全国では、多くの自治体で「保護された野犬の殺処分」が続いています。そうしたなか、岡山市では殺処分が7年に渡って行われず、野犬たちの命が救われています。殺処分が無くなった背景には、ある人たちの弛まぬ努力がありました。

この日、2匹の子犬(野犬)が山の中で見つかった

【画像①】

「野犬の子犬がいる。歯が生えはじめくらいなので、生後1か月くらいですね。もう一匹は小さめですね」

「もしかしたら親が違うかもしれないです。毎年毎年この繰り返しなので、親を捕まえないと駄目ですね」【画像①②】

【画像②】

岡山市内にある山中で、男性が抱えているのは子どもの2匹です。岡山市保健所の丸山稔さんです。

獣医師の資格を持つ丸山さんは、2018年から岡山市内で野犬の保護活動に取り組んでいます。

全国で毎年2000匹以上の野犬が殺処分

全国では年々、野犬を含む犬の殺処分数は減っているものの、毎年約2000匹以上の犬が殺処分されているのが現状です。

一方、岡山市は2017年からボランティアの協力を得て、「保護犬の里親探し」といった譲渡に尽力し、7年連続で殺処分ゼロを維持しています。

「野犬保護→訓練→譲渡」の仕組みを構築 殺処分ゼロに

岡山市北区の池田動物園です。園内には、野犬を保護する施設があります。池田動物園の協力で岡山市が運営する「ZOOねるパーク」です【画像③】。

2020年に設立されたこちらの施設では、保護された野犬が人に馴れる訓練を実施。「飼育が難しい」といわれる野犬を、飼い主へ譲渡できる仕組みを構築しました。

【画像③】

「殺処分数ゼロ」の自治体は、日本全国でも稀なケースです。そんな岡山市ですが、かつては保護した野犬の多くが殺処分されていました。

(岡山市保健所衛生課 丸山稔さん)
「犬や猫は元々殺処分されるのが全てだったので、ここに集められた犬・猫は、ここに車が入ってきて、搬送車で処分施設に運ばれていました」

「殺処分の名残」残る保健所の地下1階

【画像④】

岡山市保健所の地下です【画像④】。現在、野犬の一時的な収容施設として使われているこの場所には、殺処分をしていたころの名残が色濃く残っています。

【画像④】

(岡山市保健所衛生課 丸山稔さん)
「これ、こうやって動くんですよ【画像⑤】。こうやって後ろに追い込ませておいて【画像⑥】、ここに付けて開けて追い込んで、この中に入れる【画像⑦】」

「それでそのまま車に積まれて。ここなんか刑務所みたい、留置所みたいでいやなんですよ」

【画像⑤】
【画像⑥】
【画像⑦】

2016年まで、この施設に収容された犬たちは強制的に訪れる最後の時を待つしかありませんでした。

(岡山市保健所衛生課 丸山稔さん)
「当時は絶望的でしたね。もう出しようがないので。今はこの子たちもいつか訓練施設に回せるから、何とか今は踏ん張って頑張ろうという気になる。当時は途方に暮れましたね」

あと10年 そこを乗り切れば野犬の数は減ってくる

(砂山祐佳里記者)
「この子犬たちは、生後約1か月。実はこの子犬たちも、元は野犬だったといいます」

保健所が保護した野犬が、新たな家族のもとへ旅立つための施設「ZOOねるパーク」。設立当初施設の建物は、池田動物園が無償で提供、現在は岡山市とボランティアが協力して運営を行っています。

この施設が設立されてから、4年で94匹が新たな飼い主のもとへ引き取られていきました。

この施設で最も大切なことは犬が「人に馴れること」です。

今ではボランティアと散歩を楽しむこの犬も保護された当時は、人への恐怖心をあらわにしていたと言います。

(岡山市保健所衛生課 丸山稔さん)
「あまり人を受け入れる、という感じではなかったですね。大嫌いな私にも触らせてくれるようになったので、すごい進歩ですね」

施設を設立当初から支えてきた丸山さんです。今も各地で続く殺処分の現状について思いを語ります。

(岡山市保健所衛生課 丸山稔さん)
「全国の殺処分している自治体にも当然獣医がいるんですけど。当然好きでやっているわけではなくて。致し方なくというか、今はどうしようもないから」

7年間にわたり殺処分ゼロを続ける岡山市ですが、これを維持するためには大きな課題があるということです。

(岡山市保健所衛生課 丸山稔さん)
「本当はすぐ、ZOOねるパークに移して訓練を始めたいんですけど、あそこがいっぱいになっている状況で。捕獲数が多すぎて譲渡までが追いついていない状況で」

丸山さんたちの活動により年々譲渡される野犬が増えています。しかし、一方で施設が受け入れることのできる数を上回る野犬が毎年保護されているのが現状です。それでも根気強く活動を続ける丸山さんたち願いはただ一つ。保護された野犬たちの幸せです。

(岡山市保健所衛生課 丸山稔さん)
「一般の家庭にいって、家族に囲まれて、毎日楽しく生活できるような環境に早くしてあげたいなと思います。あと10年とかは保護される犬の方が多いと思います」

「ただ、そこを何とか乗り切れば、きっと市内の野犬の数も減ってくると思いますので」

家庭の中で大切に育てられ一生を終える犬がいる一方で、野犬として生まれただけで捕獲され、冷たい床の上で短い生涯を終える犬もいます。

山の中にひっそりと暮らす野犬たちを救うため、丸山さんたちの活動はこれからも続きます。

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