先天性四肢欠損症を乗り越えて生きるニック・ブイジ(左)との出会いは感動だった ASHLEIGH SASSON
<ビーチクラブはいつも乱痴気騒ぎ、バスタブに引きずり込もうとする客も。そんな別荘兼会員制リゾートで垣間見たトランプ家の人々の優しさ>
フロリダ州パームビーチにある小さな食堂でウエートレスをしていた頃のこと。ドナルド・トランプ前大統領の別荘兼会員制リゾート施設「マールアラーゴ」のビーチクラブ専任シェフが、仲間と一緒に食事に来た。
私が担当のテーブルを丁寧に拭いていたら、なぜか彼が声をかけてきた。そして、気に入ったからマールアラーゴで働かないかと言って自分の名刺を差し出した。
もちろん、ただの冗談だと思った。だから放っておいた。でも同僚にその話をしたら、自分の妻もマールアラーゴのパーティー会場で働いたことがあると言い、トライしてみろと背中を押された。
思い切って応募したところ、面接官と意気投合。すぐにパーティー会場のウエートレスとして採用された。そこで働く人の多くは外国人労働者で、私のような地元の人間はごくわずかだった。
そのうち別荘本体の手伝いを頼まれるようになり、トランプ家の人や、彼らの友人にも給仕した。日中はフロントで電話番をし、夜はウエートレスをした。バーテンダーをやることもあった。
2017年のリゾートシーズン終盤には、ビーチクラブでウエートレスとバーテンダーをした。ビーチクラブはいつも乱痴気(らんちき)騒ぎだったが、すごい収入が得られた。
ピーク時には1日約300人の会員が訪れ、こちらは1日で150ドルほどのチップをもらえた。気前のいい会員は何百ドルもの小切手を切ることもあるらしい。ちなみに私が受け取った最高額は800ドルだ。
トランプ家で面々と
私はトランプ家の全員に会った。トランプはプロフェッショナルで常に笑顔。親切で寛大な人だと思った。私が働き始めたのは16年の1月なので、会った回数は多くない。同年11月に大統領に選ばれると、彼はビーチクラブに顔を出さなくなった。
でも彼の次男エリックやその妻のララ、長男のドニー、長女のイバンカとその家族とは多くの時間を過ごした。みんな素敵な人たちだった。
ドニーについてはこんな思い出がある。あるパラグライダーが海に墜落してしまったときのこと。乗っていた人は無事だったが、パラグライダーは海に流された。するとドニーがわざわざ泳いで回収に行き、彼に渡してあげていた。
ユダヤ教徒のイバンカの夫ジャレッドはコーシャ料理を食べていた。トランプの三男バロンがサッカーボールを蹴る姿を、祖母のアマリヤ・ナブスは笑顔で見守っていた。
セレブに会うこともあった。俳優シルベスター・スタローンは物静かで礼儀正しかった。歌手のワイノナ・ジャッドに会って一緒に写真を撮ったときは本当に興奮した。彼女の曲を聴いて育ったから。
モチベーショナルスピーカーのニック・ブイジにも会った。そこで会ったセレブの中で最も心が揺さぶられ、彼の世話をできたことは私の誇りだ。
ひどい経験もしたが、それは私をより強くした。階級意識をむき出しにする客もいた。最悪だったのは、ある会員が私をバスタブに引きずり込もうとしたことだ。
それでもマールアラーゴでは接客業の神髄を学べた。社交界のエリートと接することができ、自信が付いたし、プロとしての自覚もできた。何よりも喜びがあった。あの場所で過ごした時間は本当に素敵な思い出だ。
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