胃がんの原因「ピロリ菌」の研究に取り組む大分大学のチームは、世界的に胃がんの死亡率が高いブータンで撲滅に取り組んでいます。ピロリ菌の除菌環境を整備した『日本モデル』を現地で展開する大学の活動を取材しました。

がんや潰瘍で苦しんでいる国

30年、ピロリ菌研究に携わっている大分大学の山岡吉生医師。ブータンの国をあげた胃がん撲滅プロジェクトに携わっています。

ヒマラヤ山脈の東に位置する仏教王国ブータン。人口はおよそ78万人で、国民幸福度が高いとされ、「幸せの国」として話題になりました。

山岡医師はタイ人の共同研究者を通じて、ブータンの胃がん死亡率が世界的に高いことを知り、2010年から現地で検査を行いました。

山岡医師:
「400例検査してみたらそのうち5例、つまり1%以上が『がん』で、10%以上が『潰瘍』だった。がんや潰瘍で苦しんでいる国だということがそのときわかった」

国をあげた胃がん撲滅プロジェクト

胃がんの原因となるピロリ菌は、人の胃にしか存在しない細菌です。調査の結果、ブータンでは7割の人がピロリ菌に感染していることがわかりました。

2020年WHOのデータでは、ブータンでの胃がん発症率は世界8位で、死亡率は3位。日本の発症率は世界2位ですが、死亡率は37位となっています。

山岡医師:
「胃がんの人を調べるとほぼ100%大体ピロリ菌に感染している。感染したらみんな病気になるわけじゃないんだけども、感染している人は除菌が必要」

当時のブータンには内視鏡を扱える医師は1人しかおらず、機械も1台しかありませんでした。この唯一の医師、ロテ・ツェリン氏がその後ブータンの首相に就任したことで、国をあげた胃がん撲滅プロジェクトが始まります。

左)山岡吉生医師 右)ロテ・ツェリン氏

共同研究が進む中で日本から最新の機械も導入され、検査の精度をあげる環境が少しずつ整えられています。

山岡医師:
「ブータンの人口は80万人なんですが、世界初となる国民全員のピロリ菌を調べようと考えている」

全国民にピロリ菌の検査を実施へ

一方、医師不足を解消するため育成にも力を入れています。2か月ごとに大学から医師を派遣していてその結果、現地の内視鏡医は21人まで増えました。

大分大学にはピロリ菌を研究するブータン人留学生もいます。パッサン・ラモさんは、世界的に課題となっている耐性菌を調べていて、大学が11月からブータンで行う大規模な調査にも加わる予定です。

パッサンさん:
「現地では便検査によってピロリ菌を見つけ、帰国後は研究所を作りたい」

日本では2013年からピロリ菌の除菌が保険適用になりました。以降、胃がんによる死者数は減少しています。

日本の胃がん死者数

山岡医師は、除菌環境を整備した『日本モデル』をブータンに持ち込み、今後数年かけて全国民にピロリ菌の検査を実施し、除菌を行いたいと考えています。

山岡医師:
「ピロリ菌がない国を作ると、胃がんがない国にほぼなるんじゃないか。『日本モデル』を持ってきてやっていきたい」

大分大学が種をまいたブータンの人々の命を救う活動は、現地と大学を中心に支援の輪が広がり、新たな段階へと進んでいきます。

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