欧州議会選挙での大敗を受け、総選挙に踏み切ったマクロンだが JONATHAN REBBOAHーPANORAMICーREUTERS

<極右政党に惨敗したマクロン大統領率いる与党連合。失うものは何もないと開き直ってイチかバチかの賭けに出たが、裏目に出た時にはさらに傷が大きくなる>

予想に反し、欧州議会選挙が欧州政治に大きな変化をもたらすことはなかった。極右や独立系政党が少々議席を増やしたものの、議会のバランスはほぼ安定している。

極右が躍進するのではとの懸念はこうして杞憂に終わったが、大きな例外がフランスだ。

マクロン大統領率いる与党連合の得票率は14.6%と、マリーヌ・ルペンが実質上トップを務める極右政党国民連合(旧国民戦線)の31.4%に倍以上も水をあけられた。

結果を受け、マクロンは国民議会(下院)を解散し総選挙を実施すると発表。国内外に衝撃が走った。

なぜマクロンは電撃解散に踏み切ったのか。2022年の総選挙以来、安定した多数派を維持できていないことを考えれば、解散総選挙は妥当な判断とも思える。この2年間マクロンは下院で保守派の共和党との連立を試みたが、成功していない。

一方の国民連合は20年来、中道右派の支持基盤を侵食しながら徐々に勢力を拡大し、今やその勢いは止まらない。欧州議会選挙ではほぼ全ての選挙区で首位に立ち、多くの選挙区で30〜40%の票を獲得した。マクロンにとって国民連合はもはや無視できる相手ではない。

逆にマクロンの支持率は低下している。政策の不人気も低迷の理由だが、権威主義的で傲慢で、自分の陣営の意見にすら耳を貸さない性格が主な原因だ。マクロンは非常に優秀だが、その優秀さもとりわけ労働者階級には鼻につく。

電撃解散の狙いは2つある。マクロンは有権者に揺さぶりをかけて極右の脅威を直視させ、同時に敵の足をすくいたいのだ。国民連合はもとより共和党にとっても、この解散は予想外だった。国民連合が下院で絶対多数を確保するには、さらに201の議席を獲得する必要がある。

これを阻止するには、マクロンは中道右派および中道左派から票を奪わなければならないが、厳しい戦いになるだろう。中道政党の支持者にとって、今の与党連合は魅力に乏しいからだ。

マクロンが名誉党首を務める「再生」は、総選挙で共和党や左派政党に最低でも100議席を奪われるとみられている。党内で反乱が起きる可能性も否めない。次期大統領の座を狙う与党連合・地平線党のエドゥアール・フィリップ元首相は解散に反発しており、造反をたきつけないとも限らない。

総選挙は欧州議会選挙の結果を再確認する形で、ルペンの国民連合が勝利する見込みが高い。絶対多数を得られなければ、ルペンは従来の右派や独立系政党と同盟を結ぶかもしれない。

右派政党は決裂の危機に瀕している。共和党では右派陣営が国民連合との連携を呼びかけ、党内で猛反発を招いた。フランスの政局は大混乱の瀬戸際にある。

失うものは何もないと開き直ったマクロンはポーカーでいう「オールイン」、イチかバチかの賭けに出た。

自分が行動を起こせば巻き返しは可能だと彼が考えるのは、今に始まったことではない。マクロンは常に自分が一番で、政治は彼を中心に回っていると思い込んでいる。

加えてマクロンの予想では、国民連合が総選挙に勝利し政権を取れば、国民は次の大統領選挙の前に極右政党の本性を知ることになる。政権運営の重責を初めて担う国民連合は、支持者の期待に応えられないかもしれない。

27年の大統領選にルペンが敗れるなら、マクロンは祖国に尽くしたと胸を張り、悔いなく大統領の座を降りることができる。だが賭けが裏目に出たら? 既に傷の付いたマクロンのレガシーは、さらなる大打撃を被るだろう。

©Project Syndicate

ザキ・ライディ
ZAKI LAÏDI
パリ政治学院教授。ジュネーブ大学などでも客員研究員を務める。専門はグローバル政治と国際関係論。ジョセップ・ボレル欧州委員会副委員長の特別顧問なども兼ねる。

解散総選挙を発表したマクロン大統領

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— BBC News Japan (@bbcnewsjapan) June 10, 2024


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