世界的に活躍するクリエーターがデザインした渋谷区内の公共トイレを巡るツアーが注目されている。国内外で高い評価を得た映画「PERFECT DAYS」に登場したトイレが見られるとあって、海外からの客も多い。ツアーに参加してみると…

 PERFECT DAYS 2023年、日独合作。監督はドイツの巨匠ビム・ベンダース。トイレ清掃員の質素ながらも丁寧な暮らしを描いた。主演の役所広司さんは昨年のカンヌ国際映画祭で男優賞に輝いた。

恵比寿東公園トイレについて英語で説明するボランティアガイドの長谷川紀生さん(右)。トイレは槇文彦氏がイカをイメージデザインした=渋谷区で

◆槇文彦さんは「イカ」モチーフ、一軒家のようなトイレも

 建築家やデザイナーなど16人が設計した「THE TOKYO TOILET」のトイレは17カ所。今回は、渋谷駅から東側の8カ所を2~3時間で巡る「東コース」に参加した。  1カ所目は恵比寿東公園にあった。今年6月に亡くなった世界的建築家、槇文彦さんの設計で、映画で最初に出てくるトイレでもある。「タコ公園にできたイカトイレです」と、ボランティアガイドの長谷川紀生(のりお)さん(70)が英語と日本語で解説する。タコの形をした赤い遊具と対照的に、イカの頭の曲線を思わせる白い屋根が目を引く。

細長いスペースを利用した東三丁目公衆トイレ(田村奈穂氏デザイン)=渋谷区で

 4カ所目の東三丁目公衆トイレは真っ赤。線路沿いの細長いスペースを活用した。次の広尾東公園トイレは照明パネルが張られ、世界人口と同じ79億通りの点灯パターンがあるという。6番目の神宮前公衆トイレは古き良き一軒家を思わせるデザインが印象的だ。

古き良き一軒家をイメージした神宮前公衆トイレ(NIGO®氏デザイン)=渋谷区で

◆参加者の半数以上が外国人観光客

 コース最後の神宮通公園トイレは建築家安藤忠雄さんの設計で、格子状の外壁は風や光を通すが、中が見えることはない。「ビューティフル!」と豪パースから旅行で訪れたカレン・オニールさん(71)が息をのむ。映画に感銘を受けて夫のグレッグさん(74)と参加し、「デザインがすてきで、それぞれの場所にすごく合っていた」。記者もアート鑑賞をしている感覚になり、公共トイレを巡ってこれほど楽しめるとは思わなかった。

「あまやどり」と名付けられた神宮通公園トイレ(安藤忠雄氏デザイン)=渋谷区で

 「THE TOKYO TOILET」は公共トイレを誰もが快適に使えるように生まれ変わらせようと、ファーストリテイリング取締役の柳井康治さんが発起人となったプロジェクトだ。デザイン面のほか、人工肛門や人工膀胱(ぼうこう)を使うオストメイト対応の設備などを備え、グレッグさんは「機能的で障害者にも使いやすい」と感心していた。  ツアーは今年3月にスタート。NearMe(中央区)が企画・運営する。半数以上は外国からの客だという。

◆清掃員の心がけは…

 映画やツアーを通じて注目されることを清掃員も歓迎している。山崎純一さん(55)=埼玉県戸田市=は「こういう仕事が世に知られるのは良いこと。やりがいを感じる」。長く使えるように強い薬品を用いず、丁寧に磨くことを心掛けているという。  ツアーは毎週木、土曜日に実施。渋谷駅西側の9カ所を巡る西コースもある。料金は1人4950円(税別)。ツアーの公式ウェブサイトから予約する。  ◆文・浜崎陽介/写真・須藤英治  ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へメールでお願いします。

分厚い壁が特徴の恵比寿公園トイレ(片山正通氏がデザイン)=渋谷区で

真っ白な恵比寿駅西口公衆トイレ(佐藤可士和氏デザイン)=渋谷区で

マーク・ニューソン氏が日本の伝統的な建築を引用しデザインした裏参道公衆トイレ=渋谷区で

照明に79億通りの点灯パターンがある広尾東公園トイレ(後智仁氏デザイン)=渋谷区で

広尾東公園トイレ(後智仁氏デザイン)は誰でも使えるように個室になっている=渋谷区で



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