本誌の独占インタビューに応じた尹。任期中に改革を断行する決意をしきりに口にした JEAN CHUNG FOR NEWSWEEK

<今年10月に本誌の独占取材に応じた尹大統領は、北朝鮮の脅威や国内改革について熱く語りながらも、いら立ちや不満、焦りも吐露していた...>

韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は10月16日、非常戒厳(戒厳令)を宣布する48日前に首都ソウルの大統領府で本誌の独占取材に応じていた。

北朝鮮の脅威などの対外問題や、深刻な少子化、ジェンダー格差といった内政問題について熱弁を振るいながら、尹は「もう十分な時間はない」と、後の戒厳宣布を予感させるかのような焦りの言葉を発していた。

聞き手はニューズウィークCEOのデブ・プラガド、グローバル編集長のナンシー・クーパー、シニアエディターのマシュー・トステビン。

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──最近の情勢を踏まえて、北朝鮮との対立関係についてどの程度まで懸念しているか。

北朝鮮が道理に外れた予測不能な行動に出ることは、世界的に周知の事実だ。しかしわが国は朝鮮戦争以降、北朝鮮の脅威に対して着実に防衛態勢を強化してきた。私の認識では、北朝鮮の通常戦力は韓国軍に比べて全く劣っている。

だからこそ北は核開発に固執し、核戦力を増強しているわけだ。しかしわが国は強固で複合的な抑止力を基に、北朝鮮からのあらゆる懸念と脅威に備えている。

──韓国国民の大半は、自国の核兵器開発を支持している。あなたの見解はどうか。

世論調査によると、国民の60〜70%が韓国は核武装すべきだと考えている。だが、これは非常に慎重になるべき問題だと思う。

ロシアのプーチン大統領は6月に北朝鮮を訪問。両国の関係強化は韓国にとって脅威になると尹は本誌に語った VLADIMIR SMIRNOVーSPUTNIKーPOOLーREUTERS

わが国は、北東アジアと世界の安全保障への影響を考慮しなくてはならない。(韓国が核保有国になれば)日本と台湾の核武装化を招き、北東アジアの安全保障上の脅威がさらに増大することになる。

韓国は核拡散防止条約(NPT)の規定を遵守する。ただし、アメリカとの信頼関係の強化を受けて私が国賓としてワシントンを訪れた際に、両国の同盟関係は核を基盤とする同盟に格上げされた。


──北朝鮮の兵士がウクライナとの紛争のためにロシアに派兵されたことが持つ意味と、それに対する韓国の対応を聞かせてほしい。この事態は韓国とロシア、ウクライナ両国との関係にどのような影響を与えるのか。他国にはどのような対応を望むのか。

北朝鮮のロシア派兵は、国連安保理決議や国連憲章などの国際法に真っ向から違反している。また、北朝鮮のこの行動はウクライナ紛争を拡大、長期化させ、世界の安全保障をさらに危うくしかねない。

ロシアが派兵と引き換えに北朝鮮に機密性の高い先端軍事技術を提供し、また北がウクライナの戦場で得た現代戦の経験を基に100万人を超える軍隊を訓練することになれば、韓国の国家安全保障にとって大きな脅威となる。

韓国政府としては、国際社会および緊密なパートナー国との協力をさらに密にし、自国に対する脅威の度合いに応じて段階的に対抗策を講じていく。

わが国は(尹が発表した)「ウクライナ平和連帯イニシアチブ」に従い、人道・復興支援をはじめウクライナにさまざまな援助を行っている。北朝鮮の関与によって紛争が激化すれば、わが国はまずウクライナへの防衛支援を検討するかもしれない。

昨年8月に尹(左)はバイデン米大統領と日本の岸田首相(当時)との3カ国首脳会談で、安全保障面のパートナーシップ強化を確認したが CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES

──韓国は他の自由民主主義国と足並みをそろえてきた。こちらの陣営が勝利するという自信はあるか。

長期的に見れば、戦争の結果は常に大義に関わるものであり、公正な大義であるかどうかが問われる。この点で言えば自由で民主的な国家の大義は、自国とその社会を守り、他国を侵略しないことにある。

