<医療の値段・第5部 続・明細書を見よう>②  東京都内の70代の女性は高血圧で、5年以上前から近所のクリニックに通っていた。5月の医療費は、診療代が4580円、院内薬局の薬代が420円の計5000円。自己負担は1割で、500円を支払った。

◆なぜ支払いが増えた?「国の決まりです」

 6月からは院外処方となり「薬代の分、病院での支払いは減ると思った」。だが、810円と上がったので、診療明細書を見ると、いつもの特定疾患療養管理料2250円(診療報酬点数225点、1点10円)の代わりに、高血圧の「生活習慣病管理料(Ⅰ)」6600円を請求されていた。  「7月も同じだったので『なぜ上がったのですか』と会計で聞くと、『国の決まりです。これからはこの金額になります』と言うので、びっくりしました」  女性はこの連載やネットで、生活習慣病管理料には、検査や注射込みの包括料金(Ⅰ)と、包括料金ではない3330円の(Ⅱ)があることを知った。(Ⅰ)は検査をあまりしない人には割高感がある。女性の検査は半年に1回だけ。クリニックに手紙を出した。

◆毎回検査をするわけでもないのに

 「毎回検査をするわけでもないのに、なぜ(Ⅱ)ではなく、(Ⅰ)を算定されるのか教えてください」  結局返事はなく、病院を代えることにしたが、疑問や不信は以前からあった。  今年はクリニックの休みの事情で、薬は3~5週間分の処方となり、通院は平均月1回だったが、昨年までは2週間分しか処方されなかったので、月2回の通院を余儀なくされた。  「血圧はずっと低めで安定していました。2週間ごとの通院は大変だし、医療費もかかるので、薬の長期処方をお願いしたけれど、『それはこちらが決めること』と断られました」

◆2週間ごとの通院は「必要ない。お金を取るためだよ」

 血圧は毎日手帳につけ、診療の際に持参していた。  都内のベテラン開業医は「生活習慣病で状態が安定していれば、2週間おきに通院の必要はない。なぜ来させるかといえば、お金を取るためだよ」と怒る。

女性が数年前から毎日記録していた「高血圧管理手帳」

 女性が5月まで請求されていた特定疾患管理料は月2回まで算定できた。薬代を除いた女性の1回の診療代は4500円前後。昨年まではそれが月2回で9000円、年間10万8000円で、自己負担は1万800円となる計算だ。月1回の通院ならその半分で済んだ。

◆6月の改訂後も、医療機関によっては「抜け穴」が

 厚生労働省は6月の診療報酬改定で、医療費を膨張させる頻回な診療をなくそうと、高血圧、糖尿病、脂質異常症を特定疾患管理料の対象から外した。同省のデータベースで、1カ月間(2022年5月)の3疾患にかかる特定疾患管理料の算定回数は1264万回(約284億円)と、全体の97.8%を占めた。  外す代わりに受け皿として生活習慣病管理料(Ⅱ)を新設。算定回数を月1回に減らした。だが、医療機関によっては、改定後も検査などは少ないままなのに、(Ⅱ)ではなく、患者に割高な(Ⅰ)を請求する抜け穴的な診療が行われている。女性が怒る。  「診療内容は同じなのに(Ⅱ)の倍の料金を取るなんて、ひどいですよね」

 生活習慣病の診療代の改定  旧「生活習慣病管理料」は療養計画書の作成や患者の同意取り付けに手間がかかるとして、医師から「使い勝手が悪い」と敬遠された。そのため計画書の必要がない「特定疾患療養管理料」を算定するケースが多かった。6月から旧・生活習慣病管理料は計画書が簡素化されて同(Ⅰ)へ移行。特定疾患管理料の代わりの受け皿として同(Ⅱ)が新設された。

  ◇  6月の診療報酬改定に合わせて生活習慣病の診療代の頻回な請求を取り上げた連載第3部に、多数の情報や意見が寄せられた。改定後は「医療費が値上がりした」「薬の長期処方やリフィル処方を断られた」という声が今なお届く。問題をもう一度追った。(杉谷剛が担当します)  連載へのご意見や情報をお寄せください。メールはsugitn.g@chunichi.co.jp、ファクスは03(3593)8464、郵便は〒100-8505(住所不要)東京新聞社会部「医療の値段」へ。 <医療の値段・第5部 続・明細書を見よう>
<①>診療報酬改定で「便乗値上げ」? 生活習慣病の診療代が1000円アップ なぜ?と指摘したら、後日返金に
<②>突然「倍の料金」に…高血圧の女性が憤る、割高な「管理料」 国は過剰診療を是正、でも「抜け穴」が(この記事)
<医療の値段・第4部 続・環流する票とカネ>全3回
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