「今まで厳しく言ってきたのは、君たちに現場で死んでほしくなかったからだよ。だから絶対に、現場で死ぬなよ」

熊本県消防学校の卒業式で、教官が涙ながらに伝えた最後の教えです。

命を守る現場に出るため、半年間の厳しい訓練を終えた新人消防士たち。涙と成長の半年間を振り返ります。(2024年9月18日放送)

走り込み、山を登り、炎の中へ

卒業を迎えた新人71人のうち、女性は7人。天草広域連合消防本部所属の青柳美里(あおやぎ みさと)さん(19)は、消防士の父・雄二(ゆうじ)さんの姿を見てこの道を志しました。

4月の入校時には「体力面に不安」としつつ、力強く意気込みを語っていました。

天草広域連合消防本部 青柳美里さん「皆さんとのコミュニケーションを大切にし、体力面でも後れを取らないように精一杯ついていきたいと思っています」

しかし、直後に行われた3.5キロ走のタイムは20分台と新人の中でダントツの最下位。その後の登山訓練でも周囲との体力差を思い知らされながら、同期の支えもあり、厳しい訓練を必死にこなしました。

8月、気温が40度に迫る中で行われた実践的な訓練では、炎の熱さを初めて経験。重い防火服での活動に鍛えてきたはずの体力も通用せず、消防の仕事の厳しさを痛感したこともあります。

青柳さん「思ったような活動が体力的にもできませんでした。まだ理想の消防士には全然近づいていない」

それでも、青柳さんが訓練を頑張る理由がありました。

青柳さん「地元が大好きだから」

地域を助け、助けられ「家族のよう」

消防学校が休みの日、青柳さんの姿は、地元の熊本県天草市五和町にありました。

青柳さん「きょうは地元の夏祭りのお手伝いをしています。私は地域に恩返しをしたくて消防士になったので」

貴重な休日も地元のために活動するのは、そうやって地元を大切にしてきた父の姿を見てきたから。実家が食品などを販売する店ということもあり、幼いころから地域の人たちと接することが多く、家族のように可愛がってもらってきました。

青柳さん「小さい時からお父さんもよく参加していたので、仕事以外のところでも協力できるところは協力していこうと。周りの人たちに小さい時からお世話をしてもらっていたから、大きくなったら自分がそういう人たちを助けられるような仕事がしたいと思っていました」

大好きな地元での時間を過ごし、リフレッシュした青柳さん。翌日、消防学校に戻るとさっそく放課後の自主訓練に励んでいました。

半年間の成果を披露

積み重ねてきたトレーニングの成果は、結果にも現れています。

青柳さん「入学当初の走力養成(3.5キロ走)では20分台だったけど、放課後に班の人たちと一緒に走ったりして、今では自己ベストを17分台に縮めることができました」

半年前は最下位だった3.5キロ走ではゴールした後に仲間を応援するまでに。一緒に走った教官も成長を感じていました。

田尻泰治 教官「3.5キロ走が20回あったんですけど、1回も休むことなくずっと頑張ったのが1番じゃないかなと。本当に強くなりました、うれしいです」

半年間の訓練を耐え抜いた青柳さん。あとは、卒業式を残すだけとなりました。

青柳さん「半年間頑張ってきた成果をお父さんに見てほしいなって思います」

卒業の日 父から見た娘の姿は

こうして迎えた卒業の日は、半年間の訓練の成果を披露する場でもあります。

成長した娘の姿を見た、現役消防士の父・雄二さんは。

父・雄二さん「4月に入校した時と比べると心身ともに大きく成長したなと。感無量、これからまた頑張ってほしい」

そして、青柳さんの目標は。

青柳さん「『消防士になれたよ』と報告したときに家族や周りの人たちがすごく喜んでくれて。その人たちが困っているときに一番最初に駆け付けて安心させてあげられるような消防官になりたい。父の気持ちと地域の方の気持ちに応えられるように、仕事を頑張っていきたいと思います」

大切な人たちを守るため、そして「現場で絶対に死なない」ため、誰一人欠けることなく訓練を終えた71人の新人消防士たち。

翌日からそれぞれの所属に戻り、いま、消防の最前線に立っています。

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