北京の名所「鼓楼」で大きな扉の隙間から向こう側をのぞく子供 KEVIN FRAYER/GETTY IMAGES

<悲観的な見方は根拠が薄い。土地、資本、労働力の市場主導による配分を進めれば、再び成長の波が起こる可能性はある>

新しい年の世界の経済と地政学がどう動くかは、世界最大の輸出国で第2位の消費市場である中国次第で大きく変わるだろう。しかし中国経済の健全性に関する一般的な評価には、大きな誤りがある。

2024年、中国経済をめぐる報道には明暗が入り交じっていた。中国のGDPは成長を続けているが、その正確な成長率は常に議論の的となっている。23年6月に21.3%を記録して政策担当者を震撼させた若年層の失業率は、24年9月に17.6%まで低下した。


直接的、間接的に中国経済の3分の1を占める不動産市場の危機は、ようやく落ち着きを見せ始めたが、これは政府が大胆な介入策を打ち出したことで取引が増加に転じたためだった。

一つ言えるのは、今の中国経済には過去30年間の活力が失われているということだ。中国の家庭が高い貯蓄率を維持し続けているため、消費の伸びは鈍い。

外国人投資家の中国に対する信頼感は、過去最低の水準とされる。さらに物価が下落するなかでデフレスパイラルへの懸念が高まっており、1990年代から経済が長期の停滞に入った日本と同じ道をたどるともみられている。こうした状況から、中国経済は既にピークを過ぎたという見方が出てきた。

だが、これらの評価はあまり信頼できない。第1の理由は、自社の利益が第一の多国籍企業や中国の成長に眉をひそめる外国企業・政府の視点を主に反映しているからだ。アナリストも高級品や電気自動車(EV)のように、中国国民が直面する課題とは関係のないごく一部のセクターに焦点を当てる傾向がある。

第2の理由は、こうした分析に証拠がないことだ。例えば外国の政策担当者は中国での消費の低迷をことさら重要視しがちだが、そもそも国内消費が成長を促進するという仮定には大いに議論の余地がある。


デフレリスクへの過度の懸念も、デフレが景気低迷につながるという前提から生まれている。だが、デフレが景気低迷の「症状」ではなく「原因」だという確かな証拠はない。中国でも日本でも、デフレと景気低迷は急激な人口高齢化など別の問題が引き起こしている可能性が高い。

経済動向の原因と結果に関する不十分な理解は、方向性の誤った、あるいは逆効果となる政策につながりかねない。一例が預金金利の引き下げだ。

貯蓄に対する見返りを減らすことで消費を促そうというものだが、この政策は多くの中国人をさらに貧しくするだけだ。加えて不動産の価値も下落すれば、家庭はむしろ貯蓄を増やそうとするだろう。子供をつくるのもためらうようになり、人口減少が加速する恐れがある。

中国経済の評価をめぐるもう1つの問題は、西側諸国ではなじみのある政策が中国でも有効だと仮定することだ。中国のファンダメンタルズ(基礎的条件)が西側とは大きく異なるという事実を無視している。

違いの一例が土地所有の問題だ。中国の総土地面積の55%は農地であり、地方政府が直接管理しているか農家に貸している。都市部の個人所有の住宅も、土地部分は地方政府のもので住宅所有者が借りている。


多くの国の国民は仕事の必要やライフスタイルに合わせて住む場所を自由に選べるが、中国では国内移住について厳しい規制がある。富裕層や高学歴者を除き、大半の人々が国内を移転することは非常に難しい。

さらに大半の中・高所得国の学生は、自分の才能や興味を徐々に発見し、高校卒業後に大学を受験するかどうかを決めることができるが、中国は違う。競争が激しく中央集権的な教育制度のため、人生のかなり早い時期から学業に投資し、集中的に勉強に取り組まなくてはならない。

このような制限はほかにも数多く、中国の庶民の経済生活を左右する。

中国が消費の低迷やデフレ圧力に対処するには、金利や財政支出といった「通常」の政策手段より、構造的問題に取り組む抜本的な改革が必要だ。

土地、資本、労働力の市場主導による配分を進めれば生産性が高まり、国民がより多くの金を稼ぐ機会を得られる。それが消費や投資の増加、信頼感の高まり、そして何より生活の質の向上につながるだろう。


このような改革は極めて複雑で慎重に取り組む必要があるが、適切に行えば非常に大きな成果が期待できる。

中国は計画経済から準市場経済へ移行することで、数十年にわたり驚異的な成長を達成してきた。今も残る制約的な計画経済の遺産を取り除けば、再び成長の波がもたらされる可能性はある。

©Project Syndicate


ナンシー・チエン
NANCY QIAN
米ノースウェスタン大学教授(経済学)。同大学の中国経済研究所の所長とグローバル貧困研究所の共同所長も務める。

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