平成の大合併が始まって20年。地域の今を見つめる特集「ふるさと新時代」です。今回の舞台は、鹿児島県の西南端の枕崎市です。
枕崎市で、寒いところを好むサーモンを養殖し、新たな特産品にしようという事業が始まっています。
ずらりと並んだビニールハウス。そのなかでつくられているのは農作物ではなく…「サーモン」。よく食べるすしネタランキング(マルハニチロ調査)でも13年連続1位と、人気の高いサケ科の魚です。
そのサーモンの陸上養殖を薩摩半島の西南端・枕崎市で始めたのが、今村将隆さんです。これまで飲食店や遊技場などサービス業を中心に営んできた会社の社長で、養殖が始まったこの場所も去年10月まではパチンコ店でした。
(今村将隆さん)「人口減少と業況の落ち込みで閉店」
枕崎市の人口は、20年前、2万5000人を超えていましたが、去年は1万8000人程度とおよそ3割減少しました。今後も人口の減少が見込まれるなか、枕崎でなにか新しいことを始めようと探していたときに出会ったのが、サーモンの陸上養殖でした。
(今村将隆さん)「海洋環境の変化などで、魚がとれなくなっている状況。八代で陸上養殖をしている人がいるということで紹介されて」
枕崎で行われている陸上養殖の仕組みを開発したのが、熊本県八代市の平山正さんです。
一般的に陸上での魚の養殖には数十億円におよぶ費用がかかりますが、平山さんのシステムは、ホームセンターなどで購入できる身近な道具や資材で設備を整えることができ、400万円程度と低コストで始められます。
川や海の近くではなくても、設置スペースさえあればサーモンの陸上養殖ができるため、全国的にも広がりつつあります。
(陸上養殖システムを開発した平山正さん)「これまでの環境・担い手など困ったところに広げて、それを鹿児島から全国に広げて、海外にも出せることを期待している」
現在、国内消費量の7割をチリやノルウェーからの輸入に頼っているサーモン。輸送コストの増加などで価格の上昇も懸念され、国内での安定した供給が求められています。需要が高まるなか、すくすくと育っている枕崎のサーモン。
(記者)「(試食して…)甘いですね」
(今村将隆さん)「エサにヨーグルトと粉ミルクを混ぜている。甘みの秘訣」
品質をさらに上げるための特徴が「水」です。地下水を使うことで赤潮の被害をうけず、寄生虫なども入らないといいます。
Q.生けすは独特の香りが、ここはしないが?
(今村将隆さん)「地下水をかけ流しで使っているので、サーモンの臭みも軽減できる」
地下水をさらに有効活用する取り組みも…。
養殖で出た排水を利用した水耕栽培です。バクテリアがエサの残りや糞が混ざった排水を植物の栄養素に分解。栄養素を含んだ水で野菜を栽培し、残りの水を自然に戻します。
水を循環させる環境にも配慮したサーモンづくりですが、枕崎の地下水はサーモンにとっては温度がやや高めだといいます。
(今村将隆さん)「(サーモンの)適温が15度から20度くらいと言われていて、今ここで21度あるが、順調に育っている」
水温をカバーするために酸素濃度を調整することで、枕崎での養殖を可能にしました。
水温のほかにも、乗り越えなければならない枕崎ならではの強敵が…。
台風銀座ともいわれる枕崎。今年8月の台風10号では最大瞬間風速51.5mを観測しました。養殖場もビニールハウスなどが飛び、1万匹中500匹ほどが被害にあいました。
試行錯誤を重ねながらもサーモンとむきあった1年。今月下旬に、初めての出荷を控えています。
(今村将隆さん)「できただけほしい、という問い合わせがたくさんきた。ありがたい」
現在24の生けすがありますが、すでに供給が追いついておらず、将来的には、南薩地域を中心に200個ほどに増やす計画です。
事業の拡大では新たに70人ほどの雇用も生まれる見通しで、サーモンが枕崎の地域活性化につながればと期待しています。
(今村将隆さん)「枕崎はカツオの街なので、(サーモンが)新たに枕崎の目玉になるように、商品の開発や地方の雇用の創出で地方の活性化を目標にしている」
「陸上サーモン」が枕崎の新たな特産品として、地域をさらに盛り上げる日もそう遠くはないかもしれません。
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