毎年この夏休みの時期になると、小中学生の保護者の方々から、「我が子が心配で、ついつい『早く宿題しなさい』と声かけをしてしまいます」「いつまでも過保護じゃいけないけど、急に自分でやれといったら、とんでもない失敗をしてしまう。どうしたらいいでしょう」といった質問を受けます。

 私は子育てのプロでも教育のプロでもないのですが、時間管理の視点から「こういうゴールを一応目指してみては」とお伝えしています。

 今回はこの「子どもの時間管理のゴール設定」についてご紹介します。

  • さっさと宿題をしない我が子にイライラする 親はどうしたらいい?

 子育てをしていると、毎日を回していくので精いっぱいで、「小学校卒業する頃にはこれが自分でできるといいな」とか「18歳までにはこのぐらいになってて欲しいな」といった長期的な視点にまで気が回らないと思いませんか?

 もちろん、大多数の子どもは、そんなに親がゴールを設定しなくても、自然といろんな自立スキルを身につけていくものです。実際に学校や部活などで失敗したり、痛い目にあったりして、「なるほど前日に荷物を用意すると忘れ物しないんだな」とか「このぐらいのペースで準備すると遅刻しないんだな」とか「計画的に宿題しないと間に合わないんだな」と学んで、ちゃんと成長していきます。

 しかし、中には、わりと痛い目にあっているのに、なぜか学べず、なぜか成長していないかのように見える子どももいるものです。

 はい、私です。

 今でこそ時間管理を専門にしている臨床心理士ですが、大学生までは全く時間管理のできない人間でした。入試のための願書に貼る写真を撮るのを忘れていたり、大学の入学手続きを忘れていたり。大学生になってからも提出書類の締め切りにいつも遅れて、事務の人に目をつけられていました。ゼミの日時も忘れて友達と旅行に行ってしまったり、朝余裕をもって起きられずいつも身だしなみはトホホな状態で授業に出たりしていました。

 このように年単位の失敗をしているにもかかわらず、まだ同じ失敗を繰り返すようなタイプは一定数いるのです。

やる気はあるのにできない子も

 私のような子どもがいる親は、失敗しないように一生懸命「気を引き締めなさい」「ちゃんと覚えていなさい」「早めにとりかかりなさい」と口をすっぱくして言うでしょう。でも絶望的なほどやらないのです。やる気はあるのですが、やれないのです。

 こういう場合、多くの子どもは「自分はだらしないんだ」と自己嫌悪に陥ります。本人なりに「今度こそ」とがんばってみるのですが、なぜかできないのです。

 のちに、心理学を勉強した私は気づきました。

 こんなに壊滅的な時間管理状態なのは、親のしつけのせいでもなく、自分がだらしない怠け者だからでもなく、「自分の脳にぴったりの刺激がなかったから、時間管理スキルを学び損ねたからなんだ」ということでした。

精神論ではなく、敗因を分析する

 例を挙げましょう。

 宿題をしてもそれをカバンに入れるのを忘れてしまう子どもがいたとしましょう。

 みなさんがこの子の保護者なら、どう指導しますか?

 多くの大人はこう助言するでしょう。

 保護者「宿題が終わったらすぐカバンにいれたらいいでしょう」

 子ども「うん」

 おそらく子どもはよい返事をしますが、次の日、宿題をするときにはその助言を忘れてしまっています。保護者は「あの子は不真面目だ」と思うかもしれませんが、本人がわりと真面目に宿題を忘れたくないと思っていても、そうなってしまう場合もあります。

 こんな時は、子どものつまずきと親の助言が対応していないのです。

 よくよく見てみると、いつもダイニングテーブルで宿題をしていて、そのすぐとなりでお兄ちゃんがゲームをしていたとします。その子は宿題を終えたら、1秒でも早くゲームをしたいわけですから、終わった宿題をいちいち自分の部屋のランドセルに入れに行く暇などないわけです。適当にその辺にぽいっと放り投げて、ゲームに吸い込まれていくのですね。

ポイントは「忘れようがない仕組み作り」

 では、この子どもの時間管理スキルを伸ばすような対応方法は何でしょう。

 このように、誘惑に弱くて脱線しやすい性質に対処するには、「誘惑から物理的に離れて、やるべきことに近づく」のが鉄則です。

 ・ゲームのような誘惑のある場所で宿題をしない

 ・宿題をやる場所とランドセルを近づける

 具体的には、宿題場所を自分の部屋のランドセル近くにするのもいいでしょう。もっと現実的には、宿題を入れるA3サイズの大きな透明のチャック付きケースを用意します。そのチャックにバネ式のキーホルダー(スマホケースのようなひも状のものでも)をつけて、ランドセルに固定します。学校で宿題をもらったら必ずそのケースに入れるようにして、帰宅したら、そのケースの上で全ての宿題をするのです。

 宿題が終わると下敷きにしていたケースにそのまま入れます。ランドセルと一体型なので、忘れようがありません。万が一ケースに入れ忘れても透明ケースが空っぽのままランドセルからひもにぶら下がって垂れていれば、「あ、中に入れ忘れてる」と一目で気づけそうです。

 いかがでしょうか。このように、記憶力や気合だけを頼りにしていない「忘れようがない仕組みづくり」がポイントなのです。「自分って忘れっぽいから、記憶力に頼ってたらだめなんだ。何か仕組みを考えなくては」と子どもに認識させるのが大事なのです。

 保護者「宿題が終わっても入れ忘れるよね。どうにかしてランドセルと宿題をくっつけないとね。どうしたらいいだろ。」

 子ども「うーん、目立つ色のファイルに入れるとか? ここのポケットに絶対入れるとか?」

 こんなやりとりで知恵を出し合うことこそが、子どもがその後の人生で自分で工夫していく力を育むことになります。

 失敗から学べない子どもは、このような敗因分析ができていないことが多いのです。そしてその保護者もまた「精神論」で敗因分析をしがちなので、助言が的外れになるのです。

人生で本当にやりたいことに時間を使うために

 高校卒業までに身につけられるといいかなあという目標の時間管理スキルを挙げてみました。私は全然できていなかったので、えらそうなことはなんにも言えませんが。まずは現状把握と遠い未来のゴールを認識できれば、そこに近づく手立てを今回のコラムのようなやり方で考えられるでしょう。

 「時間管理」という言葉に、まるで子どもをぎちぎちに管理するような印象を持たれる方もいらっしゃるでしょう。違うのです。年単位の失敗をしないで、自分が本当に人生でやりたいことのために時間を効果的に使えるようになるのが時間管理です。「どうやら、うちの子、自然にしてても身につきそうにないな」というご家庭でどうぞお役立てください。

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 このコラムの著者の新刊が出ました。「大学生の時間管理ワークブック」(中島美鈴・若杉美樹・渡邉慶一郎著、星和書店)http://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn1086.html

<なかしま・みすず>

 1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。(臨床心理士・中島美鈴)

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