主にウイルスで感染することで発症する、子宮頸がん。予防のためのワクチンもあり「防げるガン」とされています。しかし、ワクチンの接種率は低調なままです。そんな子宮頸がんの予防の現在地を取材しました。

◇《子育てに追われる日々…まさかの病名》

いまから9年前、カラダの不調を感じた女性は、診察を受けた病院で、思いがけない病名を知ることになりました。

かなさん(45)は9年前、思いがけない病名を告げられる(9月取材・北海道旭川市)


かなさん(45)
「元々、生理不順だったので、不正出血が度々あったんですよね」

「それで、そんなに重要視していなかったというか、問題がある感じだと思っていなくて、ちょっと放っておいたんですけれど…」

「まさかガンっていうのは思っていなかった」


女性は当時36歳。子宮頸がんの初期段階にあると判ったのです。双子の娘たちはまだ4歳…、育児に追われるさなかのことでした。


かなさん(45)
「最初に、早期だったら子宮を取らなくていいんですか?と尋ねたんですが、(医師は)”それはどうかな…”って感じだった」

「本当に"なんでこうなっちゃったんだろう"ていう感じで、どうしようかなというか、もし(私が)死んじゃったら、子どもたちを残して、どうしようかなって思いました」

双子の娘の育児に追われる中で「子宮頸がん」の診断を受けた

◇《"マザーキラー"とも呼ばれる「子宮頸がん」》

女性は、再発や転移のリスクも考え、子宮を全摘する手術を受けました。しかし、辛く、厳しい日々が終わったわけではありませんでした。

退院してしばらくは、月に2回のペースで、術後の経過を確かめる検診を受けました。その後、間隔を置くようになったものの、受診のたびに、再発や転移に怯えたと話します。

かなさん(45)
「(手術から)8年が過ぎたので、いまは1年に1回になったんですけれど…最初は1か月に1度や3か月に1度だったので(検診に)行くたびに、やっぱりドキドキはしていました」

9年前に子宮頸がんと診断され、子宮の全摘出手術を受けた、かなさん(45)(9月取材・北海道旭川市)


子宮頸がんを発症する女性は、年間1万人以上。毎年3千人ほどが命を落としています。30代や40代の子育て世代の発症が多く"マザーキラー"とも呼ばれる病です。

ただ早期の段階では、自覚症状が現れにくいことも、子宮頸がんの特徴です。育児や仕事に追われる日常の中で、“どうもおかしい…”と不調を感じ、受診したときには、すでに手遅れというケースも少なくありません。

かなさん(45)
「何かこれは明らかに違う、何か絶対に病院へ行かないと駄目だと思って行ったんです」

「(定期健診に)もうちょっと早く行っていたら、子宮の全摘出は免れたんじゃないかとは、すごく思います」

◇《子宮全摘手術から9年…いまも辛い日々》

 足首などがむくむリンパ浮腫は、手術の影響です。子宮の全摘出に伴って、リンパ節を切除。リンパ液の流れが滞るようになり、右足に浮腫が起き、手術から9年が経ったいまも、女性を苦しめています。

リンパ節切除の影響で、術後9年が経っても「リンパ浮腫」が、かなさんを苦しめる


かなさん(45)
「日に日に足首のサイズが違ってきて、本当にこれを見るのが結構つらい…。本当に、何かが起こって、こっち(左)のサイズに戻ってくれないかと、毎日思っているんですけれど…薬を飲んだら、腫れが引くとかいうものでもないし」

「大もとのリンパ節がないから、結局、うまく循環できなくてというものなので…手術前までは、タイツは、嫌で履いていなかったんですけれど、もう嫌だとか、そんなレベルじゃなくて」

