ドバイ万博のウクライナ館を訪れた吉村洋文大阪府知事(左)と松井一郎大阪市長(当時、右)。館長に2025年大阪・関西万博への参加を要請した=2022年3月31日、ドバイ

国際社会では国家の利害と思惑が衝突する。その最たる例が戦争だ。多数の国が参加し融和を演出する万博も、戦争がもたらす影響と無縁ではいられない。

「Pray for peace」(平和を祈る)

ロシアのウクライナ侵略から1カ月後の2022(令和4)年3月末、吉村洋文大阪府知事はウクライナ支援のメッセージを英語で書き込んだ。

場所は、アラブ首長国連邦を舞台にしたドバイ万博ウクライナ館。松井一郎大阪市長と2025年大阪・関西万博に向けて「どんな協力でもする。参加してほしい」と館長に伝えた。

ウクライナ参加は

25年万博のテーマの核心は「いのち」だ。文字通り命を懸けて国家の存立を死守せんとするウクライナが参加すれば、命の価値や生きることの意味を、リアリティーと訴求力をもって来場者に問いかけることになるだろう。

松井氏から25年万博ロゴマーク入りのバッジを贈られた館長は「どうなるか分からないが、ぜひ参加したい」と応じた。しかし戦争は長期化し、戦況は予断を許さない情勢が続く。

一方のロシアは、23年11月の博覧会国際事務局(BIE)総会で、25年万博への不参加を表明した。戦争という非情な現実を前にして、融和を演出するはずの万博は無力なのだろうか。

振り返れば、万博はこれまでも戦争に翻弄されてきた。日本が計画した1940年万博は日中戦争の激化で幻に。第二次世界大戦の混乱から約20年の「空白」を経て、58年に戦後初のブリュッセル万博が開かれる。

同万博は「科学文明とヒューマニズム」をテーマに、知の産物たる原子爆弾が広島と長崎にもたらした惨禍を知らしめた上で、先端技術によって人類は人間性を喪失していると警鐘を鳴らした。

役割は「対話の場」

そしてアジア初開催の70年大阪万博。開会式で佐藤栄作首相は「国際間の平和を維持増進するためには(中略)各地域、各民族間の文化的な面での深い相互理解と信頼がますます必要になってきている」とあいさつし、万博の役割は「世界的な対話の広場として、十分な効果をもって役立つ」ことだと述べた。

日本を除く参加国は欧米やアジア、アフリカなどの76カ国。ただ日本と国交がなかった現在の中国や、米国と戦争中のベトナム民主共和国などは不参加で、佐藤首相の言葉には東西冷戦の対立構造が反映されていた。

東側陣営から参加したソ連は、融和や協調といった路線ではなく、宇宙開発技術の展示を巡り、米国との間で国家の威信を懸けた覇権競争を繰り広げた。

半世紀余りが経過した現代ではロシアによる侵略だけでなく、イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスの紛争も続く。70年万博の基本理念がうたう世界は、いまなお果たされていない「理想」といえる。

《私たちはこの世界を、完全な平和が支配し、真に人類の尊厳と幸福をたたえうるところのものとして、次の世代につたえたい》(肩書は当時)

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