一方、権威主義的な政権や独裁国家が戦争を仕掛けるのは、国内の権力を強固にするためだ。私は自由民主主義諸国の勝利を強く信じている。これは単なる信念ではなく、私にとっては一種の信仰とも言えるものだ。


自由主義世界で自由諸国が結束し、連帯するのは、共通の大義と共通の価値観に基づく自然な流れだ。それに対して独裁国家間の結束は、ただ便宜的な連合にすぎない。

──韓国は日本との和解に努めてきたが、今後どこまで進められるのか。完全な和解の実現には、ほかに何が必要なのか。

21世紀において、かつて帝国主義的な支配を受けたほぼ全ての国が、旧宗主国との間によりよい関係を築いている。これは一種の世界基準だと考える。

この原則は韓日関係にも適用されるべきだ。さらに北朝鮮の核兵器およびミサイルの脅威に関して、両国は共通の安全保障上の利益を有している。北朝鮮が韓国に侵攻した場合、日本に駐留する米軍と国連軍後方司令部が、韓国を支援する上で極めて重要な役割と基盤を提供する。

3月8日の「国際女性の日」にジェンダー平等を訴えるデモに参加した女性たち(ソウル) CHUNG SUNG-JUN/GETTY IMAGES

日本が北朝鮮の攻撃目標となる場合、日本の安全保障も決して強固とは言えない。そのため、米韓日3カ国間のパートナーシップの強化が不可欠だ。韓国と日本の国民は、こうした現状を十分に認識している。

もう1つ重要な要素は、韓日の経済・産業面のパートナーシップだ。両国の産業構造は補完関係にあるため、相乗効果は多大なものになる。


何より重要なのは、両国のビジネス関係者がパートナーシップの強化を強く望んでいることだ。来年は1965年の日本との国交正常化から60年の節目を迎える。

安全保障、経済、産業、教育、文化など、さまざまな分野で両国のパートナーシップが飛躍を遂げる転換点になるだろう。それに向けて、わが国では政府と民間部門の両方が準備を進めている。

──世界の注目は韓国と北朝鮮の関係に集まっている。しかし、あなたは国内の改革のほうに時間を取られているようだ。

外交政策と国内改革は1枚のコインの裏表だ。私は外交政策と国内制度を世界基準に適合させようと努めている。もし失敗すれば、韓国は国際社会から取り残されるだろう。

第4次産業革命の今、AI(人工知能)が台頭し、急速なIT化が進んでいるが、わが国の制度の大半、つまり労働、教育、年金、医療といった制度は、重工業を基盤とする工業化の過程で導入されたものだ。経済をさらに発展させ、国際社会の責任ある一員として貢献を果たすには、国内で構造改革を行う必要がある。

今しかないと思っている。これらの課題は、長年にわたって先送りされてきた。これまでの政権は不人気な政策を取ることを恐れていた。選挙で負けることを怖がり、とうにやっておくべきだったことを先送りし続けた。しかし、もう十分な時間はない。改革を永遠に先延ばしすることはできないのだ。

教育については、AIの発達やデジタル化のペースに合わせて、より実践的なものにする必要がある。医療では、都市化の進展によってソウル首都圏とその他の地域との分断が深刻な問題となっており、地域間の格差が拡大している。


労働制度については産業が変化・発展するなかで、労働市場への人材の供給方法だけでなく、既存の集団的労使関係制度を各分野に合わせたものに変え、より柔軟にすることが重要だ。労働市場で弱い立場にある人々への支援を強化する必要もある。

──韓国で出生率が著しく低下している問題について聞きたい。あなたは愛犬家として知られるが、韓国の家庭では犬が子供に取って代わったと感じるか。

この問題を解決するには年金改革、労働改革、教育改革、医療改革といった(4つの主要な)改革が極めて重要になってくる。

教育改革では、新しい産業化の傾向に対応することが必要だ。また働く人々、特に女性がワークライフバランスや仕事と家庭のバランスを確保するために、未就学児や10代の子供を育てる上での公的支援を手厚くしなくてはならない。

