんにぎやかになったころ、そろそろ来年の女王が産まれてきます」
ーちょうど今(9月初旬)、この引っ越しが終盤に差し掛かっている頃ということでしょうか。
(大野さん)
「そうです。引っ越しの時期、スズメバチ駆除のご相談が増えますが、これは狭い空間であまり気づかれなかった巣が、突貫工事で目立つ場所にいきなり巣ができているように見えたり、屋根裏のような広い空間で音がするようになったりするから、驚かれるようです」
「この引っ越し時期の巣は、あくまで仮住まい。女王がいない巣を何度駆除しても、そこが気に入った場所なら何度でもやってきて巣を作り事例も多くあります。せっかく駆除したのに、またスズメバチの巣ができている…こんなご相談もある時期です」
ー自宅周辺にスズメバチの新居をつくられていないか、チェックすべきですね。
(大野さん)
「ときどきおうちの周りを見てみたり、屋根裏や床下に飛び込んでいくハチがいないかを確認してみたりしましょう」
ー屋根裏や床下は、素人には確認が難しいですね。
(大野さん)
「スズメバチは毎年多くの人が刺される被害が出ており、怒らせると危険な生き物です。おかしいと思ったら専門家にご相談することをお勧めします」
「ちなみにオスが登場するのは恋の季節だけで、女王のように巣作りや子育てに参加したり、働き蜂のようにエサを探したりすることはありません」
「普段は巣の中でゆっくりと過ごし、恋の季節に仲間に追い出されて交尾した後は死んでしまいますし、この時期を過ぎても巣でのんびりしているものもいますが、巣に必要ないため追い払われて死んでしまいます」
「オスは自分で巣を作ったりする力はなく、針ももたないため攻撃性ももちません。オスは夏から秋にかけて自分のお姉さんたちに世話をしてもらって新しい女王と出会うためだけのヒモ的存在で、普段働いているのはすべてメスなのです」
ースズメバチ社会も大変なのですね…。
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