働く上でネックとなる女性特有の悩みについて理解を深めようと、生理(月経)の痛みを疑似的に体験する「生理痛体験研修」を取り入れる企業が出てきている。機器を装着して痛みを体験した参加者からは、「想像以上の痛さで、仕事に集中できない」「会社として勤務上の配慮をすべきだと強く感じた」という声が上がった。(今川綾音)

痛みのレベルが「強」に上がると、耐えるような表情を浮かべる男性が多かった=東京都港区の東京ガス本社で(由木直子撮影)

◆疑似体験の機器を使って体感 感想は?

 7月、東京都港区の東京ガス本社ビル。初めて開いた研修の場には、男性の役員2人と管理職20人、女性の管理職2人の姿があった。  縦9センチ、横5センチの長方形の電極パッド2枚を、おへその下の肌に貼り付け、緊張した面持ちで生理痛仮想現実(VR)体験機器「ピリオノイド」の前に立ったのは常務執行役員の斉藤彰浩さん(58)。「痛みのレベルは弱・中・強の3種で、女性の8割は強の痛みを感じていると言われます」という操作担当スタッフの説明を聞き、まずは「弱」に挑戦。「これはまだ大丈夫」と斉藤さん。しかし、強さが「中」に切り替わると「耐えられるが、数日間続くと思うと嫌だ」。  「うおおっ…!」。スタッフが「強」に上げた途端、斉藤さんからうめくような声が漏れた。「これは厳しい。だんだんしんどくなる。この痛みが定期的に来ると思うと憂うつだ」

腹部に電極パッドを貼り、生理痛を体験する東京ガスの社員ら=東京都港区の東京ガス本社で(由木直子撮影)

◆「すごく不快な痛み。座っているのもつらい」

 同社の社内調査では、「生理や更年期などにより職場で困ったことがある女性」が約7割にのぼり、そのうちの4割以上が生理の症状によるものだった。勤務環境の整備のため、2017年から在宅勤務の導入を、今年3月からは1時間以上の会議で5分以上の休憩を取る取り組みを進めてきた。その中で、「生理痛については、知識としては知っていても、痛み自体は分かっていない」と感じた人事部安全健康・福利室長の山田俊彦さん(51)が体験研修を発案した。  執行役員で人事部長の五嶋希(のぞむ)さん(53)は「重要な場面で痛みが来ると大きな影響があると率直に思う。生理の期間は年間数十日あるので、組織の問題として認知すべきテーマだと感じた」。財務部の人事担当マネージャー、加来(かく)顕一郎さん(45)は「すごく不快な痛み。『強』はズシンズシンと響く鈍痛で座っているのもつらく、帰りたくなった。自分なら休んでしまう」とこたえた様子だ。加来さんの部署は約20人で、女性は3割ほど。「痛みの体験は自分ごと化のきっかけになった。個々人への目配りをしていきたい」と話している。  人事部の山田さんは「つらさを言い出しにくい人も、生理痛を体験したことのある相手になら『わかってもらえるかな』『言ってみようかな』と思えるかもしれない」と期待する。

生理痛体験ができる「ピリオノイド」。右の電極パッドを腹部に貼り、コントローラーで痛みの強さを調整できる=東京都港区で(由木直子撮影)

ピリオノイド 個人差のある生理痛のつらさについて、「痛みの追体験を通して同性同士の理解を深められないか」と考えた大学生らが2019年に開発に着手。筋電気刺激(EMS)を用いて、生理時に生じる腹部の痛みを段階的に体験できるVR装置をつくった。この装置を、大学発のスタートアップ企業「大阪ヒートクール」(大阪府箕面市)が、より使いやすいウエアラブル装置として改良したもの。同社インストラクターの作田詩織さんによると、研修は昨年7月に始め、これまで約70社の約1500人が生理痛を疑似的に体験した。都内でも広がっているという。



鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。