(ブルームバーグ): ウォール街では極めて重要な選挙の結果を予想し、それに基づいたトレードを試みた過去の事例はあるが、残念な記録しかない。バイデン米大統領が選挙戦から撤退した現在、最新の政治ニュースに基づいた投資に潜む危険性はいっそう鮮明になった。

  共和党有利との見方が数週間前から高まるにつれ、一連の「トランプ・トレード」が姿を現している。長期債を中心に米国債をショート、暗号資産(仮想通貨)をロング、小型株などの高リスクの株式と銀行株をロングといった具合だ。しかし今週末の出来事が明らかにしたように、選挙結果が明らかになる4カ月前に仕掛けるトレードは、それが経済に与える意味合いは別として、成功する確率は極めて低いとしか言いようがない。

  全米規模の選挙を先取りする危険性について教訓を示したいなら、2016年までさかのぼれば済むことだ。当時はウォール街の事実上全員がトランプ氏の勝利で市場は混乱の海に突き落とされると身構えていた。しかし間もなく減税と規制緩和の楽観が浸透すると、そうした警戒は和らいだ。S&P500種株価指数はその後1年で20%程度押し上げられた。

  あれから8年が経過し、さまざまな指標を元に市場の影響を推し量るのはさらに難しくなっている。民主党の候補者がまだ確定しておらず、連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策から地政学、市場のバリュエーションに至るまであらゆる要素が予想を複雑にしている。

  調査会社ギャブカル・リサーチの共同創業者、アナトール・カレツキー氏は「ウォール街のアナリストやエコノミストたちは『トランプ大統領』誕生が金融市場にどのような影響を与えるかについて、全く反対方向の考えを示している」と指摘。「トランプ氏が勝利すれば、関税によって米国の貿易赤字が縮小するためドル高になるのか、それとも米国は意図的に通貨を下落誘導しドル安になるのかといった具合だ」と述べた。

  トランプ・トレードの一部は22日の市場で若干巻き戻された。米国債利回り曲線はフラット化し、ドルは下落した。S&P500種は朝方の時点では小型株のラッセル2000を上回って推移している。

2ー30年債利回りスプレッド出所:ブルームバーグ

トランプ氏勝利ならドル上昇、発言に反し-ドイツ銀とバークレイズ  

  しかしトランプ氏勝利の場合に市場がどう動くのか、ウォール街のコンセンサスはバイデン氏が選挙戦離脱を決める前から崩れ始めていた。

  アルパイン・マクロのチーフ・グローバル・ストラテジスト、チェン・ザオ氏は減税がインフレを押し上げるだろうが、トランプが好むもう一つの政策である関税が個人消費を圧迫して、反対方向の効果を及ぼすと指摘する。

  「私の見方はこうだ。国内の減税は長期債に弱気の影響を与える一方、関税は強気に作用する」とザオ氏。「同時にこの政策を講じれば、その影響はゼロだ」と述べた。

動画:RBCキャピタル・マーケッツのロリ・カルバシナ氏出所:ブルームバーグ

  投資家はトランプ政権でこれを経験済みだ。選挙直後のドルは米国債利回りとともに急上昇したが、貿易戦争が経済楽観論に水を差すまでしか続かなかった。

  例えばドイツ銀行やアルパイン・マクロ、バークレイズなど大半のストラテジストはトランプ氏の政策がドルを押し上げると読んでいる。ただジェフリーズのクオンツチームはトランプ氏が連邦公開市場委員会(FOMC)への政治的圧力を強めれば、富保存手段としてのドルの価値が損なわれかねないとしている。

  こうした取引と関連付けが難しい他の市場要因もある。最も顕著なのは、予想を下回るインフレ統計を受けて9月にも政策金利が引き下げられる確率が高まったことだ。

  ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントでマルチセクター債券投資を率いるリンゼー・ロスナー氏は、ハリス副大統領が民主党の大統領候補となり、バイデン大統領の政策を継承すると想定すれば、結局イールドカーブはスティープ化する可能性があると指摘する。

  「どちらも財政抑制について議論しておらず、それが利回り曲線長期部分に織り込まれている」とロスナー氏。「いろいろなことが起きているので、特定の結果を想定してポートフォリオを組むのは賢明ではない」と述べた。

  アネックス・ウェルス・マネジメントのチーフエコノミスト、ブライアン・ジェイコブセン氏は自身が考える最も確実なトランプ・トレードは小型株への投資だと話す。ただその理由は主に割安なバリュエーションであり、政治とは関係ないという。

  トランプ氏勝利の場合に株式指数がどう動くかについては、まったく一致した見解が見えないが、銀行と銃、エネルギーといった銘柄は企業合併には有利になるというのが大半のウォール街の見解だ。

  11月までには多数の企業決算と、2回のFOMCがある。かつてのトランプ政権は金融危機後で初の利上げ後に始まった。次の政権は緩和サイクルの始まりととともに始まる可能性が高い。

  バンク・J・サフラ・サラシンの株式ストラテジスト、ウォルフ・フォン・ロートベルク氏はブルームバーグ・テレビジョンで「本当に大事なのは現在入手できるマクロデータであり、これが11月の選挙までにかなり変化する可能性がある」と話す。「今は減速サイクルが見られる。これが金利の世界を定義し、それが株式市場全般に影響していく。その影響の方が単なる政治よりずっと重大な影響を市場に与える」と述べた。

原題:Biden Exit Sounds Alarm on Trump Trades Riven With Contradiction(抜粋)

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