“戒厳令”を出した韓国・尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領をめぐる動きが活発になってきています。
■“戒厳令”国会で検証
戒厳令は、どのように起きてしまったのか。国会の委員会で検証が始まりました。
この記事の写真 野党『祖国革新党』 チョ・グク代表 「国防次官は戒厳令計画を知っていた?誰がそれを命じたのか?あなたが命じた?」 キム・ソンホ国防部次官 「私は次官なので、命令する立場にありません。国防相が議会への軍隊派遣を命じました」 野党『共に民主党』 キム・ビョンジュ最高委員 「国防相は、事前に教えてくれなかった?」 キム・ソンホ国防部次官 「はい、教えてくれた事実はありません」 野党『共に民主党』 キム・ビョンジュ最高委員 「まったく?報道で戒厳令を知った?」 キム・ソンホ 国防部次官 「はい」戒厳令の中で軍の指揮を担う“戒厳司令官”に任命されたパク・アンス陸軍参謀総長も、戒厳令を知ったのは、大統領の発表後だったと証言しています。
与党『国民の力』ユ・ヨンウォン議員 「実弾支給の問題ですが、それは知らなかった?」 パク・アンス陸軍参謀総長 「武装については全く知りませんでした」現地メディアは、尹大統領に戒厳令を進言したのは、国防相だったキム・ヨンヒョン氏と報じています。戒厳令発出後、一度も公の場に出てきておらず、4日、すでに国防相を辞任しています。真相を知る可能性が高い重要参考人です。検察は、キム氏を出国禁止にしました。
尹大統領は、5日にも国民への謝罪を織り込んだ談話を出すとみられていましたが、その予定はなくなりました。
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■与党 弾劾訴追に反対与党のこの動きを知ったからかもしれません。7日の採決が見通されている尹大統領への弾劾訴追案について、与党が反対の方針を決めました。
与党『国民の力』 ハン・ドンフン代表 「今回の弾劾は、準備のない混乱による国民と支持者の被害を防ぐために、可決されないよう努力します」弾劾には、全議員の3分の2以上が賛成票を投じる必要があります。野党の議席数は合わせて192。少なくとも与党議員8人が賛成にまわらないと、弾劾は成立しません。
4日夜、与党は、国会内で議員総会を開き、弾劾についての対応を協議しましたが、そこでの発言が漏れ聞こえてきています。
与党議員A 「国民を見るというが、我々の支持層を見なければならない。弱気で退いたら勝てるわけがない」 与党議員B 「弾劾すればイ・ジェミョンが大統領になり、大韓民国が滅びることになる」 与党議員C 「党の指導者は、大統領に早く会わなければいけない。もし大統領が(途中辞任のような)極端な選択をしたらどうなるのか」次のページは
■与党 離党で決着へ結局、党の方針は、弾劾案は通さないが、ユン大統領には離党してもらうという案にまとまったとみられます。
与党『国民の力』 ハン・ドンフン代表 「大統領をはじめ、違憲的な戒厳で国民を不安にさせ、国に被害を与えた関連者らは、厳正に責任を負うべきです。党代表として、大統領の離党を改めて要求します。今回の事態は、自由民主主義政党であるわが党の精神から大きく外れたものです」しかし、ここで情勢を見誤れば、与党も共倒れになりかねません。
5日、韓国の調査会社が発表した世論調査では、73%が『戒厳令を出した尹大統領を弾劾すべき』と回答しています。『内乱罪に該当する』という意見も7割近くに上っています。
農家(40代) 「本当にありえないと思います。きのうまでは、与党の代表も弾劾を叫んでいたようなんです。それなのに、1日で覆せるなんて、心配です」 高校2年 「なぜ、与党の議員たちは、誤った選択を再びしようとするのか、とても困惑します。学生として、国の未来が真剣に心配になります。学生みんなが、今回の戒厳令は、今後、何が起きるかわからないという不安に襲われる。誤った危険な選択だと考えています」次のページは
■「戒厳令で弾圧」光州事件の記憶これまで13回の戒厳令が発令された韓国。民主化前の独裁政権では、国民を弾圧する手段として、戒厳令を利用してきました。
前回の戒厳令は、朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領が暗殺されたとき。当時軍人だった全斗煥(チョン・ドゥファン)は、空席となった大統領の座を狙います。
1980年。韓国国民が民主化を夢見た『ソウルの春』は、全斗煥が起こしたクーデターにより終わります。戒厳令が全国に発令され、民主化運動を軍隊で弾圧したのです。
特に激しかったのが光州。市民の抗議活動は、10日間にわたって徹底的に弾圧され、軍により民間人166人が殺されました。
光州の人々は命がけで民主化を求め続けました。
当時、デモに参加していたキム・スニさん(65)。いまでも、あのときのことを鮮明に覚えています。
キム・スニさん 「軍が学校を占領しました。軍人が投入され、学生だけでなく、男女問わず、外を出歩くと捕まりました。光州の市民は家族や親せき、同僚が殴られる姿を見て激怒しました。市民たち全員がデモに参加するきっかけになりました。私は服に石を詰めて投げました」市民の抵抗に、戒厳令で集められた軍の弾圧はエスカレートし、ついには、国民に向け、発砲するようになりました。
キム・スニさん 「無防備な市民に向けて撃ってきたんです。私は正面にいなかったので、撃たれなかったんですけど、怖くて逃げました」5日、ソウルのデモには、光州から来た男性(70)の姿がありました。
光州から来た男性 「いきなり戒厳宣言をするというじゃないか。びっくりして、心臓がバクバクし、なんてことだと思いました。戒厳令は、ものすごく恐ろしいもの。どれだけ驚いたか。私の友だちに銃で撃たれた子もいて、死んでいないが、肺にまだ銃弾がある。(友だちが撃たれたとき)私は逃げました。ずっと後悔しています。今回は前のように逃げません」次のページは
■カギは“与党議員8人”の賛成尹大統領への弾劾訴追案は、7日に採決される見通しですが、与党『国民の力』ハン・ドンフン代表は、党として弾劾訴追案に反対することを表明。一方で、尹大統領の離党を要求しています。
◆与党の思惑について、現代韓国・朝鮮政治が専門の慶應義塾大学・西野純也教授に聞きました。
西野教授は「2016年、朴槿恵(パク・クネ)元大統領の問題発覚から罷免まで、大規模な抗議デモが続くなど、社会が混乱。政治も停滞・疲弊した。それを避けるのが弾劾反対の理由。一方、尹大統領の退陣を求める世論の声も無視できない。離党させ、尹氏と距離を置くことで、保守勢力を守りたい。野党に政権を渡さないということでは。与党のハン代表が考える“最良のシナリオ”は、弾劾を避けながらも、大統領を説得して退いてもらい、保守勢力内での政権刷新を考えているのでは」としています。
弾劾訴追案の採決について、どのような見通しがあるのでしょうか。
現地メディアは、7日に向けた与野党の動きをこう伝えています。
与党『国民の力』は、採決が行われる本会議場に議員が出席しない見通しです。野党『共に民主党』は、採決を7日に先延ばし、その間に与党議員を説得する戦略だといいます。
西野教授は「可決より、否決された方が社会の混乱が大きくなる可能性が高い。野党は弾劾案を出し続け、国民の間に尹氏の退陣を求めるデモが広がっていく可能性は十分ある。それに対し、保守勢力を支持する国民の集会も起こるなど、影響が広がるのでは」とみています。
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