◆「マザームーン」発言の山本朋広氏になかなか会えない
候補者の演説を聞く鈴木エイト氏=19日午後、東京都内で
東京新聞「こちら特報部」は17〜19日、東京や神奈川の複数の選挙区で、候補者をウオッチするエイト氏に同行した。17日午後に訪れたのが神奈川4区(横浜市栄区、鎌倉市、逗子市、葉山町)。大船駅を降りてすぐ目に入るのは「カルトにNO!」の大きな文字。自民党候補の前職山本朋広氏(49)の選挙事務所だ。「ここまで言い切るのは本当に教団と接点がないのか。以前のスタッフで気になる人がいる」とエイト氏。遊説先で山本氏に接触しようとしたが、地元マスコミにも遊説予定を公表していない。事務所で確認すると、スタッフの女性が「いま分かる人がいない」と繰り返した。 エイト氏は2017年、山本氏が東京都内で開かれた教団の集会に来賓として出席し、あいさつで韓鶴子総裁を「マザームーン」とたたえたと報じた。同年10月の衆院選中に山本氏に直接取材すると、選挙妨害だとして警察を呼ばれた経験がある。「懐かしいですね。あの時以来です」。駅前の交番を見ながらつぶやいた。「カルトにNO!」と訴える山本朋広氏の選挙チラシ
この日、夕方に大船駅周辺で街頭活動をするとの情報を受け、地元新聞社や複数のテレビ局の記者が待ち続けたが結局、山本氏は姿を見せなかった。地元で企画された公開討論会も欠席していた。「まさか会うのにこんなに苦労するとは。カルトと関係を絶ったと宣言しながら、選挙の場で積極的に説明しようという姿勢がないのは矛盾していますよね」とエイト氏は静かに指摘する。◆「私はカルトではないから。随分、誤解されている」
翌日、夕方に別の駅で街頭活動をするという情報を得て向かうと、チラシ配りの準備をする山本氏を発見した。「やせましたか?」とエイト氏が声を掛ける。「大変ですよ。人生が随分変わってしまいました。おかげさまでめちゃくちゃ厳しいですよ」。驚いた山本氏が警戒しながらも応じる。旧統一教会との関係断絶について問われると「私はカルトではないから。随分、誤解されている」と返した。チラシでも「信者だと誹謗(ひぼう)中傷を受け、被害に遭われた方々の心痛に共感した」と強調する。 「(スタッフの)○○さんはもういないんですか」とエイト氏が切り出すと「もう辞めてますね。本人の希望です」と山本氏。「教団との関係を絶つ意味で?」と質問を重ねると、「そもそも信者かどうか知らない。内心の自由があるので確認はしない」と述べた。その上で「(教団の集会に)呼ばれてあいさつしただけなので、組織的な関係は全くないですよ」と強調した。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)=資料写真
遊説予定を公表せず、討論会に参加しなかった理由について、スタッフの男性は「逃げ回っているつもりはないのですが。直前まで予定が決まらないんです。討論会も日程が合わなかったためです」と説明した。 神奈川4区は前回、前々回と小選挙区で勝利している立憲民主の前職早稲田夕季氏(65)に山本氏が挑む構図。日本維新の会の新人加藤千華氏(26)、参政党の新人津野照久氏(57)も立候補している。◆「政治の存在によって被害がより深くなっている」
同行した3日間でエイト氏は、神奈川4区以外にも東京都内で、自民の推薦を受けた元職や、裏金問題で自民の公認を受けられずに無所属で出馬した前職の演説会などを訪れた。いずれも自身が旧統一教会とのつながりを指摘してきた政治家だ。現場では、選挙活動を支えるスタッフなどを注視する。「今回の選挙で表立って教団が組織的な選挙支援をしているとは考えにくいですが、確認は必要」。いずれの候補者も演説で、旧統一教会の問題に言及することはなかった。「自分は関係ないんだというスタンスなんでしょう」自民党本部=資料写真
なぜここまで旧統一教会の問題を追い続けるのか。「最初は、目の前で行われていたカルト宗教の違法な勧誘行為をやめさせたいという理由だった。誰かがやらなければ、多くの人がはまってしまう」。安倍氏の事件前から、政治家と教団のつながりを指摘してきた。先日も、過去の選挙で自民党が教団の強力な支援を受けてきたことを暴く記事を公開した。「政治の存在によって被害がより深くなっている。政治家個人が教団と関係を絶ったことを強調するだけでは問題の本質を理解したことにならない」。自民党が組織として検証する必要性を訴える。◆1300人データベース 「旧統一教会」に加え「裏金」問題の有無も
政治家と教団との関係を検証する動きはエイト氏だけではない。両親が現役信者で、30代の元信者の「もるすこちゃん」(仮名)は、総選挙に立候補した1300人余について、過去に報じられた教団との関係を、生成人工知能(AI)を使ってデータベース(DB)化。「統一決別 解散総選挙 国会議員データベース」として公開し、投票の判断材料の一つにしてもらおうとしている。14日の公開後、8000件以上のアクセスがある。「もるすこちゃん」が作成したデータベースのトップ画面
DBでは、選挙区ごとにAIがこれまで教団との関係性が強いと判断した候補者名が赤色で示され、裏金に関係した場合は紫色、両方に関係ある場合は黄色になる。候補者の裏金有無や教団との具体的な接点、関わり度合いの評価、その根拠となった情報のリンクを見ることができる一覧も作成した。 「選挙で国民の審判を受けるべきだが、国民の間でもこの問題が終わったことになりつつある」と危ぶむ。もるすこちゃんは教団に献金し、経済的に苦しい両親に代わって自身や親族の学費などを負担してきた。「事件を受けて救済法が成立したが実効性がない。誰も救われない法律ができただけだ」。問題がまだ現在進行形であることを強調する。◆「説明責任を果たさずに当選しても、みそぎにはならない」
被害者支援に取り組む全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は16日、主要8党に教団との関係などを尋ねた公開質問状の回答を公表した。自民党は「問題を受けガバナンスコードを改定し、今後もこれを順守した政治活動を徹底する」と回答。自民党と公明党以外は、問題についての調査の必要性を訴えた。 「旧統一教会と政治の関係についての整理や調査が行われる前に裏金問題が発覚した。総裁選後の公認など裏金を巡る動きが活発すぎて、結果として旧統一教会の問題が隠れてしまっている」と話すのは、中央大の山崎望教授(政治理論)。「本来、今回の選挙で『政治と宗教』の関係を問い直す必要がある。『政治とカネ』と同じく大きな争点だが議論が広がっていない」と指摘する。 選挙で当選すれば、関わった議員がいずれの問題も「みそぎを終えた」とされかねない。山崎氏はこう強調する。「それぞれの問題について議員は自らが公に説明する義務がある。説明責任を果たさずに当選しても、みそぎにはならない。自民党の内部調査は不十分。与野党関係なく、当選した議員は調査に協力するべきだ」◆デスクメモ
先日期日前投票を終えたばかり。もるすこちゃんのDBで調べたところ、自分の選挙区に教団との関わりが伝えられた候補者はいなかった。とはいえ今月新たに教団の選挙支援や会合出席を認めた大臣もいて、疑念は残る。説明せず逃げ回る候補者は、有権者にも同僚議員にも失礼だ。(恭)
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