労働改革では、出産を控えた人が仕事と家庭のバランスを取れるように、さらに柔軟な制度を実現する必要がある。医療改革では居住地にかかわらず、全ての母親と子供に医療サービスを提供することが重要だ。

年金は、これから親になる世代がいずれ退職を迎え、子供たちの未来を考えるときにも重要なものだ。そのため国民年金制度をより安定させる必要があり、実現すれば出生率の上昇につながるだろう。


──男女間の格差が拡大している問題はどのように解決できるか。

ジェンダーの問題は、韓国の産業が急速に発展したことの副作用によってもたらされたもので、出生率の問題に似ていると考えている。ジェンダー格差が深刻化している根本的な理由は過度の競争だ。女性は労働市場で差別されていると感じている。

韓国社会の行きすぎた競争を解決することが重要だ。例えば結婚や子育てが女性の昇進やキャリアの障害にならないような、よりよい環境づくりが必要になる。

それによってジェンダー格差と低い出生率の問題の両方を解決できる可能性がある。しかしこれは文化や社会の空気、特に韓国社会における男性の認識の問題でもある。

ジェンダーの問題は、女性や家族福祉の問題を担当する省庁だけでなく、文化を担当する省庁も対処すべき問題だと考える。文化体育観光省を含めた韓国政府全体が、例えばメディア(でのジェンダーの扱い)をはじめとして、韓国社会の空気を変えていかなければならないと思う。

ジェンダーの平等について今より理解の進んだ空気を社会につくることも必要だ。この問題の解決には、多様な解決策を組み合わせた包括的で総合的なアプローチが要る。

こうした問題は30年前からあったが、歴代の政権は地方選挙や総選挙、自分たちの支持率のことを考えて改革をためらい、行動を起こさなかった。そのため30年にわたって問題が蓄積し、ますます悪化した。

もう私には選択肢はない。自分の支持率や総選挙の結果を気にしている余裕はない。私の大統領としての任期が終わる前に、この問題を解決しなくてはならない。


大統領としての私の責務は、GDPを何%成長させるかということではない。韓国経済の潜在力を引き出し、次の大統領、さらにはその後に続く大統領たちが韓国経済を運営していくための、真の推進力を提供することだ。

──あなたの夫人に対して、さまざまな批判がある。これにはどう対応するつもりか。この問題は改革にどう影響するだろうか。

歴代大統領の夫人も論争に巻き込まれてきた。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の夫人は、夫を伴わずにインドのタージ・マハルを訪問した際に大統領専用機を使ったことが問題視された。盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の夫人は、(夫への)賄賂を受け取った疑惑を持たれた。

大統領夫人に厳しい基準を求める国は、韓国だけではないだろう。しかし私の妻をめぐる論争は、この問題を政治問題化させようという野党の行きすぎた試みによって誇張されていることも事実だ。

検察は私の妻について、前政権の時代にまでさかのぼり、膨大なリソースと時間を費やして調査を行ったが、いずれの疑惑も起訴には至らなかった。それにもかかわらず、野党は特別検察官の任命を要求している。

これは政治的な攻撃にほかならず、遺憾に思う。特別検察官は、検察官が不正を働いたり公平性を欠いているという確かな疑惑がある場合に任命されるものだ。私の妻のケースは、それには当たらない。


妻の賢明とは言えない行動によって国民に心配をかけたことについては、5月の記者会見で心からの謝罪をした。政治的な代償を払う必要があるのなら、その用意はできている。だが4つの主要な改革は韓国の未来にとって不可欠な、極めて重要な改革であり、私はその改革を断行して確実に前へ進むつもりだ。

──改革を実現する自信はあるか。

ある。来月(11月)には任期の折り返しを迎える。任期満了までに全ての政策を完全には実行できないかもしれないが、次の政権がそれを達成できるような確固たる枠組みをつくることは可能だと信じている。

尹大統領本誌独占インタビュー

Exclusive Interview with South Korean President Yoon Suk Yeol

 

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