瀬戸内市牛窓町を舞台にしたドキュメンタリー映画「五香宮(ごこうぐう)の猫」が岡山市内の映画館で公開されています。手掛けたのは4年前から牛窓に暮らす想田和弘さん。海外の映画祭で数々の賞を受賞してきた想田さんが新作で切り取ったのは、「愛しき瞬間」です。

映画作家・想田和弘さん「台本やあらすじを用意しない独自のスタイル」

「あんたのとこには、いっぺん聞いてみたいと思ようたんじゃ」「はい、何ですか?」「奥さんのどこが良くて惚れたん」「ははは」「そんなに喜ばんでもええが」

近所の人と触れ合うため週に一度、地域のコミュニティーハウスを訪れるという男性。

(瀬戸内市牛窓町在住の映画作家 想田和弘さん)
「大体女性メンバーが中心なので、僕はごはんをよばれに来るだけなんですよ」

瀬戸内市牛窓町在住の映画作家・想田和弘さん。台本やあらすじを用意しない独自のスタイルでドキュメンタリー作品を制作していて海外の映画祭で数々の賞を受賞してきました。

今回、想田さんが約2年半をかけて制作したのは牛窓に暮らす人々の「日常」を切り取ったドキュメンタリーです。

『いただきまーす』

(映画作家 想田和弘さん)
「こういう映画にしたいとか、こういう展開になってほしいとかそういうことは考えずに、とにかくカメラを回す。カメラを回しながら分かったこと、出会ったこと、起きたことをそのまま映画にする」

制作のきっかけは、牛窓の人々との出会いでした。

大学卒業後、映画制作を学ぶためニューヨークへ

東京大学在学中に、やりたいことが見つからなかったという想田さん。卒業と同時にふと映画制作を学んでみようと思いニューヨークに渡りました。

(映画作家 想田和弘さん)
「映画って映画だけ見ていればいいわけじゃなくて、できれば絵画とかダンスとか演劇とか写真とか、いろんな芸術に触れる機会をもったほうがいいわけですけど、それには本当に理想的な街だったんです」

その後、ニューヨークでテレビ番組の制作会社に入社しましたが、事前に準備した台本に沿って制作する方法に違和感を覚え、退社。ニューヨークに拠点を置いたまま、妻・規与子さんの故郷である岡山で、あらすじを立てないドキュメンタリーを撮るようになりました。

「何やってんですか」「カメラマンです」

撮影のために牛窓を訪れる中で、ニューヨークにはないコミュニティーの魅力を感じるようになります。

(映画作家 想田和弘さん)
「地域に住む人が家族のように繋がりを保っているというのは、本来の人間の在り方というか、人間らしい生き方なんじゃないかなと感じてます」

牛窓へ移住「猫の街・牛窓の猫が急激に数が減っていく」

そして4年前、牛窓に移住。自身が魅力を感じた街の人々や景色を「映像に残しておきたい」と思い立ち今回の作品の撮影を始めたのだといいます。

「五香宮の猫」本編音(不妊去勢手術のための捕獲)

撮影を続ける中で興味を惹かれたのはここ数年の「街の変化」です。

「五香宮の猫」本編音
『飼い主のいない猫を減らしていこうという気持ちで、今いる猫は大切にしようという』

「猫の街」とも呼ばれるほど至るところに野良猫が住みつく、牛窓。しかし、最近は急激に数が減っていました。その理由は地域住民が取り組んでいる不妊去勢手術です。不法に捨てられた猫が過剰に繁殖し、糞尿被害が増えたため、猫を捕まえ、仕方なく、手術していました。

(映画作家 想田和弘さん)
「コントロールできない存在ですよね、猫って。制御不能な、イレギュラーな存在。そういう猫をなんとなく今まで許容していたものが、許容しにくくなってきているというか」

人の手によって、猫が姿を消していくことに、想田さんは複雑な気持ちになったといいます。

(映画作家 想田和弘さん)
「避妊・去勢手術に関わって実際に実行して、やってきたわけですけど、減っていくのは当然なんですよね。ただそれを見ていると、え…っていう。このままだと本当にいなくなっちゃうんだなっていう。なんか、あまりにも猫ってどこにでも、いつでもいるようなイメージがあるから」

変わりゆく、街。

コミュニティーハウス「てんころ庵」には高齢化の波が押し寄せ、利用する人は年々減っています。

(てんころ庵に通う地域の方)
「そこに死んだ人の名前があろう」「死んだ人がぎょうさん出とるじゃろう。もうおらんから、いう調子で」

(映画作家 想田和弘さん)
「この瞬間を残しておきたいと思うときにカメラが回る気がするんですよね。どんどん消えていってしまう、愛しき瞬間」「僕がいいなと思うものも、やっぱりどんどん消えていく。その消えていきそうなものを、大切にタイムカプセルに入れるように撮らせてもらうっていうのかな」

想田監督が牛窓の街で感じた「愛しき瞬間」。私たちのすぐそばにもあることに気づかせてくれる新作です。

【スタジオ】映画「五香宮の猫」は岡山市北区のシネマ・クレールで11月14日まで上映される予定です。

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