認知症の予備軍とされる心身の「フレイル(虚弱)」の早期発見、回復につなげようと、名古屋工業大や愛知産業大などの研究チームが、脳トレーニングのシステムを開発した。高齢者に実際に試してもらったところ、注意力や記憶力が改善。研究チームは「認知症予防の切り札になる」と、さらなる検証を続けている。

 フレイルは、身体的、精神・心理的、社会的の三つがあり、様々な要因で衰えが表れた状態を指す。認知症を発症してしまうとその進行を止める医学的手法は現時点で確立されていないが、フレイルの段階なら回復できるとされている。

 研究チームの森田良文・名工大教授(電気・機械工学類)らは、「第2の脳」とされる指先と脳の密接なつながりに着目。指を器用に動かせるようになれば脳が活性化し、フレイルの回復につながるのではないかと考えた。

 脳卒中のリハビリや自閉症の回復に役立つデバイス研究を2009年から続けてきた森田教授らは、そのノウハウを生かし、カステラのように軟らかい筒状の新たな機器を開発。握った指の微妙な力加減で画面上のキャラクターを操作して星を食べるアプリゲームを通じ、指先の器用さの向上を図った。

 実際に、愛知県東海市の健康な高齢者14人を対象にこのシステムを30日間、毎日10分程度使ってもらったところ、加齢とともに低下していた注意力と記憶力がすべての人で改善が見られた。森田教授は「精神的フレイルの人にも使ってもらい、回復につながるかどうか検証したい」と話す。

 リハビリの専門病院や子どもの発達支援をする療育センターにも協力を仰いで実証研究を続けており、脳に関連する幅広い症状の患者の機能回復につなげたいという。

 森田教授らはビジネスとしても軌道に乗せようと、今年度中に名工大発のスタートアップ企業を立ち上げる計画だ。(松永佳伸)

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