バチカンが公開したバーチャル大聖堂。マイクロソフトのAI技術で作られている REUTERS/YouTube
<マイクロソフトのAI技術と最先端の写真測量技術との組み合わせで、世界遺産の「デジタル・ツイン」が完成。これぞ「倫理的AI」の使い方だとローマ教皇フランシスコも絶賛>
ローマ・カトリック教会の総本山であるバチカンとマイクロソフトが革新的なプロジェクトを公開した。バチカンにあるサンピエトロ大聖堂とうり二つのデジタル版(デジタルツイン)だ。人工知能(AI)を使って制作されたこのプロジェクトは、ミケランジェロやラファエロなどルネサンスの至宝を擁する世界最大の教会建築のバーチャル参観を可能にするとともに、建物の保全にも貢献する。
【動画】バチカンが公開したバーチャル大聖堂
バチカン市国で11月11日に発表されたこのプロジェクトは、大聖堂を1カ月にわたって非公開にして、ドローンやカメラ、レーザーを駆使して撮影した40万枚以上の高解像度画像を用いている。
大聖堂のこのデジタルレプリカは、世界有数の歴史的建築物を体験する新しい方法を提供するとともに、バチカン市国の職員が来訪者の流れを把握・管理し、また建物の構造上の問題点を特定するのに役立つ。
「聖年」に向けた偉大なプロジェクト
マイクロソフトで副会長兼プレジデントを務めるブラッド・スミスは、このデジタルツインを「同種のものの中でも最も技術的に高度で洗練されたプロジェクト」と表現した。
このバーチャル大聖堂は、25年に一度の大赦が与えられる「2025聖年」の直前というタイミングで公開された。通常時には日に5万人という来訪者に加え、聖年に年間3000万人以上の巡礼者が訪れると予想されている。
フランシスコ教皇は、マイクロソフトのチームと、開発にあたったパートナー企業各社に謝意を表した。バチカンでの謁見の際に、プロジェクトのメンバーに語りかけた教皇は、「誰もが、本当の意味で誰もが、この偉大な館に温かく迎えられていると感じるだろう」と熱を込めて語った。
サンピエトロ大聖堂のデジタルツインは、マイクロソフトのAI技術とデジタル保存企業イコネム(Iconem)の先進的な写真測量とのコラボレーションによって実現した。
この3Dレプリカの構築には、DVD500万枚分に相当する、22ペタバイトという膨大なデータを必要とした。これによって、大聖堂の芸術作品および建築の高精細なバーチャルツアーが可能になった。
これらの画像は、すでに重要な知見をもたらしている。モザイク片の欠落やひび割れ、さらには、肉眼では確認できない建物の劣化の兆しなどの、建物の構造に関わる損傷が特定されているのだ。
こうしたデジタル技術を用いたアプローチにより、この歴史的建築物の状況を把握する効率的な方法を、バチカンは手に入れた。この手法は、速さや正確性において、人間の能力を超えている。
フランシスコ教皇は、「倫理的AI」を推進する立場から積極的に今回のプロジェクトを擁護した。2024年の年頭の「世界平和の日」メッセージではAIを規制する国際条約の必要性を提起する一方で、共感や道徳に則ったAIの使い方を提起した。
フランシスコ教皇はバーチャル大聖堂についてこう述べた。「万人に開かれたこの祈りの館は、信仰および私たちに先立つ聖職者から預けられたものだ」
「ゆえにこれは、最新技術を用いたものだとしても、霊的な意味と物質的な意味の両面において、慈しむべき贈り物であり、それが務めである」と教皇は述べた。
スミスは、このプロジェクトの費用を明らかにしなかったものの、マイクロソフトの投資は「相当な額」だったと認めた。この取り組みは、倫理的AIの推進を求める、フランシスコ教皇による2018年の呼びかけに着想を得た、より大規模な構想の一部を占めるものだ。
マイクロソフトは、フランスのモン・サン=ミシェルや、ギリシャの古代都市オリンピアでも、同様のプロジェクトを主導、最先端の技術で文化遺産の保護に貢献する取り組みに力を入れている。
(翻訳:ガリレオ)
【動画】バーチャルなサン・ピエトロ大聖堂が完成
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