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今年のノーベル物理学賞と化学賞で、AI=人工知能の研究が受賞しました。ノーベル賞の史上、異例のAI関連の連続受賞です。

薬を開発する企業では、AIの活用が浸透しています。

ペルセウスプロテオミクス・萩原真二研究開発部長
「(薬の開発は)トータル10年以上かかるが、最初の研究にかかる5年、7年のところは、1年くらいは短くなる可能性が高い」

Epsilon Molecular Engineering 根本直人社長
「(薬の開発に)かかる研究費が安くなってくる。それによって結果的に薬価とかも低く抑えられる」

ノーベル化学賞を受賞したデミス・ハサビス氏とジョン・ジャンパー氏。
2人が開発したAI『アルファフォールド』は、タンパク質の立体構造を予測することができるというもの。化学研究において、“大きな革命を起こした”と評価されました。

選考委員
「タンパク質の立体的構造を知るのは、科学者の夢だった。それは不可能とされていた。2人は、2020年にその暗号を解読した」

筋肉から細胞ひとつにいたるまで、私たちの身体はタンパク質でできています。タンパク質のもととなるのは、鎖のように並んだアミノ酸。この鎖が折りたたまれてタンパク質がつくられますが、どんな形をしているのか、1つ解明するにも数年から数十年かかっていました。しかし、このAIを使うと、瞬時にタンパク質の立体構造を予測してしまうのです。

開発を始めたのは2016年。わずか8年でのノーベル賞の受賞。AI技術が化学研究にもたらす影響の大きさを象徴しているのかもしれません。

Google DeepMind デミス・ハサビスCEO
「ノーベル賞が設立されたのは100年以上前です。当然ながら、当時はコンピューター科学は存在しません。いまでは、AIがツールとして科学分野に大きな影響を与えています」

Google DeepMind ジョン・ジャンパー氏
「ノーベル賞は、人にとって重要な科学分野をたたえるもので、『いま、AIが科学を変えている』と評価しているのです」

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■日本で進む研究への応用
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“ツールとしてのAI”。日本でもすでにその効果がみられてきています。

糖尿病の治療に関わるタンパク質を研究する福田さん。このAIは、なくてはならない存在です。

順天堂大学大学院医学研究科難病の診断と治療研究センター 福田宏幸さん
「アルファフォードで予測したタンパク質の立体構造。ほとんど寸分たがわぬ精度で予測できている。単純にタンパク質がどんな形をしていて、どこに結合し、病気がおこったり、薬が効いたりということが、立体構造がわからないと、やみくもに手あたり次第やっていくしかない。立体構造をベースに、いろんな創薬の戦略を立てられるようになった。これまで全く手掛かりのない、雲をつかむような世界だったのが、ようやくアプローチ可能な手が届きそうな領域に来ているのかなと」

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■AIが変える「科学のあり方」

◆AIが“科学”のあり方、そのものを大きく変えようとしています。

AI研究の第一人者、東京大学大学院の松尾豊教授に聞きました。

松尾教授は「科学は今まで、人間が仮説を立て、実験をしてトライアンドエラーを繰り返すことで結果を出してきた。それが、AIを使うことで、トライアンドエラーがなく、簡単に短時間で“結果”が出てきます。ただ、なぜ、その“結果”が出たのか、その部分はブラックボックスになってしまう」といいます。

今回、AIでヒトの体を構成するタンパク質の形を簡単に予測できるようになることで、その体に効果的に働く薬を見つけることがより簡単になります。がんや難病などに効く薬や、治療法のさらなる開発につながると期待されています。    

過程が見えないのは、ちょっと不安もありますが、これについて、松尾教授は「人間の理解を超えたブラックボックスができてしまうが、今後、AIが発展していけば、より一層、こうした傾向が強まる。ノーベル賞は、“これも一つの科学の形だ”と示した」としています。

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