空き家に忍び込み、電気・ガス・水道も契約、エアコンも設置して無断で住んでいたとして「不動産侵奪」などの罪に問われた25歳の男。裁判では男の計画的な犯行と身勝手な動機と共に、「家を出て自立したい」という息子を見守ってきた両親の葛藤も明らかとなった。裁判所の判断は?

「不動産侵奪」と「邸宅侵入」の罪に問われているのは25歳の男。

「不動産侵奪罪」はいわば不動産についての窃盗罪で、刑罰は10年以下の懲役。罰金刑はない。終戦後、特に都市部で土地の不法占拠が横行したことから1960年に新設された。

起訴状などによると、男はことし3月28日~4月25日までの間、長崎県大村市の2階建ての空き家に侵入。家具を搬入したほか、電気、ガス、水道を契約しエアコン4台も設置して住み始めて占拠し、他人の不動産を侵奪したとされている。(第1回公判の傍聴記は「空き家で電気・ガス・水道を契約し生活していた25歳男…なぜバレなかった?犯行の背景に《盲点》」で読むことができます)

1週間前にも空き家に

長崎地方裁判所でことし8月に行われた第2回公判。
検察は、男が大村市の空き家に入る1週間前にも、インターネットで見つけた長崎県諫早市の空き家を、「海岸沿いで眺めがいい」という理由で別荘にしようと考え、玄関ドアのカギを業者に交換させて侵入したとして、「邸宅侵入」の罪で追起訴していた。

どちらの犯行でも、男は業者にカギの交換を依頼しており、その際不審に思われないように、「売家」の看板を取り外して隠したと指摘されている。

検察の冒頭陳述によると、最初に忍び込んだ諫早市の家には、自宅から寝具などを持ち込み1泊。朝になり、部屋の中に物があることに気づいた男は「誰かが住んでいて帰ってくるかもしれない」と考え、長崎市内の自宅に戻った。

人が侵入した形跡

この空き家を管理していた女性は、人が侵入した形跡を見つけ「何が起こっているのか分からず恐怖だった。犯行について知るよしもありませんし、知りたくもありません」と話しているという。

男は「邸宅侵入」の罪についても「間違いありません」と起訴内容を認めた。

「空き家」を買い取ったのは

第2回公判当時保釈され、両親とともに関東で暮らしていた男。この公判の中で、検察官は初めて、男が軽度の知的障がいを抱えていることを明らかにした。以下は証人に立った被告の父親の証言だ。

【被告父親の証人尋問】
弁護士:
「諫早の空き家に侵入して1泊、大村の空き家で約1か月暮らした被告の行為について、どう思いましたか」

父親:
「初めて聞いた時は信じられなかった。被害者に心配と迷惑をかけた。親としての責任も非常に大きい」

弁護士:
「大村の空き家の管理者との示談はどうなっていますか」

父親:
「妻とともに直接管理会社へ謝罪した。被告が保釈されてから再度3人で謝罪へ。不審者が侵入した事実で『家の価値が下がった』と言われ、事件前の売値で買い取った」

弁護士:
「諫早の空き家の持ち主の女性との示談は」

父親:
「カギの被害など弁償したいと考え、警察などにも協力してもらっているが『連絡しないでほしい』と断られ、進んでいない」

弁護士:
「親として被告を監督する予定は」

父親:
「していくつもり。まずは職に就くため、障がい者就労支援センターなどに行かせる。今後は自分の方が先に死ぬだろうから、第3者による監督にも頼らないといけない。その中で本人の自立の道を探っていく。仕事をしながら償いを終わらせてほしい。保釈後の現在、アルバイトを始めて1か月ほど経った」

車や家電…欲望を抑えられない息子

弁護士:
「長崎での一人暮らしの様子は」

父親:
「引っ越し後、高額の車や家電を大量に購入し、クレジットカードで返済能力を超えた買い物をしていた。被告の根本にあるのは『欲望が抑えられない』ことだと思う」

検察官:
「被告が一人暮らしを始めた経緯は」

父親:
「特別支援学校を出て企業へ就職。途中で正社員登用もされ、約6年半勤めていた。しかし、2023年8月ごろ『家を離れ、自立したい』と言い出した。親としては勤続してほしかったが被告から『業務内容がつまらない。友達もできない』と相談され、このままの状況で本人のためになるのか、と思い始めた」

検察官:
「なぜ被告は『自立の地』に長崎を選んだのか」

父親:
「自分の勤務地の関係で、被告は長崎県大村市で生まれた。その後も、長崎県で単身赴任する自分に会いに来ていた。そこで長崎に良い印象を持っていたのだと思う」

検察官:
「大村市の『不動産侵奪』事件の示談について」

父親:
「すべて自分(父親)の負担で、事件前の価格2970万円で買い取った」

裁判官:
「金銭管理が苦手で、相当額の負債も抱える被告について」

父親:
「収入に見合っただけの生活ができるように、訓練していかなければいけない」

証言に立った父親は、息子を信じその自立を見守っていたこと、その中で、想像もしない様な罪を犯したことに対し、大きなショックを受けている心境を語った。

息子が侵入した「空き家」を買い取り、今は関東で一緒に生活し自宅からアルバイトに行かせているという父親の行動や証言からは、後悔と責任、再犯へのおそれ、そして今後への大きな不安が感じられた。

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