タイの選挙管理委員会は10日、6月に投票が行われた上院選挙(定数200)の結果を発表した。軍事政権に任命された議員の任期満了に伴う選挙だったが、新たな仕組みは極めて複雑で、票の買収疑惑まで浮上。保守派政党に近い勢力が多数の議席を占め、保守派や親軍派の影響力が維持される結果となった。
上院選は2014年のクーデター以降初めて。教育や農業、医療など20業種から4万人以上が立候補し、郡、県、国の3段階で互選を繰り返し、最終的に各業種の上位10人からなる200人に絞りこんだ。選出された人の中には元大学教員や人権活動家らの他、元軍人や元選管委員も含まれた。
規定では政党の党員や現職の政治家の立候補は認められていなかったが、地元メディアは与党第2党の「タイの誇り党」に近い候補者が議席の過半数を確保したと報じた。選挙を監視した市民団体「iLaw」のインチープ・アッチャノン氏は、互選の際に勢力間で票の融通があった可能性を指摘し「タイ史上最も複雑で公平とはいえない制度で選出された」と非難した。
保守派が上院選にこだわった理由の一つが、上院に与えられた憲法裁判所や選管などの人事承認権だ。憲法裁では現在、23年の下院総選挙で躍進した最大野党「前進党」の解党の是非が審議されている。上院で勢力を維持して司法を影響下に置けば、政敵に対するけん制になる。
下院選後、前進党はピター党首(当時)を首相に据えた連立政権を目指したが、上下両院の保守派や親軍派に阻まれた。こうした勢力と手を組むことで発足したセター政権は憲法改正などに前向きで、今後も上院での審議には慎重なかじ取りが求められそうだ。
ただ、選挙に絡む疑惑はくすぶったまま。異議申し立てが相次ぎ、結果発表も延期された。すでに1人の不正が発覚し、次点が繰り上げ当選した。今後も選管の調査は続く見込みで、不正が認められれば議員資格を剥奪されることになる。
タマサート大のプリンヤ・テワナルミクル助教(公法学)は「問題のある制度で選出された上院ではあるが、少なくとも(軍政に)任命された前の上院議員よりは民主的だ」と指摘。その上で「国民の代表だという自覚を持って行動してほしい」と注文をつけた。【バンコク武内彩】
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