自分を拒まずにいてくれた家族のように、罪を犯してしまった若者が社会復帰に向けて安心を得られる居場所をつくりたい―。  元暴力団員で覚醒剤使用で服役した経験もある遊佐(ゆさ)学さん(49)が今月、故郷の栃木県栃木市に、少年院や刑務所を出た人が暮らす自立準備ホームを作る。「人生をやり直すことはできる」との希望を込めたホームだ。(中村真暁)

◆幻聴でビルから飛び降り大けが

 右足を引きずるように東京・歌舞伎町を歩く遊佐さん。かつて所属した暴力団事務所があったこの町に今は、一般社団法人「希望への道」の代表として、保護司など更生保護に取り組む仲間たちとの情報交換のために訪れる。不自由な足は、毎日のように覚醒剤を使い幻聴も聞こえていた20年ほど前、ビル5階から飛び降りたときのけがの後遺症だ。  飛び降りから3日後、目覚めたのは病院の集中治療室(ICU)だった。先輩から勧められ「1回だけ」と18歳で始めた覚醒剤をやめられず、ついに命にかかわる事態を招いた。ICUのベッドの上で思い出したのは、その少し前、友人に誘われて初めて行ったキリスト教会で、自然と涙が出てきたことだった。「生きていてよかった。神に生かされた」と思った。

◆暴力団を抜けても続いた絶望の日々

自立準備ホームの設立を目指す遊佐学さん=東京・歌舞伎町で(安江実撮影)

 間もなく暴力団を抜け、栃木市の実家に戻った。だが薬物はやめられず、その後も2度、逮捕された。自分に絶望したが、拘置所で元暴力団員だった男性が牧師になった半生をつづった手記を読み「同じ境遇の人がいる。自分も」と生き直すことを決意し、毎日聖書を読み込んだ。  出所後は、依存症の回復施設のプログラムに参加しながら、ボランティアにも打ち込み、少年院を出た若者らの自助グループでサポート役も務めた。そこで気付いたのは、刑務所や少年院を出ても家族などに頼れない若者が多いことだった。「親がいない子や虐待で引き取ってもらえない子が多かった」

◆いつも迎えてくれた両親、「社会復帰を望む人を見捨てたくない」

 10代で暴走族に入るなど非行を重ね、少年院にも入った遊佐さん。だが、出所した自分を両親は拒絶することなく、迎え入れてくれた。帰る場所があったから今の自分があると思った。「社会復帰をしたい人を絶対に見捨てたくない」と、自立準備ホームを作ることを決めた。  「日本一アットホームな」ホームにしようと受け入れは最大5人。「当たり前の生活ができ、そこに感謝できれば希望も持てる」と考える。「同じ釜の飯を食べ、たわいのない会話をする。膝をつき合わせて相談に乗り、時には厳しく接する」。そんな雰囲気のホームを目指す。

 自立準備ホーム 刑務所や少年院を出た後、帰る家がない人の住居を一時的に確保する国の「緊急的住居確保・自立支援対策」で利用される施設。更生保護事業法に定められた更生保護施設の定員に限りがあるほか、多様な受け皿づくりの一環でもある。集団生活をする施設やアパートに居住する場合も。いずれも職員が毎日生活指導などをする。法務省によると、2023年に更生保護施設や自立準備ホームなどに入った人は約6500人。



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