「(リンパ浮腫は)本当に、これ以上よくはならないので、悪くならないようにしていくしかなく」

「病気は何でも苦しいと思うんですけれど、すごく苦しい病気だし、本当にのちのちまで、引きずるというか…女性としての自信もなくすというか」

◇《主にウイルス感染が原因で発症…予防のためのワクチンも》

 子宮頸がんは、主に性交渉から感染するHPV【ヒトパピローマウイルス】によって発症する“進行性のがん”です。このため、特に発症リスクが高いタイプのウイルスに対し、予防が期待できる、3種類のワクチンが用意されています。

北海道大学大学院 医学研究院 産婦人科学教室 渡利英道教授
「原因を取り除ける、予防できるがんっていうのは、実はそんなにないはず。ワクチン接種でデンマークとかイングランドも80%くらい、発症のリスクを下げています」

「接種するなら10代の、いわゆる性交渉歴が、まだ少ないだろうという年齢に打った方がいいっていうデータがある」


国は2010年から、子宮頸がん予防を目的に、HPVワクチン接種を勧める、積極的な呼びかけを始めます。

さらに2013年4月からは【小学6年生から高校1年生まで】の女性を対象とした、定期接種を開始しますが、状況は一変します。

◇《「子宮頸がん」予防のHPVワクチンを巡って…》

HPVワクチンを接種したあと、体調の激変を訴える人たちが相次いだのです。国は因果関係は不明としつつも、接種の呼びかけを中止。

その結果、世代によって接種率に大きな開きが生まれました。

生まれた年によって【接種率】に極端な差が生じる結果となった


いまも体調の激変は、ワクチン接種による副反応だとして、125人の原告が、国と製薬会社を相手に裁判を続けています。そうした中…2年前、動きがありました。

エナ大通クリニック 鈴木友希子院長
「全体の9割近くは、HPVワクチンで予防ができるんですけれど、100パーセントにはならないんです」

「がん検診が要らなくなるわけではないので、そこはご注意ください」


札幌市内のクリニックを訪れた23歳の女性。HPVワクチンの接種が、来院の目的でした。

23歳の女性がHPVワクチン接種のため来院(9月・札幌市中央区)


国は2021年の秋、体調激変とワクチン接種について、因果関係は証明されておらず、ワクチンには高い有効性があると、事実上の安全宣言を出しました。そして、ワクチン接種を勧める呼びかけを2022年4月に再開。

また、接種の機会を失った人を救済するため、1997年度から2007年度にかけて生まれた女性を対象に、費用の全額を公費で負担する【キャッチアップ接種】も始めました。


北海道大学大学院 医学研究院 産婦人科学教室 渡利英道教授
「17歳から30歳で幅を持たせた世代の半分くらい(発症の)リスクが落ちているというデータになっている」


「キャッチアップでワクチンを打つことで(子宮頸がんを)予防できる人が、一定数いるだろうということ」

◇《接種の機会を逃した世代への救済策も…しかし》

36歳のときに、子宮頸がんの発症がわかり、子宮をすべて取る手術を受けた女性。当時4歳だった双子の娘も、いまは中学生になりました。

かなさん(45)
「(子宮頸がんは)ならないものなら、絶対にならない方がいいと思うので、それを予防できるワクチンがあるんだったら、やっぱり、打った方がいいと…私は思います」

9年前に手術を受けたかなさん(45)、双子の娘たちは中学1年生になった(9月取材・北海道旭川市)


しかし、キャッチアップ接種は、北海道内の初回接種率が、僅か【4.7パーセント】と低調で、全国平均の【6.1パーセント】を下回っています。

HPVワクチンのキャッチアップ接種について、札幌のマチで女性に尋ねると…。

19歳女性「特にない」
22歳女性「副反応とかが怖いイメージで(受けるかどうかは)半々」


いまも、学校や医療機関などから発信される、子宮頸がんに関する情報は、決して多くはありません。そんな中、HPVワクチンを自分ごととして捉えようと活動する大学生たちが…。

Vcan代表 大坪琉奈さん
「自分が活動することによって、医者じゃなくても誰かの命を救えたらなって…」

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