『誰も電話に出んわ』『メールばっかりで滅入る(メール)よ』そんなベテラン上司が発するような"だじゃれ"を職場や家庭、人間関係に生かそうというワークショップが注目を集めている。なんと講座では"スベったときの対処法"も教えてくれるという。興味津々の筆者は言う気(勇気)を出して参加してみることにした。
言いたいことも言えない職場は「社員のシャイン(輝き)」放てない
東京都心や神奈川県内へのアクセスの良さから幅広い年齢層に人気の街「武蔵小杉」。ここに"だじゃれは世界を救う"をモットーに活動する『一般社団法人日本だじゃれ活用協会』なる組織がある。
先日、協会設立10周年を祝うイベントがあるというので会場を覗いてみると、小学生からシニアまで様々な世代の人たちが大勢集まり、書道パフォーマンスや、だじゃれクイズ、だじゃれの数を競い合うスポーツ大会などバラエティ豊かなワークショップで大いに盛り上がっていた。
いたるところ"だじゃれ"まみれの光景に圧倒されていると、「目的はただ量産するのではありません。『だじゃれを平和のワンピース』にすることです」という男性が"だじゃれ"の頭文字"D"のポーズで出迎えてくれた。
「椅子に座っていいっすか?」
のっけから"だじゃれ"を放つ この男性は鈴木ひでちかさん。社員研修などの講師養成コンサルタント会社を経営するなか、職場を和ませるコミュニケーションツールとしての"だじゃれ"に着目し『一般社団法人日本だじゃれ活用協会』を設立したという。
──"だじゃれ"の活用とはなんでしょうか?
日本だじゃれ活用協会 代表理事 鈴木ひでちかさん
「例えば、2つの組織があるとします。『Aは明るく笑いが絶えない、上下の壁もなくリラックスした職場』『Bはシーンと静まり返ってパソコンのキーを叩く音しかしない。上司の顔色を伺って発言し、常に成果と時間に追われている職場』さて、どちらで働きたいですか?やはり"Aがえぇ"ですよね」
──えぇ、そうですね
鈴木さん
「閉塞感のある緊張した職場では、言いたいことも言えなくなってしまいます。それでは社員の個性や創造性が発揮されません。さらに社員本来のシャイン(輝き)も放つことはできません。
そういった重たい雰囲気を吹き飛ばすためには地位の高い人が率先して職場に風穴を開けなければ解決しません。その突破口となりえるのが、ユーモアであり"だじゃれ"なんです」
とは言ってもベテラン上司が発する"だじゃれ"は ときに場をしらけさせる恐れがある。聞く側としては完全無視はできないし、なんとか苦笑いでやり過ごす。そんな経験をした人は少なくはないだろう。
ところが鈴木さんによると周囲から敬遠される発言と、人間関係の潤滑油になる"だじゃれ"の違いはセンスや語彙力ではなく、根本にある欲求が異なるのだという。
"だじゃれは for someone"「スタバはないけどスナバはある」
鈴木さんが代表を務める日本だじゃれ活用協会では、全国各地の職場や学校、高齢者コミュニティや自治体など幅広い場で"だじゃれ"の基礎から応用について指導をしている。その講座では"だじゃれの光と闇"についても論じられるという。
鈴木さん
「"だじゃれ"は優れたコミュニケーションツールであるにも関わらず、どうしても『寒い』『ウザい』といったネガティブな印象を持っている方も多いかと思います。特に若い人たちから嫌われてしまう傾向がありますね」
──いわゆるオヤジギャグですね。
鈴木さん
「そうです。オヤジギャグは『for myself』。自分が言いたいから言うことを優先し、その結果、失笑・批判・侮蔑の対象になって周囲との関係性を悪化させてしまいます。これでは"ギャグハラ"です。
一方で"だじゃれ"は『for someone』。相手を楽しませたい、雰囲気をリラックスさせたいなど、誰かに何かを届けたいという愛情があります。それぞれ根本にある欲求が異なるのです」
『for someone』な事例として教えてくれたのが、鳥取県 平井伸治知事の「鳥取にスタバはないけどスナバはある」だ。大手コーヒーチェーンの「スターバックス コーヒー」が県内に1店舗もないことを逆手に捉え、砂丘にかけた発言だ。この名言は話題の創出性と同時に鳥取県のPRに一役買う結果となり、現在でも"だじゃれ"が県の情報発信の一つとなっている。
つまり相手中心である"だじゃれ"は場の雰囲気を和ませ、周囲との関係を円滑にし、それが質の良い職場となり、やがて良い業績へと繋がるというわけだ。
そうは言っても そんなすぐに気の利いた"だじゃれ"なんてすぐには思いつかないもの。鈴木さんは「いきなり『笑いを取ろう』とするのではなく『スベってなんぼ』で繰り返し実践するのみ」だという。しかも万が一、スベった場合の対処法もあるらしい…
"だじゃれ"は打率3割 ウケたらラッキー!
"だじゃれ"は小さな子どもの語彙力でも楽しく遊べるのが特徴の一つだと思う。しかし、ここぞと思うときに限って焦ってしまい、中々良いものが思い浮かばない。案外"だじゃれ"って難しいな…
鈴木さん
「"だじゃれ"の活用には特別な道具も広い場所も必要ありません。言葉一つで、コミュニケーションに楽しく彩りを加えることができます。"だじゃれ"は打率3割。ウケたらラッキー!くらいの心構えで、色々な場所でどんどん活用してください」
たとえベタな"だじゃれ"でも相手を想う気持ちがあれば きっと何かは伝わるはず。そこで 協会認定のだじゃれ伝道師の大久保通博さん(ダジャレンジャー®︎33号)に"だじゃれ"のコツを教えてもらった。
【"だじゃれ"作成のコツ】
1.子音をずらす(バナナがない!そんなばなな)
2.同音異義語を使う(布団が吹っ飛んだ)
3.言葉を付ける(ブドウ、一粒どう?)
4.英語化する(台所をキッチンと片づける)
5.音を使う(象を見てゾ~っとする)
ちなみにスベったときは…
【スベったときの対処法】
1.シーンとしちゃいましたね
2.あれ?〇〇ではウケたんだけどな
3.ここ、笑うところなんですよ!
4.もう一度繰り返しますね
5.面白くないですか?
6.完全に滑りました。滑り出し好調ということで、早速初めていきましょう!
7.たまには笑ってください
鈴木さん
「"だじゃれ"を活用して周りの人に手を差し伸べる。そうすると相手も自分もハッピーになるし、居場所ができると思っています。職場でも学校でも地域でも世の中がそうなったら諍いなんて起きないのではないでしょうか。"だじゃれ"の普及活動の先には、"世界を救う"という、そんな広がりを感じています」
世界を見ると終わりの見えない争いが絶えず、何の罪もない多くの尊い命が犠牲になっている。そんな世の中に笑顔と希望をもたらす"だじゃれ"で平和を引き寄せ、いつか「戦争はもう、せんそうだ!」なんていう日が訪れることを真面目に願いたい。
取材:TBSテレビ デジタル編集部・石坂晶子
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