司法当局の事情聴取に応じるため、自宅を出る台湾民衆党の柯文哲主席(中央)=台北市で30日午前11時50分、黄冠傑撮影

 台湾の検察当局は30日、立法院(国会)の第三勢力「台湾民衆党」の柯文哲(かぶんてつ)主席(党首)の自宅や事務所、党本部を家宅捜索した。検察は台北市内の商業施設整備に絡む汚職事件の捜査を進めており、当時市長を務めた柯氏が関与した疑いが浮上している。

 民衆党は2大政党による政治腐敗を批判して若者らの間で支持を拡大。だが自ら政治とカネに関する疑惑を抱えることになり、支持率が急落している。

司法当局の事情聴取に応じるため、自宅を出る台湾民衆党の柯文哲主席=台北市で30日午前11時50分、黄冠傑撮影

 30日早朝、台北市中心部の柯氏の自宅に捜査員数人が入った。司法当局の聴取に応じるため、自宅を出た柯氏は報道陣に「自分に問題はない。当局は捜索に踏み切った証拠を示してほしい」と潔白を主張した。

 汚職事件では、2020年ごろから民間企業が規定より高い容積率を認めるよう市側に求め、市が便宜を図った疑いがある。台湾メディアによると、検察は30日、業者や金を受け取って市側に口利きしたとされる市議らを拘束。柯氏や都市開発の責任者だった当時の副市長らの関与の有無や、金の流れを調べている。

 柯氏が立候補した1月の総統選を巡る政治献金の疑惑も浮上している。当局に提出した資金報告書で、選挙集会の運営を請け負った業者への「報酬」として記載した金額の一部が、実際には支払われていなかったことが発覚。地検が文書偽造容疑で捜査中だ。

 民衆党は29日に記者会見を開き、総額1937万台湾ドル(約8780万円)分の申告に漏れや誤りがあったと発表した。柯氏は「小さな党でダブルチェックが行き届かなかった」と陳謝。3カ月間、党首の職務を離れると述べた。

 医師の柯氏は19年に党を結成。民進党や国民党で相次ぐ政治とカネの問題を歯に衣(きぬ)着せぬ口調で批判する姿勢に、若者らの支持が集まった。

 1月の立法委員選(改選数113)では最大野党の国民党が52議席、与党の民進党が51議席といずれも過半数に届かない中、8議席を獲得してキャスチングボートを握った。少数与党の頼清徳政権では、国民党と民衆党が連携して立法院の権限を強める法案を成立させるなど、野党主導の審議が目立った。

 だが汚職疑惑が浮上し、「結党以来最大の苦難」(同党関係者)に直面している。民間団体「台湾民意基金会」による世論調査によると、1月時点で22・5%だった支持率は、8月20日発表分では13・7%と約9ポイント低下した。

 新興の民衆党は柯氏の個人的な人気に支えられており、スキャンダルは党の泣き所を直撃した格好だ。民進党の立法委員は「一部の若者にとってカリスマだった柯氏のイメージは一変した。影響力を取り戻すのは容易ではないだろう」と話した。【台北・林哲平】

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