ソウルで口紅を試す客(2013年8月6日) REUTERS/Lee Jae-Won

<政府の必死の少子化対策にもかかわらず、若者の間では結婚という「非現実的なゴール」のためにあくせくするより、いま好きなことにお金を使うほうがいいと、デパートで贅沢品を買い漁るYOLO派が増えている。合言葉は「人生は一度きり(YOLO)」だ>

「家庭を持つより、自分のためにお金を使ったほうがいい」──物価の上昇と住宅価格の高騰で前途に希望が持てなくなった韓国の若者の間で今、そう開き直る風潮が広がっている。

世界最速ペースで少子化が進む韓国では、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が今年6月に「人口非常事態」を宣言。国を挙げて人口減少を止めようと、政府は必死で対策を進めているが、そうした試みもむなしく、若い世代の間では結婚離れが進んでいる。

韓国では2023年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数)が0.72と、前年の0.78を下回り、8年連続で過去最低を記録した。政府は2021年までの16年間に少子化対策におよそ280兆ウォン(約2100億ドル)の予算を投じたが、効果はほとんどなかったようだ。

このまま人口が減り続ければ、中国、日本、インドに次ぐアジア第4位の経済大国の地位も危うくなる。そのため尹政権は今年、少子化対策を総合的に指揮する「低出生対応省」(仮称)を新設する方針を打ち出した。

だが韓国のY世代とZ世代にはすでに、「結婚・子育ては必ずしもライフプランに入れなくていい」という意識が浸透しているようだ。

自分のためにお金を使いたい

「この世代はネット上のステータスを求める傾向が強い。今の韓国では結婚して子供を持つことは経済的なハードルが高すぎる。そんな非現実的なゴールのためにあくせくするより、好きなことにお金を使い、それをSNSでアピールするほうがいいと、若者たちは考えている」ソウル女子大学の鄭宰薰(チョン・ジェフン)社会学教授はそうロイターに説明した。

韓国は1人当たりの贅沢品の購入額が世界でも突出して多い。金融大手モルガン・スタンレーの2023年の調査によると、日本の210ドル、アメリカの280ドルに対し、韓国は325ドルだ。

特に20代、30代はデパートで買い物をする割合が多い。クレジットカード会社の現代カードの調査によれば、3年前と比べ、消費支出に占めるデパートでの買い物の割合は全年代で低下しているが、20代だけは例外で、3年前の2倍近い12%をデパートでの買い物に使っているという。

支出が増える一方で、貯蓄額は減っている。韓国の中央銀行・韓国銀行によると、30代の韓国人は2019年の第1四半期には平均して所得の29.4%を貯蓄に回していたが、今年同期にはこの割合は平均28.5%に減ったという。

「私は完全なYOLO派」と、ロイターの記者に打ち明けたのは、好みのファッションをインスタグラムに投稿しているソウル在住の28歳の女性、パク・ヨンだ。YOLO(ヨーロー)とは、You Only Live Onceの頭文字を取った略語で、人生は一度きりだから、今を思いっきり楽しもうといった意味合いを持つ。人気ドラマをきっかけに、そうしたライフスタイルが若者の間で熱狂的な共感を呼んだ。

「自分へのご褒美をいろいろ買うから、貯金に回せるお金は毎月ほとんど残らない。結婚はいつかするかもしれないけれど、いまハッピーなことのほうが大事じゃない?」と、パクは言う。

若者の意識につて本誌は在米韓国大使館に書面でコメントを求めたが、今のところ回答はない。

アメリカの非営利調査機関、人口問題研究所のジェニファー・シューバCEOによると、東アジアでは結婚すれば子供を産むのは当然と考えられ、家庭を持ってようやく一人前の大人と見なされる風潮があったが、今の若い世代の間ではそうした意識は薄れているという。

「特に女性にとって結婚は生計手段でもあったが、今ではそういう考えも廃れている」

若年層の意識は上の世代の意識とはギャップがあり、政府がいくら少子化対策の旗を振っても、現状では効果は期待できそうにない。

韓国女性家族省が昨年実施し、今年5月に発表した調査によれば、13〜24歳の回答者のうち、「結婚は必要」と答えた人は38.5%で、2017年と比べ12.5ポイントも低下した。しかも10人中6人は「結婚しても必ずしも子供を産む必要はない」と回答した。

厳しい住宅事情や多額の教育費が掛かる受験競争といった現状が変わらない限り、若い世代が結婚・子育てに消極的になるのも無理はない。特に働く女性にのしかかる子育て・介護負担は大きく、現金支給や育児休暇など現行の子育て支援策では、出生率上昇は望めないと、シューバは指摘する。

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