兵庫県の斎藤元彦知事の疑惑が内部告発された問題を巡る県議会の調査特別委員会(百条委員会)のアンケートで、県職員の4割が、知事のパワハラを見聞きしたと答えたことが判明した。知事の続投の意思は固く、調査は続いているが、深刻な訴えも相次ぐ中で長期化する問題をどうみるべきか。(木原育子)

職員へのパワハラなど斎藤元彦兵庫県知事の疑惑7項目を挙げた告発文書

◆「おまえはエレベーターのボタンも押せないのか」と叱責

 アンケートは県職員約9700人が対象で、約7割が回答。このうち今月5日までに寄せられた約4500件を精査した中間結果によると、パワハラについて目撃、経験し「実際に知っている」と答えたのは59人。「実際に知っている人から」や「人づてに」聞いた人を合わせ、全体の38.3%が見聞きしているという実態が浮き彫りになった。  自由記述欄には新たな証言も。ある職員は視察先で、知事がエレベーターに乗り込むタイミングで扉が閉まってしまい「おまえはエレベーターのボタンも押せないのか」と叱責(しっせき)された話をつづった。公用車で移動中に到着時間が遅れそうだとわかると、後部座席から助手席を蹴ったと聞いた、との指摘もあった。

◆斎藤知事はいまも疑惑を完全否定

 これに対し、渦中の斎藤知事は20日の記者会見で、「そういった認識はない」とパワハラ疑惑を完全否定。「あの…仕事ですから…あくまで。時には厳しく指導させてもらうことはあるが、業務上必要な範囲内で適切に指摘させてもらっている」と淡々と語った。

斎藤元彦兵庫県知事のホームページ(スクリーンショット)

 一連の問題は3月、元局長の男性がパワハラなどの疑惑を文書で告発したことに端を発した。ところが県は5月、これを「誹謗(ひぼう)中傷」と認定し、元局長は停職3カ月の懲戒処分に。7月の百条委での証言を前に突然世を去り、一気に批判が高まった。  専門家はどうみるか。パワハラにより精神疾患が生じた場合、一般の民間企業ならば労災も認められる。産業医で、一般社団法人日本ストレスチェック協会(東京)の武神健之・代表理事は「労災は一人の人間に対し、いかに被害を重ねたかが判断基準になる」と述べる。  アンケートのように知事のパワハラを見聞きする程度なら全体的な被害にとどまり、労災には当たらないというが、「後部座席から助手席を蹴るなどの行為があれば、パワハラの認定をされうる。過去にパワハラをしてうまくいった成功体験があるからここまで続いた」との見方を示す。

◆専門家「なぜ辞職しないのか逆に不思議」

 仮に職員の記述が事実だとして、問題の長期化は勘弁してもらいたいところだ。武神氏は「職員の中で『何をやってももう太刀打ちできない』という学習性無力感がまん延し、事態を悪化させた。組織への絆が弱いと、生産性が落ちる傾向にあり、良いことはひとつもない」と指摘した。  側近が続々と退いてもなお、知事は続投を希望している。この日の会見でも責任の取り方を問われ、「県政を一歩一歩前に進めていくことが大切だ」と繰り返した。7月末の神戸新聞の調査では支持率が15%に急落したが、これを問われた際も「15%の応援していただいている方に感謝したい」と言ってのけた。  明治大の鈴木賢志教授(政治学)は「人が亡くなるほどの事態で、県政は明らかに停滞しているのになぜ辞職しないのか逆に不思議だ」と首をかしげる。「知事にしては比較的若く改革派と言われていただけに残念。問題を長期化させないために早くけじめをつけるべきではないか」と述べた。 

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