11月の米大統領選で返り咲きを目指す共和党のトランプ前大統領は8日、ビデオ声明を発表し、人工妊娠中絶の規制に関して「各州が法律で決めることだ」と述べた。保守層からは連邦法による一律規制を求める声もあるが、世論調査や各州の住民投票では中絶擁護派が優勢だ。大統領選への悪影響も考慮して一律規制に慎重な姿勢を示し、争点化を避ける狙いがあるとみられる。
トランプ氏は声明で「中絶を選ぶ権利に関する立場を聞かれることが多いが、州が投票や法律で決めることだと考えている。(妊娠後)何週目以降の中絶を禁止するのかについて、州によって判断が異なる」と指摘。「究極的には人々の意思による。自身の気持ち、宗教、信仰に従って、家族や自分にとって正しいことをすればよい」と語った。
一方、大統領在任中に連邦最高裁判事(定員9人)に3人の保守派を指名したことがきっかけで、2022年6月に中絶の権利を保障する憲法判断が覆ったことについては、「あらゆる法学者が判断を覆すべきだと求めていた」と主張した。民主党のバイデン大統領は声明で「トランプ氏は女性の基本的な権利を奪ったことを理解していない」と批判した。
最高裁が中絶に関する憲法判断を覆した後、米国内では女性を中心に反発が拡大。22年11月の中間選挙で、中絶擁護を前面に掲げた民主党が善戦する要因となった。最高裁判決後に計7州で中絶規制を巡る住民投票が行われたが、いずれも中絶擁護派が勝利した。
一方、米紙ニューヨーク・タイムズによると、保守派が優勢な計14州では中絶が州法で禁止された。他にも7州で妊娠後一定期間が経過した後の中絶規制が強化された。連邦議会でも共和党が妊娠15週より後の中絶を禁止する連邦法案を検討しており、トランプ氏の発言が注目されていた。【ワシントン秋山信一】
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