衆議院選挙の結果、与党は15年ぶりに過半数割れとなり、最新のJNN世論調査で石破内閣の支持率は先月の調査から12.7%急落し38.9%となった。それでも「石破総理辞める必要なし」が7割を超える結果になった。“少数与党”として石破内閣はどこまで持ちこたえるのか。
政権発足1か月で「支持率10%以上急落」は過去30年で4例のみ
10月に石破内閣が発足して最初のJNN世論調査では支持率51.6%。これは2001年の小泉内閣以降、歴代内閣の発足直後の支持率では2008年の麻生内閣に次ぐ低い支持率だった。石破内閣はその後1か月を経て、12.7%下落し38.9%となった。
原因を探る前に、政権発足たった1か月で10%以上、支持率が下落した過去の内閣とその要因について調べた。こちらも同じく2001年以降で調べたところ菅直人内閣の1例のみだったので、さらに30年前まで遡ってみた。その結果、以下4例がそれにあたる。
①94年の羽田内閣はそもそも在任64日の短命内閣だった。非自民・非共産による7党1会派による連立内閣だったが総理に指名された直後に社会党が連立離脱し“少数与党”に。予算成立後、内閣不信任案が提出され内閣は総辞職。
②96年に発足した橋本内閣は、発足直後に住専(住宅金融専門会社)の不良債権に公的資金(税金)を投入することへの批判が支持率急落を招いた。
③2000年発足の森内閣は当初から総理の選び方が“密室談合”だと批判され、その批判を引きずったまま森総理から「神の国」発言が飛び出し支持率は急落。(※上記は「神の国」発言後緊急で行ったJNN世論調査の支持率)
④2010年の民主党・菅直人内閣では就任後、総理の口から唐突にでた「消費税10%」発言で支持率は急落。
15年ぶり与党過半数割れでも「総理辞任の必要なし」7割超
では石破内閣が開始早々躓いたのは何が原因なのか。
過去30年間を振り返り「発足直後に10%以上支持率低下」したのは4例しかないことを考えれば、いかに今回が異例かが分かる。過去の例はそもそも短命だった羽田政権を除けば、総理自身の“失言”や世論から不評を買った“失策”が多い。では石破総理がそれに匹敵するような失言や失策があったかというと、そうではない。むしろ総理自身の“発言のブレ”による信頼の低下や、前の政権から引きずった「政治とカネ」の問題に対する批判が主な要因となっているのではないか。
今回の衆院選は、15年ぶりに与党過半数割れとなり、羽田内閣以来、発足時“少数与党”となった。この結果については、「妥当」と考える世論が半数以上にのぼる。
一方でこの責任をとって石破総理が辞任すべきか聞いたところ、「辞任の必要はない」が7割を超えた。この結果は政権幹部も意外だったようで「面白い数字だ」と吐露した。政権が発足したばかりで実績がなく、評価できないと世論も様子見の状態なのか。裏金事件で石破総理は悪くないと感じる人もいるのかもしれない。
この数字が後押しとなったのか、今のところ目立った「石破降ろし」の動きは出ていない。7日、衆院選の総括ともいえる両院議員懇談会が開催され、党執行部への批判、不満が噴出した。会議は予定を大幅に超える3時間となったが、早期に総理の辞任を求める声はほとんど出なかった。石破総理が辞任しても“少数与党”から脱却できる展望がないことがあげられる。
この2日前、自らに近い国会議員と会食した高市早苗前経済安保担当大臣は出席者にこう呼びかけた。
「自民党がガタガタしていたら野党になってしまう。しっかりとまとまって、盛り立てていきましょう」
どこまで続く「政治とカネ」の問題 自民党の対応に8割超が「納得せず」
かといって国民が自民党の「政治とカネ」への対応に納得しているかというと8割以上が納得していない。
この問題は自民党としてどうケリを付けるのだろうか。
衆院選で非公認となった裏金議員で、今回当選した議員を自民党が追加で公認することについては7割が反対している。こうした世論を受けてか自民党の森山幹事長は、これらの議員を自民党の会派には入れたが、追加公認は「検討していない」と明言した。石破総理自身は選挙前、追加公認には前向きだったが、世論の反発を考え慎重な対応を取らざるを得なくなったと見られる。
自民党は今回の衆院選挙でいわゆる裏金議員46人を非公認または、公認はするものの比例代表での重複立候補をさせない対応をとった。公認するか非公認とするか、その線引きの1つは政治倫理審査会で自ら説明したかどうか、だった。この基準は来年夏の参議院選挙でも適用するという。そうであれば、参議院でまだ説明していない裏金議員に政倫審出席を求めるかどうかも焦点だ。
さらに次の臨時国会では、先の通常国会で“ザル法”と批判されながらも成立した政治資金規正法の再改正も焦点となる。政党から政治家個人に渡され、領収書のいらない「政策活動費」や自民党の主な収入源となってきた「企業・団体献金」について主要野党は廃止や禁止を求めている。再発防止のため、政治資金の法令違反時に勧告する第三者機関の設置を盛り込めるかどうかもポイントになる。
“少数与党”が今回どこまで野党と譲歩し、再改正にこぎ着けるか。再発防止への実効性が担保される法律にならなければ「政治とカネ」の問題は、次の参院選でも争点になりかねない。
「30代の支持率1位」飛躍した国民民主党「103万の壁」見直しの実現は?
今回の衆院選で議席数を飛躍的に伸ばしたのが国民民主党である。「各党の支持率」をみても、最も上げ幅が大きいのが国民民主で、先月の調査1.5%から9.1%に急上昇している。これまでは政党支持率は1位自民、2位立憲、3位維新の順だったが、今回は維新を押しのけ3位となった。
支持政党を世代別に詳しく見ると、国民民主は30歳未満では自民党に次ぐ2位、30代では1位だ。
その国民民主が今回の選挙で強く訴えたのが「手取りを増やす」政策。なかでも年収「103万円の壁」を178万円まで引き上げることを主張した、都知事選で2位となった石丸伸二氏のSNS戦略を参考にしたという、玉木代表の動画は各種SNSで拡散され、とくに若者層の支持に繋がった。
課題も指摘されている。高所得者にとっては減税幅が大きく有利な点、この恩恵を受けない低所得者層への対応、そして財源だ。政府は国民民主が求める178万円まで引き上げることで7~8兆円程度減収となる。手取りを増やすなら、社会保険料が発生する「106万/130万の壁」が本丸ではないかと指摘する声も上がる。そうして懸念も加味した上で、こうした「年収の壁」の引き上げには66%が賛成だという。
今後自民党と国民民主党は政策責任者同士がこの「103万円の壁」の見直しを含む経済対策の協議を重ねる。自民党内でも年末の税制改正大綱にむけ、税制調査会が本格稼働し、詳細設計を協議する運びだ。
過半数割れしている“少数与党”の自民党にとっては、野党がまとまって内閣不信任案を提出すればすぐ可決される不安定な状況であり、これまで「数の力」で押し切ってきた法案の通し方は通用しない。
自民党としては、これまで政府・与党に”是々非々”の対応をし、過去2度予算案に賛成した“実績”のある国民民主党からの協力を得たい。そのためにも国民民主が求める「103万の壁」の引き上げは、自民にとって最初の関門となる。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。