SNSで話題になった列車を襲うアメリカ軍機の漫画。
岡山出身で現在はニューヨーク州在住の作家、小手鞠るいさんの父、川瀧喜正さんが、自らの体験を描いたものです。

「つい昨日のできごと」平凡社より

太平洋戦争末期の昭和20年7月24日、通学のため列車に乗っていた川瀧さんは、アメリカ軍機の攻撃を受け、列車から飛び降りて命からがら逃げました。

岡山県南部の町、西大寺から岡山駅へ向かう途中のことだったと書き添えられています。

川瀧さんは、この場面のほかにも「激動の昭和」をさまざまに切り取ったスケッチを描いています。

小手鞠さんは、そんな川瀧さんのスケッチブックとのコラボ作品として、これまでに「川滝少年のスケッチブック(講談社)」や「お母ちゃんの鬼退治(偕成社)」を出版しています。

そして、9月4日、新たに、激動の昭和をスケッチと文章でふりかえる「つい昨日のできごと」が平凡社から出版されました。

ニューヨーク州ウッドストックで執筆を続ける小手鞠さんとメールをやりとりして、新刊について取材しました。

昭和時代は「つい昨日のできごと」

ーこれまでにもコラボ作品はありましたが、今回、新たに作品としようと思われたのは、どのようなお気持ちからでしょうか。

(小手鞠るいさん)
「既刊の2作品はどちらも『児童書』として出版されました。児童向けであるがゆえに、掲載されていない漫画も多数ありましたし、もちろんそれでも、大人も読んで楽しめる児童書ではあるのですが、児童向けという理由だけで、手を出されない読者の方々もおられます」

「そういった方々を含めて、大勢の読者の方々に、父のスケッチブックを見ていただきたい、という思いが強く、また、わたし自身60代後半になり、『自分が生きてきた昭和時代を振り返ってみたい』と思って、本作を書くことにしました」

小手鞠るいさんと父・川滝喜正さん

ースケッチブックの漫画は、SNSで大反響がありました。岡山空襲の場面から始まる長編小説「アップルソング(ポプラ社)」の構想にも、父・川瀧さんが岡山空襲の焼け跡を描いたスケッチが大きな役割を果たしているようです。小手鞠さんにとって、お父様のスケッチの魅力はどのようなところにあるとお感じですか

(小手鞠るいさん)
「実は、子どもの頃からずっと、父の漫画をなんらかの形で目にしていたこともあり、身内の作品ということもあって、それほど魅力的であるとは思っていなかったのです(笑)。ですので、魅力については、発言を控えます」

「しかしながら、親しくしている編集者、そして、夫もずっと前から、大きな魅力を感じていたようで、SNSでの反響に背中を押されるようにして、出版を考えるようになりました」

「漫画には省略されている部分があるからこそ、そこから想像して生まれる光景がある」

ー「つい昨日のできごと」の「漫画には、活字にはない迫力と省略があって、省略されている部分があるからこそ、そこから私が想像して生まれる光景、というものがある」という文章がとても印象に残りました。

(小手鞠るいさん)
「普段のわたしは、執筆のためにはまず活字の資料(紙の本が中心です)をあらかじめびっしりと揃えて、それらを読みながら、進めていくことが多いのですが、(もちろん、資料は最初から最後までゼロの作品もあります)父の漫画の場合には、漫画に出てこないことを想像する楽しみがあり、また漫画に出てこない場面を創作する楽しみもあったので、活字の資料からは得られない、貴重な体験だったと思っています」

「つい昨日のできごと」平凡社

(小手鞠るいさん)
「ちなみに、父の漫画は例外で、普段は、写真や映画や絵画などを執筆の資料にすることはほとんどないです。理由は、自分の自由な想像力を、具体像(絵や写真や漫画)によって限定されるような気がするからです」

「取材(インタビュー)も同様で、ほとんどしない方が書きやすいです。
あとは、とにかく活字の世界が好きで、こういった書き方が長年の習慣になっているせいかな(笑)」

スケッチから、どう想像を広げる?

ースケッチにかかれていない部分の想像を広げてゆくとき、小手鞠さんの「人生の積み重ねや経験の積み重ね」に加え、例えば、活字の資料や当時の記録写真などと総合して、イメージを具体的にしていくのでしょうか。

(小手鞠るいさん)
「こちらについては、前述の通り、記録写真、映像などは、ほとんど見ないことが多いです。かえって、イメージを限定されると感じています。実像に縛られてしまいそう・・・という感じかな。動画や写真やリンクは、編集者から送ってきてもらっても、書き上げるまでは『見ない』ことが多いです」

「小林さんと真反対かもしれません(笑)
昔から、テレビをほとんど見なかった(父の影響もあり!)ということもありますし、あとは、新聞や雑誌の報道写真なども、ほとんど見ない、偶然見ても、参考にはしない性格です」

「以前、大手新聞のやらせ報道記事を見て以来、新聞が信頼できなくなった・・・という経緯もあります。フィクションの映画については、書き上げたあとには、けっこう見ています。でもそれで原稿を直したりすることはほとんどないです。笑」

「『乱れる海よ』を書いたときにも、参考にしたのは活字のみ。写真や動画などは、探せばたくさん出てきたのでしょうが、いっさい見ませんでした。
(見たのは、紙の本に載っていた口絵くらいかな?)」

「つい先日、書き上げたばかりの第一次世界大戦が舞台の作品も同じで、書き上げたあとは、第一次世界大戦関係の映画をずいぶん見て、楽しみました!」

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