避妊や月経(生理)痛を和らげる効果があるピル。日本で承認されて25年たつが、欧米に比べ、いまだに服用率は低い。背景には、ピルや生理に対する理解不足がありそうだ。どんな種類があり、効能や副作用があるのか。2回にわたり、ピルの今を見つめる。 (熊崎未奈)

生理にまつわる症状の改善に効果がある低用量ピル

 ピルは、2種類の女性ホルモン、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲスチン)の成分を合わせた医薬品。エストロゲンの量によって、中用量、低用量、超低用量などの種類があるほか、避妊を目的とした自費負担の「OC(オーシー)」と、月経困難症などの治療向けに保険が適用される「LEP(レップ)」に分かれる。

◆ホルモン量一定に

 どちらも仕組みは同じ。含まれる女性ホルモンが脳に働きかけ、妊娠に必要な排卵を止めたり、子宮内膜が厚くなるのを抑えたりするため=図、避妊効果がある。生理痛や出血量の軽減にもつながる。ホルモンの量も一定になり、その変動が原因で心身に不調が出るとされる月経前症候群(PMS)の改善も期待できる。  PMSや生理中の出血量の多さに悩んでいた東京都の会社員女性(33)は4年前、婦人科で低用量ピルをすすめられ、服用を始めた。病院やピルの種類を変えつつ、3年ほど継続。PMSに伴うイライラや頭痛もなく、出血量も気にならなくなり、「とても快適になった」。  愛知医科大産婦人科の篠原康一特任教授(57)は「ピル服用の効果は大きい」と話す。ニキビの改善や卵巣がん、子宮体がんのリスクを下げる効果も報告されている。  一方で、副作用もある。服用を始めた直後は吐き気や不正出血があることも。長く使うと乳がん、子宮頸(けい)がんのリスクがわずかに上がる可能性がある。血栓症のリスクもあり、一般的な発症頻度は1万人に1~5人だが、ピル服用者は同3~9人とされる。ただ、妊娠中(同5~20人)や産後(同40~65人)より低い。篠原さんは「副作用のリスクよりも、メリットの方が大きい場合が多い」と説明する。

◆日本の服用率3%

 「妊娠しにくくなる」「体重が増える」などの誤解もあり、ピルへの理解は十分ではない。国連の統計によると日本の服用率は約3%で、約15~30%の欧米より低い。「ピルは、生理や妊娠のタイミングをコントロールできる『ライフデザイン・ドラッグ』とも呼ばれる。特に生理で困っている人は選択肢に入れてほしい」と強調。重い生理痛には、子宮や卵巣の病気が隠れている場合もあり、「まずは産婦人科で対面で診察を」とすすめる。

◆福利厚生で補助する企業も

 働く女性の健康管理に役立ててもらおうと、企業の福利厚生として、ピルの費用補助が広がっている。  不用品買い取り事業などを展開するレクストホールディングス(大阪市)は昨年4月から、女性従業員全400人を対象に、オンラインで診察や処方を受けられるサービス「スマルナ」でのピル購入費用を全額補助している。  制度を利用する女性社員(27)は生理不順があり、営業で外回りする際にトイレの心配も。「ピルで生理日が安定し、安心して働けるようになった」と言い、月3千円ほどの補助も「ありがたい」と満足そう。同社の広報担当者は「生理休暇もあるが、無給で、取りづらいという声もあった。女性の働き方の選択肢を広げたい」と説明する。  ◇   女性の心と体にまつわる記事を随時、掲載します。 

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