世界最大の人口を抱えるインドは何十年も前から水不足に悩まされてきたが、危機的状況の発生頻度は増加の一途をたどっている。写真はニューデリーのスラム街で6月27日撮影(2024年 ロイター/Priyanshu Singh)
インドの首都ニューデリーの米大使館に近いスラム街では、共用水道から1日2時間しか水が供給されない。しかも質は悪い。1000人の住民は、飲用や調理用として給水車からそれぞれバケツ1杯分の水をもらってしのいでいる。
西部ラジャスタン州の一部では、水道を利用できるのは4日に1回、しかも1時間しかない。ムンバイに近い農村部の女性や子どもは、水を確保するために1マイル(約1.6キロ)の道のりを移動しなければならない。
ハイテク産業の拠点として知られる人口1400万人のベンガルールも今年、水不足で給水車に頼らざるを得なくなった。
ニューデリーのスラム街で暮らすサンパ・ライさん(38)は「床を洗ったり、洗濯したりする水が時には何日も手に入らない。お皿(を洗う水)さえない。ある分でやっていくしかない」と話す。夜明け前から給水車が到着する場所へ急ぐ毎日だ。
世界最大の人口を抱えるインドは何十年も前から水不足に悩まされてきたが、危機的状況の発生頻度は増加の一途をたどっている。過去最悪の酷暑となった今年は、河川や貯水池が干上がり、地下水位も低下してひっ迫感がさらに強まった。
水不足は農村部と都市部の双方に悪影響をもたらしている。農作業や製造業の活動に支障が出るほか、食品価格の高騰を招き、社会不安が起きるリスクも生じる。インド政府のデータによると、汚染された水のせいで毎年約20万人もの死者まで出ている。
このため水資源の維持や、廃水の再利用方法の開発、特に農業分野で雨期の降水量への依存度を減らすことといった面で、官民は早急な取り組みを迫られつつある。
ムーディーズは先週、インドの来年3月までの年間成長率について主要国で最高の7.2%になると予想しつつ、増大を続ける水資源ひっ迫が成長の足を引っ張りかねないと警告した。
「水の供給減少は農業生産や工業活動を混乱させ、食品価格の上昇をもたらし、関連する業界の企業と労働者、とりわけ農家の所得を目減りさせてもおかしくない」という。
こうした中でインド政府が昨年10月に向こう5年間の優先対策をまとめた文書には、2030年までに水の再利用率を現在の3倍以上の70%に引き上げる計画が盛り込まれた。ロイターが文書の内容を確認した。
国家防災庁(NDMA)高官のクリシュナ・S・バスタ氏も先週のインタビューで、これらの目標の存在を認めている。
政府は地下や河川、貯水池からの取水率も世界最高水準の66%から50%未満に減らす方針。農家に対しては、その地域で利用可能な水量に応じてふさわしい作物の栽培を推奨する全国的なプログラムも今年から始める。
モディ首相は既に、全国785地域ごとに少なくとも75カ所の貯水池を整備するよう関係当局に指示した。専門家の話では、こうした貯水池が地下水位の再上昇につながる。
19年にはモディ氏が農村家庭に水道を行き渡らせる計画を開始し、5年前に17%だった普及率は現在77%に達している。ただ全ての水道管に水が流れているわけではない。
バスタ氏は「これで管理が一層喫緊の課題になる。肝心の水が手に入らなければ、そうした全国的な水道網は維持できない。水道管は空っぽになるだろう」と述べた。
ひっ迫状態
農村部の比率が高いインドが水資源として頼みの綱としているのは雨期の降水量で、コメや小麦、サトウキビといった大量の水を必要とする作物は、必要な水の8割余りをそうした降水量に依存している。
しかし十分に雨が降る年でさえ、その大半は海に流れ去ってしまうのに、近年は急速な都市化のせいで集水地域が乏しくなりつつある。
政府の見通しでは、足元でインド国民1人当たりが利用できる水は年間約1486トンだが、31年までに1367トンに減少する。1人当たり1700トン未満は「水がひっ迫している状態」と定義されており、インドは11年からずっとこの状態だ。
調査機関のセンター・フォー・サイエンス・アンド・エンバイロメントのデピンダー・シン氏は「もはや毎年が危機だ。以前は正常な年もあれば干ばつの年もある形だったが、今は水不足の危機がどの年も発生し、深刻度が増している」と指摘する。
一方、民間企業の間では下水処理や水の再利用に投資する動きも見られる。
鉄鋼大手タタ・スチールは、国内工場で使う真水の量を30年までに現在のトン当たり約2.5立方メートルから1.5立方メートル未満に減らす。JSWスチールも同様の方針を掲げている。
専門家によると、家庭に供給される水の90%近くは再利用が可能だが、配水や下水処理のインフラ整備が都市化と最終的に河川に流される廃水の規模に追いつけずにいる。
政府は現在都市部で44%にとどまっている下水処理率を引き上げ、再利用や工業、農業などへ活用できるようにするため、下水施設の拡充に乗り出しているところだ。
こうした取り組みに向け、21年から26年までにおよそ360億ドルが投じられる。
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