「子ども第三の居場所」学校でも家庭でもない、安心して過ごせる場所のことです。子どもたちに、そうした場を提供し、行政や市民、企業をつなぎながら、人や地域と関わる力や生活習慣などを育てようと、公益財団法人「日本財団」が取り組んでいます。

全国に236の拠点施設(24年9月時点)があり、山口県内には、2021年に宇部市に初めての拠点ができました。立ち上げたのは地元の小児科医院長。さまざまな角度から子どもや親を支援しています。その取り組みを取材しました。

「友達と同じごはんが食べられてうれしい」共に食べるよろこびを共有

山口・宇部市の中心部にある西法寺。調理場では食事の準備が進んでいます。

子ども食堂「みんにゃ食堂」で提供する約300食を調理します。新鮮な野菜や菓子など、食材のほとんどは地元企業などからの寄付でまかなわれています。

午後5時。オープンと同時に親子連れらで会場はいっぱいになりました。

この日のメニューはカレーライスに旬のサツマイモを使った副菜。子どもたちは、栄養満点の食事をおいしそうに口に運びます。

「みんにゃ食堂」は月に1回から2回の開催で子どもから高齢者まで、誰が来ても無料で食事を楽しめます。

赤ちゃんの母親
「夫の仕事が遅いことが多いので、ふたりで食べるのはさみしいですし、貴重な場所だと私は思っています」

友達の家族と一緒に来た子ども
「友達と同じごはんが食べられてうれしい」

6人家族(子ども4人)
「みんないっぱいよく食べます。みんなで集まって大勢でわいわい食べる場所ってないから、こういう場所で食べるっていうのは子どもらの経験にもなるしいいかなと」

開設から7年がたち、地域の「交流の場」として定着した感があります。

スタッフはほとんどがボランティア。宮下悠子さんは開始当初から受付を担当しています。

宮下悠子さん
「7年間欠かさず来てくださっている方もいるので、ここで会うのが楽しみのひとつになっています」

「みんにゃ食堂」を立ち上げたのは小児科医!?

「みんにゃ食堂」を立ち上げたのは、金子小児科の金子淳子院長です。

金子小児科・金子淳子院長
「今は孤立した子育てといって家庭が地域に対して閉じがちになるけれども、地域の中で地域のみんなが子育て家庭を支えるっていう雰囲気づくりができたらいいなと思って」

子どもの健やかな成長には、医師としての診療だけではなく環境を整えることも大切だと考えています。

食事の提供にとどまらずさまざまなイベントも開いて、子どもたちが喜ぶ姿を見てきました。

しかし、コロナ禍にはみんなが集って食事をすることは難しくなりました。代わりに弁当の無料配布を始めましたが、このときに気付いたことがありました。

コロナ禍で見えてきた課題 「来るのを待つ」のではなく「働きかける」

金子小児科・金子淳子院長
「それまでと全く違う光景が目の前にやってきて、いつも来たことのない人たちが、行列を作ってお弁当を待つ姿だったんです。こういうみんにゃ食堂のようなにぎやかなかたちでは来ることが出来ない人がいるということに気がつきました」

食事を必要としている人のなかには、遠慮があったり、大勢の人といるのが苦手だったりと、さまざまな理由で子ども食堂に訪れることをためらう人もいました。

金子院長は「来るのを待つ」のではなく、「働きかける」ことが必要だと考えました。

困難を抱える子育て世帯が孤立しないよう支援する国の事業で始めた「うべおたすけまんぷく便」では市と連携し、困窮度の高い家庭に対して食材を届ける活動に直接関わりました。その中でいろいろな状況の子どもたちと出会い、必要なことが見えてきたそうです。

金子小児科・金子淳子・院長
「どこか拠点となるようなところが欲しい。そこにはいろんな機能、例えば子ども食堂もそこでやりたいし、食事の配食もしたいし、学習支援もしたいし、加えて宿泊出来るところ、いざというときに避難場所になるような場所が欲しい。自分自身の活動の目印というか指標になるような拠点が必要だなと思うようになって」

こどもや地域を包み込む「安心できる居場所」目指して… 

2021年8月に、「日本財団」の事業「子ども第三の居場所」の、山口宇部拠点として「キッズラップ」を開設しました。

子育て世帯支援の活動で得られた情報や、市から寄せられた情報で支援が必要だと判断された子どもたちが、学校終わりに「安心できる居場所」として過ごします。

こどもたち(KIDS)をつつみ込む(WRAP)場所になればと名付けました。

色々なことを体験してもらおうと、イベントも定期的に行っています。

2023年に初めて催した沖縄旅行では子どもたちに大きな変化が見られました。

金子小児科・金子淳子・院長
「あいさつをするようになって、お互いを思いやることが出来るようになって社会性が芽生えたというのかな。変容していく子どもたちの姿を見ると、また私たちも頑張らなきゃと思うし、そこにすごく可能性を今感じているところです」

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。