緊張が高まる中東情勢。4月に入り、シリアにあるイラン大使館が攻撃を受けたことをきっかけに、イスラエルとイランの間で応酬が続いています。
イスラエルへの支持を打ち出してきたアメリカはどう対応するのか。絡み合う大国間の思惑を取材しました。

「政権は腐敗している」人々の関心はガザでの紛争に

イラン・イスファハンへの攻撃があった日、イスラエル中部の大都市テルアビブには普段と変わらない生活があった。

増尾聡記者
「テルアビブは、町には市民が多く繰り出し、平穏です」

テルアビブの人
「え、イスラエルが攻撃したの?私は知りませんでした」
「よくわかりません、何の思いもありません。攻撃したのは良かったのではないですか」

人々の関心は今回のイランへの攻撃ではなく、長引くガザでの紛争に向けられている。ハマスに拘束された100人以上の人質が解放されないことに批判が高まっているのだ。

増尾記者
「テルアビブ市内には数千人規模の人が集まり集会が開かれています」

シュプレヒコール
「今すぐ動け。行動しよう」
「人質交渉はどこへ行ったんだ」

デモの参加者
「この恐ろしい政府は国民から今は全く支持されていません。ネタニヤフ氏はハマスに対する軍事目標を示していません。人質の命を危険にさらし、たくさんの人質が亡くなっています」
「政権はあまりに過激な右翼で、腐敗しています。彼らがこの戦争を泥沼化させています。人質の救出をおざなりにして、自分の政治的な問題ばかりを重要視していますね」

そのネタニヤフ政権の強硬姿勢を加速させたのが、アメリカのトランプ前大統領だ。豊富な資金でアメリカの政界にも大きな影響力を持つユダヤ系。

その集会(AIPAC=アメリカ・イスラエル公共問題委員会)で、トランプ氏は8年前にこう宣言していた。

トランプ前大統領
「ユダヤ人の永遠の都エルサレムに、アメリカ大使館を移転します」

イスラム教の聖地でもあるエルサレムへの大使館移転は、ネタニヤフ政権の大きな功績となった。

一方でトランプ氏は、イスラエルとアラブ諸国の国交正常化を後押し、パレスチナは追い詰められていった。

そして、2023年10月にハマスの攻撃を機に始まった戦闘は、ガザ地区の深刻な人道危機に発展している。

イスラエルのシンクタンク「イスラエル民主主義研究所」が1月に実施した世論調査では、ネタニヤフ氏の続投を望む人は15%にまで落ち込んだ

「ネタニヤフ氏は極右政党の小間使い」元首相が語るイスラエルの内情

強硬姿勢を崩さないネタニヤフ氏を強く批判する人がいる。イスラエルの元首相、エフード・バラク氏だ。

イスラエル元首相 エフード・バラク氏
「ネタニヤフは国民の信頼を完全に失いました」

バラク氏は1999年から2001年にかけてイスラエルの首相を務めた。パレスチナとの和平交渉で協議を重ね、パレスチナを国家として認める案にも理解を示した。

イスラエル元首相 バラク氏
「イスラエルは、超大国の後ろ盾なくして、決して全面戦争をしてはならないのです。最優先すべきは、どんな対応をとれば、中東での戦争を引き起こさないか考えることです」

ネタニヤフ氏には連立を組む極右政党に頼らなければ、政権が維持できない事情があるのだとバラク氏は語る。

イスラエル元首相 バラク氏
ネタニヤフは彼らの小間使いのように振る舞い、奴隷のように仕えています。政治家としての戦略やリーダーシップ、資質を欠き、過激主義に陥るのは悲劇です」

さらに、バラク氏はネタニヤフ氏が権力に固執する個人的な理由が2つあると指摘する。

1つは、2020年に収賄などの罪で起訴され、裁判を受ける身となっていることだ。首相を務めている間に、自分に有利になるよう司法制度を変える狙いがあるのだという。

2つ目が自分の父親が歴史家であるため、歴史は勝者によって作られると信じているからだという。

イスラエル元首相 バラク氏
「ネタニヤフは、国の歴史上最もひどい失態をさらしたまま終わったら、それが自分の政治的遺産になってしまうとわかっているのです。そうならないために彼は何とか権力を維持しようと全力を尽くしているのです」

イランは反撃で「攻撃されればすぐ応戦できる」と示す狙い

イランが、今回、反撃に踏み切った背景には何があるのか。

シリアの大使館が攻撃された際、狙われたのが革命防衛隊。1979年に起きたイラン革命の直後、故・ホメイニ師が創設した最高指導部直属の精鋭部隊だ。

かつて司令官を務め、現在はイランの国会議員である男性が取材に応じた。

革命防衛隊元司令官 ラシド・ジャラリ・ジャファリ議員
シリアで私たちの大使館が攻撃されたことは、イランの領土が攻撃されたのと同じことです。イスラエルが国際法を無視したのです。我々は外交と安全保障の戦略上、長年我慢してきましたが、限界に達しました。イラン国民の期待にも応えなくてはいけません。そのため、応戦せざるを得なかったのです」

村瀬健介キャスター
「イランは今回の攻撃でどのようなことを成し遂げようとしていたのでしょうか?」

革命防衛隊元司令官 ラシド・ジャラリ・ジャファリ議員
「攻撃ではなく防衛です。我々は強い独立国ですから、攻撃されればすぐ応戦できるのです。イスラエルに対し、イランの領土内からも反撃できることを示したのです」

そして、19日のイスラエルからとみられる攻撃。当初はミサイルとする報道もあったが、イラン国営通信は、「3機のドローンを確認し撃墜した」などと報じた。

19日のテヘラン市内。イランでは金曜日は休日で、子どもたちが公園で遊ぶなど日常の風景があった。

ロイター通信によると、イラン当局高官は「即時の報復の計画はない」と話しているという。

イスラエルの攻撃の背景には“アメリカの影響力低下”

イランとイスラエルの応酬は今後も続くのか。慶応大学の錦田教授は…

慶応大学 錦田愛子教授
「前回と同じように大規模な攻撃にイランが出ることはないと思います。国のメンツを維持することが重要で、ヤクザ同士の殴り合いのような状況。大国間同士の戦闘の可能性がゼロではないし、お互いにそれができることをポーズとして示している状態かなと思います」

シリアのイラン大使館への攻撃を行ったとみられるイスラエル。背景には、アメリカの影響力の低下があると話す。

慶応大学 錦田教授
「対テロ戦争で軍を投じることが、アメリカの政策としてリストから消えた今、(アメリカは中東を)抑えるつもりすらないのではという感じがします。

アメリカの市民にとって、自分たちの税金がガザで落とされる爆弾に消えていく、アメリカがイスラエルを軍事支援することによって、その軍事支援がガザの人たちの命を奪うことに繋がっていくという意識がすごく強く明確にあるみたいなんです。

そうした批判を受け続けることで、バイデン氏は大統領選挙で不利になっていく。それを回避するためにもイスラエルに対して、苦言を呈している状況に今なっている」

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