「喫煙者はどこへ?」厳格化す禁煙対策と商店会の現実 Roméo A.-Unsplash
<2020年の改正健康増進法施行以来、都市部での喫煙規制は一層厳しくなっている。しかし、喫煙所不足が引き起こす「たばこ難民」の増加と、経済的損失の問題は未解決のままだ。大阪・関西万博を前に、行政と市民の協力による喫煙環境整備が急がれる>
2020年4月に施行された改正健康増進法により公共施設や商業施設、オフィス等の屋内は原則禁煙となり、飲食店も業種や規模により喫煙室を設ける義務が生じるなど分煙化を推進。また同年は新型コロナウィルスが猛威を奮い、感染防止のため屋外の公共喫煙所も軒並み閉鎖された。しかも、翌年には東京オリンピックの開催に伴い都が「東京都受動喫煙防止条例」を施行。規模を問わず2人以上が利用する施設は原則禁煙と、国以上に厳しい「上乗せ規制」を打ち出すなど規制が度重なった。
さらに、改正健康増進法の施行から5年を経た来年2025年には法改正が検討される可能性が高く、それまで経過措置で緩和されていた小規模事業者に関しても、さらなる規制が課されるのではないかと目されている。きっかけとなるのが、来春、大阪で開催される「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)」の存在だ。
大阪府は、2025年の万博開催に向けて、受動喫煙防止対策を強化するため、2019年3月に大阪府受動喫煙防止条例を制定し、段階的に施行してきた。この条例では、従業員を雇用する飲食店について2022年4月から屋内全面禁煙の努力義務が課されている。さらに、来年4月からは、客席面積が30平方メートルを超える飲食店に対して原則屋内全面禁煙が義務付けられる。
また、大阪市においては、大阪市路上喫煙の防止に関する条例を改正し、来年1月には市全域を路上喫煙禁止エリアに拡大する。この動きは、大阪府や大阪市にとどまらず、他の自治体にも影響を及ぼす可能性が高い。
非喫煙者からも寄せられる「喫煙所が少ない」との声
違反者には2000円の過料が科され話題となった東京都千代田区の路上喫煙防止法が施行された2002年当時、屋外喫煙所の整備が進んだもののその数は十分とはいえず、喫煙所を求めさまよう「たばこ難民」が話題となり、また、路上喫煙や吸い殻のポイ捨てが頻発したことも問題となった。しかし、この20年間あまりで行政や関係企業の努力でマナー向上は図られたのだろう。歩きタバコなど悪質な喫煙者を見ることは少なくなった。だが一方で、喫煙所をはじめとする喫煙環境はどう変化したのだろうか。
改正健康増進法施行後、喫煙できる商業施設や飲食店等は、喫煙専用室、加熱式たばこ専用喫煙室、喫煙目的室、喫煙可能室の条件を満たす場合に限られる。しかし、厚生労働省が2021年に行った「喫煙環境に関する実態調査」によれば、喫煙室の設置施設はわずか9.2%に留まっているのが現状だ。
では屋外はどうか。オリコンが喫煙者及び非喫煙者4700人に行った調査では、「十分に喫煙所が整備されていない」との回答が全体の38.9%。また、訪日外国人向けの旅行情報サイトが行った調査でも、51.9%が「喫煙できる場所が少ない」という結果に。屋外では比較的自由に喫煙できる海外からの訪日外国人にとって、路上喫煙が禁止で喫煙所も少ない日本にそう感じるのも無理はない。
商店会が被る経済的悪影響
喫煙できる店舗も公衆喫煙所も少ない現状で起こるのが、路上喫煙者の増加である。いまだ路地裏や駐車場では路上喫煙やポイ捨てを見ることも多いのではないか。なお、埼玉県の所沢駅で2022年6月に喫煙所を撤去した結果、周辺のポイ捨てが約2倍に増加したという。
大阪・関西万博の開催を来春に控える大阪市の商店会などで構成される「大阪市商店会総連盟」では、2022年11月に「大阪市内に必要な喫煙所数と設置不足が商店街におよぼす影響」と題した調査結果を発表。これによると、大阪市内に必要な喫煙所数は367カ所と試算する。同時に、喫煙所不足により商店会が被る悪影響は年間252億円に達するとも試算。大きな危機感を抱いている。
なお、大阪市も「大阪市指定喫煙所設置経費等助成金」を創設。喫煙所を新たに整備する場合は上限額1000万円など喫煙所設置を補助するほか、「地方たばこ税も喫煙環境整備に活用する」とし、指定喫煙所140カ所(新設120カ所、改修20カ所)の整備を進めている。
市内きっての賑わいを誇る大阪市北区、環境局の路上喫煙対策担当者によれば「区では約15カ所の喫煙所の整備を進め、現在、10カ所の整備が完了している」という。担当者は商店会総連名を通じ、補助金を使っての整備を呼びかけているものの、「なかなか、ご自分たちで(設置を進める)という商店会がいらっしゃらない。今後も路上喫煙の状況などを検証し対策を検討したい」と語る。
喫煙者の要望には応えられず
一方で、商店街側の思いとは。梅田駅を起点に東に伸びる阪急東通第一商店会の加納利彦会長に状況を聞いた。「市内にはいくつかできているらしいのですが、私どもの商店街や駅前にもほとんどない。設計図の用意はできていますが事態が動かない。本当に120カ所も設置できるのか」と首を傾げる。
加納会長は飲食店経営者。改正健康増進法の施行を機に店内を全面禁煙に切り替えた。「『どこで吸ったらいいのか』とよく聞かれる。喫煙所さえあればご案内できるんですけれどね。だから、商店街の中にも早く作ってほしいと思っております」
急がれる「喫煙環境の整備」
先のアンケート結果のように、喫煙所の整備が足りないことは非喫煙者も感じている事実であり、それが結果として路上喫煙を誘発している側面もある。半面、京都市では市内19カ所に公共の喫煙所を整備し、路上喫煙防止の啓発活動を行ってきた。その結果、ピーク時の2012年には6794件であった違反者の加療処分件数が2023年には277件まで減少と、その効果を証明している。
寓話「北風と太陽」ではないが、厳しい法令によるさらなる締め付けよりも、充実した喫煙環境を整備した方が、喫煙者はもちろん非喫煙者にとっても、有効に機能するのではないか。そしてそのためには、行政と事業者、そして市民が協力しあい、互いが譲歩できる喫煙環境の実現を目指すべきではないだろうか。
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