この夏は「猛烈に暑かった」と感じた方も多かったと思います。
2日、気象庁は今年の日本の夏は去年と並び、「史上最も暑かった」と発表しました。そして広島県でも猛暑に関する記録が次々と塗り替えれました。史上初の39℃台や過去最も多くなった猛暑日、そして8月の広島市中区の気温は「史上最も暑い1か月」となっています。

猛烈な暑さの背景には何があるのか…異常気象を研究している気象学の専門家に話を聞くと、これからはこの暑さが異常ではなく普通の夏になる危険性を指摘しています。

「広島県初39℃台」「過去145年間で最も暑い」「猛暑日最多」…

この夏も毎日のように伝えられた「猛烈な暑さ」に関するニュース…。8月1日には、安芸太田町加計で、広島県では観測史上初めてとなる39℃台を記録。さらに8月15日には39.5℃を観測し、中国地方における歴代1位の高温記録となりました。

この夏、広島県では各地で猛暑に関する記録が次々と塗り替えられました。

35℃以上の猛暑日の日数
     ことし 
過去最多
府中市  42日 31日(2018年)
加計   37日 33日(2018年)
大竹市  37日 24日(2010年)
広島市中区35日 28日(2018年)
三次市  32日 25日(2018年)
庄原市  23日 22日(2018年)

府中市の猛暑日は42日は、広島県で初めて年間で40日を超える記録となっています。

楠本麗奈アナウンサー
「慰霊碑につながる中央参道です。熱中症対策として新たにテントが張られています」

8月18日まで連続で20日間、猛暑日が続いた広島市中区…。8月の月間平均気温は30.7℃となり、1879年の統計開始以降、過去145年間で「史上最も暑い1か月」となりました。

なぜ、この夏は、これほどの猛烈な暑さとなったのでしょうか。気象学が専門で異常気象について研究している三重大学大学院の立花義裕教授に話を聞きました。

猛烈な暑さの要因は2つ カギは「上空の風の流れ」と「海面水温」にあり

三重大学大学院 立花義裕 教授(気象学)

三重大学大学院 立花義裕教授(気象学)
「猛暑の原因は大きく分けて二つありますね。一つは偏西風が北に日本はるか北に行ってしまって、かつ北向きに蛇行していたので、日本はすっぽりと熱帯系の暖かい空気に夏の間はほとんど覆われていたので、基本的な理由は偏西風が北に行って、そして大きく蛇行していたということによって猛暑の原因が説明できます。
 ですが、これだけだと、去年も一昨年も毎年のように偏西風の北への蛇行があるので、最近はね、ですからこれだけでは観測史上最高に暑いの説明にはならないですね。」

立花教授らの研究結果 報道発表リリース

近年、頻繁に猛暑が起こっている要因として、立花教授は、地球温暖化によって北半球全体の気候が変わり、日本付近では偏西風が北に大きく蛇行したり、高気圧が強まりやすくなったりしていることが原因とみています。

それに加えて、この夏の猛暑に追い打ちをかけているのが日本周辺の海水温度が異常に高いことです。

三重大学大学院 立花義裕教授(気象学)
「第2の理由っていうのは何かっていうと、それは日本近海の海面水温がむっちゃくちゃ高かったんですね。これも場所によっては観測史上一番高かった場所もあったと思います。
 日本近海の海面水温が高いと、どうして暑くなるかというと、海風が吹けば普通は海から来る風は冷たいんですが、それが水温がめちゃくちゃ高いので、海の上の空気も暖められて吹いてくると海風も暑いということなので、それが夏の気温を押し上げたというわけです。
 海の影響も大気の影響と同じぐらいの効果があったというわけで、その二つの効果が重なったんで、めちゃくちゃ暑いということですね。」

