09年に北京を訪れた親中派の連戦(中央) ANDY WONGーPOOL/GETTY IMAGES
<台湾で民進党の頼清徳新総統が就任した途端、中国軍が周辺海域の軍事演習で威嚇を始めた。立法院で多数派の国民党・民衆党が強引に進める「改革法案」への反対デモも早速起きたが、そもそも「中国人ではない」台湾人有権者はなぜ国民党に投票するのか>
中国の積極的な膨張主義に直面し、アメリカは中国が対米防衛線とする第1列島線に沿って軍備を強化する「島嶼防衛」戦略を復活させている。中国が挑発する小競り合いは列島線のあちこちで起きているが、総攻撃の標的になるグラウンド・ゼロは台湾だ。台湾は地理的な中心であると同時に、鎖の中で最も弱い部分でもある。
台湾は1949年に蒋介石が中国共産党との内戦に敗れてこの島国に逃れて以降、ファシストの中国国民党(国民党)による一党支配が続いた。しかし、88年に党主席の李登輝が台湾生まれの「本省人」として初めて総統に就任すると、90年代以降は活気ある民主主義国家へと発展した。
国民党の熱心な支持基盤はこれに反発し、総統退任後に李を除名した。とはいえ、国民党の選挙の戦績はさほど悪くない。支えているのは中国から渡ってきた100万人以上の「外省人」とその子孫。彼らは台湾を故郷と見なさず、いつの日か「自分たちの中国」を取り戻すつもりだ。それがどんなに遠い未来でも、どんなに可能性が低くても。
しかし、その可能性がますます低くなるにつれて、国民党は蒋介石にさかのぼる激しい反共産主義から、戦略的な親中国共産党路線に舵を切った。
最初の変化は、李が除名された後、中国大陸ではなく台湾を本土と見なす「本土派」の大半が離党したことだ。75年に父・蒋介石から国民党を引き継いだ蒋経国はナショナリズムの台頭を目の当たりにし、よそから来た植民地主義は持続不可能だと見越し、李や蔡英文など台湾人の両親を持つ本省人を将来の指導者として育成した。
2000年に民主進歩党(民進党)が初めて政権交代を実現し、08年に国民党が政権を奪還。16年まで総統を務めた馬英九は中国人の両親を持つ外省人で、台湾の運命より自分の中国人としてのアイデンティティーを大切にする。馬の時代に中国は台湾で浸透工作の土台を築いた。
ただし、国民党の多くの政治家は、むしろカネという卑近な理由で親中派になった。1996~2000年に李の下で副総統を務め、李の失脚に貢献した連戦は、中国への投資を熱心に進めた。現在は大富豪として、台湾海峡をまたいで事業を展開している。アメリカの一流大学で博士号を取得した馬や連は、植民地精神の名残りと共産党のカネには勝てないようだ。
「中国人ではない」台湾人有権者が国民党に投票する理由
国民党は今年1月の総統選で民進党に敗れたが、立法委員(国会議員)選挙では第1党に返り咲き、議会は親中派が多数を占めることになる。その最初の一手は、中国の侵食を押し返す目的で19年に蔡総統の下で成立した「反浸透法」の弱体化だ。
世論調査で「中国人ではない」と自認する人が70%を超えるのに、台湾人有権者が国民党に投票するのはなぜか。台湾にとって危険なのは、アメリカの軍事支援が弱いときに民進党が政権を取るシナリオだ。最悪の事態を避けるため、「理性的」な有権者はたとえ気に入らなくても戦略的に国民党に入れ、「直感的」な有権者は民進党に投票する。これが政権交代を生んできた。
ただし、この状況は突然、致命的な結果になりかねない。例えば、国民党の極端に中国共産党寄りの総統が、中国からの攻撃を誘引するかもしれない。中国の歴史を振り返れば十分に考えられることだ。
国民党は中国のトロイの木馬であると同時に、アメリカの防衛線のアキレス腱でもある。アメリカと地域の同盟国にとって賢明な戦略は、中国のいかなる攻撃に対しても台湾を軍事的、経済的、心理的に強化することだ。防衛線の中心を守り抜くことは、インド太平洋全体の安定につながる。
【動画】「台湾独立派」と見なした頼清徳新総統を軍事演習で威嚇する中国軍
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