兵庫県の斎藤元彦知事をめぐる問題。始まりは今年3月でした。週に一度開かれる定例記者会見の時です。

 (斎藤元彦知事)「不満があるからと言って、業務時間中にうそ八百を含めて文書を作って流す行為は公務員として失格ですので」

 これまで冷静な語り口が特徴だった斎藤知事が公の場で、自らの部下について強い言葉で非難したのです。その言葉は、退職を間近に控えた西播磨県民局長(当時)に向けられたものでした。

 県民局長は、この会見の2週間ほど前に知事による県職員へのパワハラ行為や出張先での贈答品の「おねだり」など計7つの疑惑を匿名で告発。さらに、4月には公益通報制度を使って内部通報していました。

 告発文書の中にはコーヒーメーカー受領など事実も含まれていましたが、県は公益通報として扱わず「告発者さがし」に着手。パソコンを押収するなどし県民局長を告発者と特定。すぐに職を解き、さらに停職3か月の懲戒処分としたのです。

 告発文書を記した元県民局長は懲戒処分から2か月後の7月、家族に「一死をもって抗議する」というメッセージを残して死亡しました。MBSの取材に応じた県OBによると、元県民局長は生前「プライベートで使用していたUSBまで根こそぎ持って行かれた」などと強引な内部調査の実態を語っていたといいます。

 51年ぶりに兵庫県議会で設置された百条委員会では次々と知事のパワハラ証言が。6700人が回答した職員アンケートではその4割にあたる約2800人が、「暴言を吐く」や「机を叩く」といった知事のパワハラを「見聞きした」と回答しました。

 さらに、浮き彫りとなったのは告発者探しの違法性です。専門家が「独裁者の粛清」と断罪する実態が明らかに。

 (片山元副知事)「誰が出したのか、どういう目的で出したのか、知事から『徹底的に調べてくれ』という話があったと記憶している」

 知事の最側近だった片山安孝元副知事。県が告発文書の内容を把握した翌日(3月21日)に、知事から告発者さがしの指示を受けたといいます。この文書を法律で告発者の特定が禁止されている公益通報として扱うかについては。

 (片山元副知事)「そういう議論はなく『すぐ調べろ』という指示。そういう議論はなかった」

 かつての最側近から出た証言に斎藤知事は。

 (斎藤知事)「誰がこの文書を、なぜ作成したのか意図などをしっかり事案として把握することが大事だと指示しました」
 (委員)「徹底的に調査するように指示した?」
 (斎藤知事)「そのように記憶している」

 告発者さがしが自らの指示だったことをあっさりと認めました。そして、一部事実があるにもかかわらず、「文書は誹謗中傷性が高く公益通報にはあたらない」「告発者さがしにも違法性はない」と持論を再三にわたり展開したのです。

 (委員)「トップとして、道義的責任を感じているか感じていないのか、答えてほしい」
 (斎藤知事)「道義的責任が何かわからないので、明確にコメントできない」
 (委員)「道義的責任があるかを答えてもらえないか?」
 (斎藤知事)「道義的責任が何か私はわからない」

 百条委員会の結果は出ていないものの、こうした答弁を受けて県議会では先週までに86人いる全ての議員が、斎藤知事に辞職を迫る事態に発展。3年前の選挙で推薦した維新の会の吉村共同代表も知事に直接電話し「NO」を突きつけたことを明らかにしました。

 (日本維新の会・共同代表 吉村洋文大阪知事)「すべての予算権や人事権を持つ知事が物を投げる行為や机を叩く行為はやってはいけない行為だと思うと(伝えた)。知事を辞職して、県民に問うべきではないかという話をしました」

 まさに四面楚歌の状況、11日の会見では。

 (斎藤知事)「がんばれよと当時も言っていただいていましたので…そこは大変、申し訳ないなと。こういう状況になったことは、申し訳ないなという思いで自分自身に対して悔しい思いではあります」

 知事の目に浮かんだのは、党内の一部が分裂してまで自らを支援した自民党からの辞職要求に対する涙。死亡した元県民局長を悼むものではありませんでした。この日以降、より明確に「続投の意志」を示すようになります。

 (斎藤知事 13日)「県立大学の無償化、県立高校の環境整備、不妊治療など若い世代への投資にしっかり向けていくことが私の改革ですので、この歩みは止めるべきではないという思いで私は続投したい」

 そして19日、兵庫県議会で斎藤知事に対する不信任決議案が提出されました。

 可決した場合、斎藤知事には、10日以内に議会を解散する、10日過ぎて失職する、もしくは自身で辞職する、といった判断が考えられます。

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