バス運転手についての特集です。バスの運転手は、4月の労働基準の改正で拘束時間の上限が年間80時間減りました。また、退勤から出勤までの時間はこれまで最低8時間必要でしたが、最低9時間、原則11時間に伸びました。余裕を持った勤務体系にするためにはこれまで以上に運転手が必要となりますが、今、人手不足が深刻だといいます。1人の運転手に密着しながら、バス運転手と業界の今を取材しました。

広島市の郊外にあるバスの車庫。森本託実さん(24)は中国ジェイアールバスで運転手をしています。取材したこの日は、広島市安佐北区の高陽と広島バスセンターを結ぶ路線バスの担当です。

バス運転手 森本さん
「大きい車体を軽がると操る運転手がかっこいいなって昔から思っていたんですよ。やっぱりお客さんの笑顔が直接見られるバスの運転手なりたいなって。

決まったところを走るだけと、簡単そうに聞こえるかもしれないですけど、お客様をいかに起こさないようにとか、酔わさないようにと考えたら、ブレーキの使い方やアクセルワークも、少しの力加減で車体が大きく揺れたりしてすぐに分かる。そこをいかに極めながら毎日運転するかっていうところが醍醐味ですかね」

こまめに停留所に止まるバスは通勤や通学、買い物など人々の生活を支えています。しかし、バス業界では運転手不足が深刻化。広島市やバス会社の調査によると、広島市内で路線バスを運行する8社のバス運転手は、2032年には、2022年に比べて14%減ると試算されています。

中国ジェイアールバス 酒井俊臣社長
「残念ながらバス業界全体として、若干 労働条件が厳しいっていう面ばかりが目立ってきて、どうしても新しく入って来る人がいない。年配者の人が退職していくということで、労働力は明らかに減ってきてる。これだとほんとに休みが取れなくなってしまう。もう泣く泣くもう便数を落とさせていただくと」

「命を預かる仕事。その分…」運転手の本音は

厳しいと言われる労働条件。運転手の森本さんはどう思っているのでしょうか。

バス運転手 森本さん
「拘束時間が長いですね。この仕事の特性上、やっぱり朝と夕方にお客様が集中するので、その時間帯にいかに走らすかだと思うんですよ。会社的にも、バスの業界的にも」

通勤ラッシュにバスを運行するためには、出勤は早く、退勤は遅くなり、拘束時間が長くなります。

バス運転手 森本さん
「どうしても運賃を上げにくいこともあり、その分給料も上がらないというのもあるので。人の命を預かる仕事だし、そのリスクが常にあるので、その分やっぱり給料をもう少し高くしてもらえたらな、というのはありますね。言っちゃった笑 うちの会社だけじゃなくてこの業界の問題だと思います」

他業種からの転職や、会社の移籍など、中途採用率が高いバス業界ですが、中国ジェイアールバスでは高校へのアプローチを強化しているといいます。

さらに、2022年の法改正でバスの運転に必要な大型二種免許の取得年齢が、19歳に引き下げられたことで、広島交通などでも高卒採用を強化しているということです。

森本さんも、高校を卒業してすぐ中国ジェイアールバスに就職。3年前に念願のバスの運転手になりました。

バス運転手 森本さん
「3年乗ってますけど、まだ事故やぶつけたことは1回もないので、そこは経験がなくても、もし興味がある人がおるんだったらチャレンジしていただければと思います」

初任給の大幅アップ 各バス会社も人材確保へ採用を活発化

なんとか運転手を確保しようと、県内のほかのバス会社でも採用に向けた動きが活発化しています。

広島市の中心部を走る広島バス。通称「赤バス」です。

広島バス 労務課 宮森雄太さん
「なかなか採用が厳しい状況で、近年かなり減少傾向にあります。昨年と比べたら10人以上は減っている状況です。いまいる運転手の方に、公休出勤、休日出勤をお願いして欠員をまかなっている状況です」

広島バスでは、現在20人程度運転手が不足しています。平均年齢は50歳を超え、運転手不足は今後も続く見込みです。そこで、運転手を確保すべく、初任給を大幅に引き上げることにしました。広島バスでは、3月から初任給を3万4500円アップ。

広島県内では広島電鉄でも、バス運転手の基本給を4月から1万3500円引き上げました。

広島バス 労務課 宮森さん
「ここ最近、1、2週間前ぐらいから、応募の連絡をいただくようになりまして、本日(取材は4月3日)も試験させていただいたんですが、6名の方に来ていただきました」

ほかにも、バス運転手の業務内容についての見学会を毎月開催しているほか、バスの運転に必要な大型二種免許の取得費用を会社が負担するといった取り組みを行っています。地域のインフラを守れるのか。バス会社の模索は続きます。

◆広島県内のバス路線にも影響が・・・
県内では3月から4月に掛けて、バス運転手不足などもあり、バス路線の減便や廃止が相次ぎました。

広島バスセンターと広島大学を結ぶ「グリーンフェニックス」や、広島バスセンターから呉市を経由して大﨑下島を結ぶ「とびしまライナー」は赤字などもあり、3月末で路線が廃止となりました。

減便によって最終バスにも影響があり、広島市中心部から安佐南区の毘沙門台にむかうバスは、平日ダイヤでもともと深夜1時前に中区の紙屋町バス停を出発していましたが、広島バスセンターを夜10時前に出発する便が最終となり、約3時間最終便が繰り上がりました。

ほかの路線にも影響が出ています。主な路線は以下の通りです。
・広島交通 「広島市街~可部・勝木/大林方面」「広島市街~高陽・深川方面」「広島市街~旧道~春日野/安佐大橋方面」などが減便
・広島電鉄 「上根・吉田線(広島市街~吉田)」「熊野線(広島市街~熊野)」が減便(沿線人口・バス利用者数の減少のため)
・中国ジェイアールバス 「西条線(呉駅~西条駅)」が減便
・芸陽バス 「八本松駅~西条駅線」「三原~竹原線」などが減便
・中国バス 「多治米車庫線(福山駅~多治米車庫)」などが減便
・鞆鉄道 「三成線(松永駅北口~三成)」「福山大学線(福山駅~福山大学)」などが廃止
・高速バス 「フラワーライナー(広島~尾道・因島)」「新広益線(広島~戸河内~益田)」などが減便

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