韓国の尹錫悦大統領がきのう、政治活動などを制限する「非常戒厳」を宣言しました。わずか6時間後に解除されましたが、さきほど野党側が弾劾手続きに入るなど、韓国国内には大きな混乱が広がっています。

■韓国「非常戒厳」何が起きた?

小笠原亘 キャスター:
韓国で何が起きたのか。まず尹錫悦大統領が発令した「非常戒厳」とは一体何なのかということから見ていきましょう。これは韓国憲法で定められた大統領の権限の一つで、戦争が勃発したり、国内の内乱が起きたり、天変地異などで略奪が起きたなど、かなりの有事の際に大統領が宣言するものなんです。いわゆる今回のような平時で出されるというものではないということで、非常に混乱も広まったということになっています。

この「非常戒厳」が宣言されると韓国内は、政治活動の禁止や、国民にいたってはストライキや集会の禁止、あるいは言論・メディア統制というものも行われるということなんです。

3日午後10時すぎ、尹錫悦大統領は44年ぶりになる「非常戒厳」を宣言しました。現在、韓国の国会は野党が3分の2近くを占めていて、ねじれの現象が起きてるという中で、来年度予算の大幅削減などを求められていたということです。ですから、尹大統領の肝いりの政策がことごとく否定されているという状況、それを受けて尹大統領は国政が麻痺しているということで、44年ぶりの「非常戒厳」を宣言。

どうなったかというと、国会議員は政治活動を禁止されていますが、これを何とか打破しようということで動きました。軍の兵士と国会で衝突ということも起きましたし、デモなども国民は禁止されていましたが、全く関係なく国会議事堂前でデモ活動も行われていたという状況になっていました。

結果、6時間後に、国会に集まった国会議員たちが全会一致で解除を求める決議案が可決されたということでした。4日午前4時半ごろに、尹大統領が自ら「非常戒厳の解除」を表明するということになりました。

■専門家「3つの想定外」

龍谷大学の李相哲教授は、尹大統領にとっては「すべてが“想定外”だった」ということです。想定外だったのは以下の3つです。

●政治活動を禁止(国会の解散を狙った)
→反発した議員190人が国会に集結。野党だけでなく与党も加わって全会一致で解除を求められた

●メディアを統制(事態の深刻さを伝えるため)
→戒厳司令部がメディアの統制もできなかった

●国民の言論・集会を制限(国論の統一を図るため)
→多くの国民が集結しデモ活動が起きた

これら全てが想定外だったというように分析しています。

ホラン千秋 キャスター:
大変な混乱だったと思うんですけれども、ここに至るまでの予兆というか、どれくらい不満などがくすぶってこういった事態になったのか、現地にいて感じることありますか?

渡辺秀雄 JNNソウル支局長:
尹大統領の支持率は直近でも10%後半とかなり低迷していました。しかし、今回の「非常戒厳」を出すということに関しては全く予想していませんでした。私は昨日の晩は街中で会食をしていたのですが、突然のことでびっくりして、慌てて出社したという状況でした。

井上貴博 キャスター: 
ここ数年韓流ドラマも相当流行っていますので、今回のニュースを特に身近に感じてらっしゃる視聴者の皆さんも多いと思うんです。

よくわからないのが、政権としてにっちもさっちもいかなかった、もう打つ手がないということで、まさかと言われていた、無謀だと言われていた最後のカード「非常戒厳」を切ったわけですけど、尹大統領の頭の中でどんなシナリオを描いてたのか、そしてスタンドプレーなのか、そのあたりについてどんなことを想像しますか?

渡辺 ソウル支局長:
難しいのですが、先ほどの李相哲先生のお話にもあったように、国会を軍で掌握してコントロールをしていこうというのが頭の中にあったという見方もあります。一方で、元々うまくいかない計画というふうに割り切って、こういった大きな騒ぎを起こすことによって、いかに野党側がひどいことをしてきたのかというのをアピールする場にしたかったのではないかという見方をするメディアもあります。

ホランキャスター:
「非常戒厳」という44年ぶりの、ある意味切り札的な手法だと思うんですけれども、それが逆に役に立たなかったとなると、その持つ重さのようなものも結局、効力を失ってしまうのかなという気がしますね。

荻谷 麻衣子 弁護士:
尹大統領はある意味頑固で、自分の正義感を曲げない人です。だからこそ日本に対する関係も世論を気にせず、友好関係を築いてきたんだと思うんです。 今回、国内の中で相当に追い詰められて、それが極端な形で出てしまったのかなと。

もしかしたら尹大統領自らの正義感では「国政を正常化するためにはここまでやらなきゃ仕方がないんだ、ここまでやれば国民世論も自分の味方してくれるかな」と思っていたかもしれない。でも結果的にその読みを誤って、自分の状況を最悪の状況にしてしまったというところなのかなと見ていました。

井上キャスター:
韓国にはまだ民主主義が根付いていないのかなと思ってしまいましたが、尹政権になってようやく日韓関係が少し改善してきました。しかし、尹大統領が倒れる公算が高い。反日政権に戻ったときに、一番ほくそ笑んで見ているのは中国であり、北朝鮮であり、ロシアなんじゃないかなと。

荻谷 弁護士:
そうですよね。特に北朝鮮は韓国がオウンゴールをしてくれたみたいで。自分たちは何もしてないのに、結局韓国の大統領が最も苦しい立場になってしまったのはありがたいことだなと思って見ている可能性はありますよね。ただまだこの政権がどうなるかは見てみないとわからないので、私達も冷静に見ていく必要があるのかなと思います。

■「非常戒厳」で旅行キャンセルも…

小笠原キャスター:
実際にソウル市内の友人がいるというNスタスタッフが今週末に韓国旅行を計画していたそうなんですが、とにかく混乱しているから今は観光に来ない方がいいとう連絡が慌てて来て、結局週末の旅行をキャンセルしたそうなんです。

韓国に住んでいる友達は「初めての経験でとにかく何が起きているかわからず怖かった。韓国人も混乱していたが、外国の人たちはもっと安全じゃないと思い、『来ない方がいいよ』と慌ててメッセージを送った」ということでした。

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<プロフィール>
萩谷麻衣子 さん
弁護士
結婚・遺産相続などの一般民事や、企業法務を数多く担当

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