ことしの8月、西日本周辺の海域では、日本海側も含めて広い範囲で海面水温が30℃前後のエリアが広がっていました。

三重大学大学院 立花義裕教授(気象学)
「ある特定の狭い海域で海面水温が高いってことは過去にも何度もあったんですが、ほぼ日本列島を全てを覆うくらい高いような状態が、夏の間ずっと続いてたってのはないと思いますね。
 しかも西日本も、ご多分に漏れずむちゃくちゃ高かった。場所によっては10年前に比べて5℃も高いような海域が広い範囲で覆われていて、30℃を超えるような水温に囲まれたってのは、しかもそれが広い範囲で囲まれたっていうのは過去に例がないと思いますね。」

異常に高い海面水温 「記録的に遅い梅雨入り」と「黒潮」が関係か

平年より16日遅く中国地方に梅雨入り発表(6月22日・広島市中区)

まず一つ目の理由として立花教授が指摘したのが、記録的に遅かった梅雨入りです。多くの地域で平年より2~3週間遅く梅雨入りが発表されました。

三重大学大学院 立花義裕教授(気象学)
「今年は日本のほとんどの地域で梅雨入りが遅れました。梅雨入りが遅れたので梅雨になる前に晴れてたんで、ですから、日射をたくさん受けて、水温がどんどん梅雨入り前から上がっていったと。その後、梅雨が明けても暖かい水温が維持されて、かつ猛暑が続いたので、さらに水温上がったと。だから夏の後半まで暑さが続いたと、いうことなんで、梅雨入りが遅れたってことと猛暑という気象が原因で水温が上がったということが第1の理由ですね。」

深さ50メートルの表層水温(9月1日) 気象庁

そしてもう一つの理由として挙げたのが「黒潮」です。

三重大学大学院 立花義裕教授(気象学)
「黒潮は元々むちゃくちゃ暖かい海面水温を持った海流なんですが、これが日本の南岸をたくさん流れてきて暖かい。それから黒潮から分かれてくる海流として対馬暖流もあるが、これも暖かいです。これが日本海、日本に流れてきて、この両方が非常に熱い水を運んできているんです。普通は日本に来るにつれて冷えてくるんですが、猛暑のために冷え切らないでどんどん来ているという意味で、黒潮の水の流れと猛暑の両方が絡まって暑いというわけです。日本海が非常に高いんですよね。ですから対馬海流にたくさんの暖かい海水が流れたというわけですね。」

海面水温の平年差(9月1日・気象庁)

「こういうふうに高い水温が続く最も大事な背景っていうのは地球全体の温暖化です。特に知ってほしいのは、地球全体の『海洋の温暖化』なんですよね。今、世界中の海面水温がどこもかしこも異常に高いんです。中でも日本近海、東アジアが世界で一番水温が上がってるんですね。
 ですから地球温暖化に伴う世界全体の海面水温の上昇と黒潮が相まって、日本付近を狙い撃ちするがごとく水温が高い。」
「地球温暖化に伴って海面水温が上がる。日本は特殊な場所にあるので、海面水温の上昇した影響がより顕著に受けやすい黒潮が流れてる場所なので、温暖化に伴う海面水温の上昇の影響を一番受けやすい場所、だから猛暑が日本を狙い撃ちするということですね。」

今年の猛烈な暑さが普通の暑さに 「異常気象がニューノーマル」 

立花教授は、今後、この夏のような猛暑は当たり前になるだろうと予測しています。

三重大学大学院 立花義裕教授(気象学)
「こういうような状態というのは普通になると私は思います。つまり異常な猛暑が普通になる。僕はこれを異常気象がノーマル化してると、『異常気象がニューノーマル』と呼んでますけども。
 気温はね、何かのタイミングで冷えることがあるので揺らぎもありますけど、気象の揺らぎって大きいですから。しかし水温が2℃だとか、3℃上がるっていうのは非常になかなかないんですよね。いったん水温が上がるとなかなか下がらないので、これはなかなか元に戻らない。ですから異常気象が普通になる状態っていうのはこれからも続くと思います。
 40℃超えになることが普通になるってことは、その時代における猛暑ってのはもっと上がりますよね。ですから今年のような気温が普通になると思ってほしい。」

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