埼玉県にガザ地区への攻撃に反対を訴える元イスラエル軍の兵士がいます。去年10月以降、毎週講演を行うなど、未来のために続けているという平和活動を取材しました。

ダニー・ネフセタイさん
「あの10月7日から今日で9カ月になります。その9カ月で数万人が亡くなって本当に悲しい、悲しい歴史の一つが今、現在も刻まれています」

 反戦と平和を訴える講演は去年10月以降、100回を超えました。

 埼玉県皆野町に住む木工職人のダニー・ネフセタイさん。初めて日本に来たのは1979年、イスラエル空軍で3年間の兵役を務めた後のことでした。

ダニー・ネフセタイさん
「戦闘機のパイロットは国を守るため練習している人。人を殺すための練習をしている人間じゃない。皆、すごい人と考えていた。戦争になって敵を殺すのは敵だから殺すのは仕方がない。国を守るため敵を殺すのはやむを得ない。そういう(考え方の)人間でした」

 当時は「国のために戦うことは誇らしいこと」と信じて疑いませんでした。その後、妻・かほるさんと出会って結婚。埼玉県へ移住します。

ダニー・ネフセタイさん
「籍を入れたのは85年。80年から一緒にいる」

吉川かほるさん
「ジョン・レノンが亡くなった年(1980年)、私まだ大学生だった。下北沢で」

ダニー・ネフセタイさん
「相当な時間、一緒にいるよ」

 かほるさんと同じ時間を過ごしていくうちに、徐々に考えが変わっていったといいます。

ダニー・ネフセタイさん
「私が当然と思ったことは、うちの妻にとっては当然じゃない。うちの妻にとって当然と思ったことは私にとって当然じゃない。お互いに、あれ?何か私たちは全然、価値観が違う。どっちが正しいか、どっちが正しくないかは時間はかかるけど。だからやっぱり自分の国を離れて、自分の国を外から見る。そしたら違う国の人と一緒に生活すると今まで気付かなかったことに気付きます」

 そして、転機となったのが2008年。自身が所属していた空軍がガザ地区に大規模な空爆を行い、多くの市民が犠牲となりました。

ダニー・ネフセタイさん
「子どもの死を見て、何かおかしいぞと思って、そこでパンってガランと(考えが)変わったの」

 その後、ダニーさんは平和を訴える講演を始めます。しかし、イスラエル国内ではダニーさんのような考え方は少数派で、国を守るためには武力行使を辞さないという考え方が主流です。

 今回のイスラエルとハマスの大規模衝突から9カ月以上が経ちましたが、依然としてイスラエルで拉致された人質は全員は解放されず、ガザ地区への攻撃は続き、犠牲者は増え続けています。

 それでもダニーさんには「必ずイスラエルとパレスチナは平和を取り戻せる」という確信があります。

ダニー・ネフセタイさん
「私が3歳の時からエジプトと永遠に戦争が続いていた。ずっと続くと言われたけど、78年に平和条約ができた。じゃあ何だったの?私たちずっとあり得ないと言われたことは結局、嘘だったって分かる。イスラエルは近隣諸国と平和にできる。人間は動物と違って頭も使える、言葉も使える、心も使える。絶対、違う人間とも話が通じるはず」

 戦争が長期化することでダニーさんの仕事にも影響が出ているといいます。

ダニー・ネフセタイさん
「10月7日からほとんど家具作れません。何でかというと家具は大体、1から3週間ぐらいかかるの。ずっと集中して同じもの作らなくちゃいけない。ずっと講演活動は続いてるから、いくら私が丈夫な家具を作ったとしても何もない、ただ自己満足の世界。次の戦争が起きない世の中を作らないと、いくらいい家具を作ったとしても何の意味もない。(家具作りと平和活動を)両立しています」

 ダニーさんの家具は一つひとつ思いを込めて丁寧に作るため、完成までに時間がかかるといいます。

 毎週末、講演の依頼が来ているため、大きな家具の注文が受けられず、今は小さなおもちゃを作るのが精いっぱいです。

ダニー・ネフセタイさん
「働きね、皆の。びっくり。何カ月も前から少しずつ練って、スタッフの数も増やして、なんかすごい形になりそうです。本当にワクワクしています」

 この日は今年に入って78回目の講演会。自宅から2時間以上かけて会場に出向きました。

ダニー・ネフセタイさん
「テロは武力によって止められない。イスラエルはいい加減、学ばなくちゃいけないけど、まだ学んでいない」

 集まった市民に心から訴え掛けます。

ダニー・ネフセタイさん
「戦争で軍人は敵を殺していると思っている。勘違いしている、それは。軍人は敵を殺していません。軍人が殺すのは人間だよ。同じ人間、愛する人、夢と希望を持っている人間を殺すの。しかも自分と同じようにお父さんとお母さん、おじいちゃんとおばあちゃんがいる人間を殺しています。私たちが本当に次世代のことを考えて、次世代を愛して、次世代に希望にあふれる世の中を与えたければ、大人の責任として、私たちが一番使わなくちゃいけないのは何かというと、これです」

講演を聞いた人
「はっきり分かりやすいお話だったと思った。武器をまずなくすことと、教育というのがすごく大事だと思った。その2つをすごい胸に刻みました」

ダニー・ネフセタイさん
「(参加者から)すごく納得できました、分かりやすかったと聞くと、きょう来て良かった。どこかに種がまかれたと信じています。家具はまだしばらく作れない。小物は作っているけど」

 世界に平和が訪れるその日まで、ダニーさんは訴え続けます。

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