普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐり政府は20日、「代執行」で自ら承認した大浦湾側の埋め立て工事に着手しました。以下はRBC・平良優果記者の解説です。

埋め立て予定地の現状は

政府は名護市辺野古沖の約150ヘクタールを埋め立てる計画で、辺野古側の区域では6年前に土砂の投入が始まり、埋め立てがほとんど完了しています。

写真左は埋め立てがほぼ完了した辺野古側 中央の大浦湾の工事には20日に本格着手した

ただ、辺野古崎を挟んで北側の大浦湾で軟弱地盤が見つかり、この地盤の改良には設計変更が必要でした。県は、工事の長期化が予想され普天間基地の一日も早い危険性除去にはつながらないなどとして不承認とし、大浦湾での工事は止まっていましたが、去年12月に国は裁判を経て“代執行”により自ら工事を承認し、大浦湾でも埋め立てに向けた工事を進めることが可能となっています。

ーー今後、大浦湾ではどのような工事が進むのでしょうか?

大浦湾側でも辺野古側と同様に、埋め立て予定地を囲む形でコンクリート製の護岸を建設しその内側に土砂を投入する予定です。マヨネーズ状ともいわれる軟弱地盤の改良工事も進められていく予定です。

262の絶滅危惧種を含む5300種以上の生物が生息する、生物多様性の宝庫の海で今後加速していく移設工事について、その課題を改めて識者に聞きました。


大浦湾に広がる軟弱地盤を固める方法のひとつが、「サンドコンパクションパイル(SCP)」という工法です。海底に筒を打ち込み繰り返し衝撃を与えながら砂を投入し締め固まった砂くいを埋め込み地盤を固くしていきます。

SCP工法のイメージ図


▽日本大学(地盤工学専門)鎌尾彰司准教授
「分からないところがある、ということを残しているのが土木工事としては信じられない」

地盤工学が専門の日本大学・鎌尾准教授は、政府の調査不足を従来から繰り返し指摘しています。

問題は滑走路が建設される場所に位置する「B27」と呼ばれる地点。水深90メートルの場所に軟弱地盤が広がっている場所で、政府はこの場所の詳しい調査を実施せず、近くの地盤の調査を参考に「固い」と評価しています。

地盤の軟弱さが疑われるが詳細調査をしないまま「固い」と評価されているB27地点


約7万本の杭を打ち込み水深70メートルまでを改良すれば、「十分」だとしています。

「完成後も地盤沈下 維持費膨らむ」と専門家

▽日本大学(地盤工学専門)鎌尾彰司准教授
「(参考にした他地点と)距離が離れていることと、土の物性を見ても同じようには見えない。防衛省側は同じだと言っているが、私から見ると深いところにある20メートル分の粘土の方がより柔らかいようにも見える。その情報がない中で工事が進むということが一番懸念される」

鎌尾准教授は「施設を供用した後にも地盤沈下による長期にわたるメンテナンスが必要で維持費も膨らむ」と指摘しています。

政府が“近く”の地盤を参考に固いと評価した地点について、鎌尾准教授は軟弱さを指摘する



工事をめぐっては着工前のことし3月、沖縄防衛局が契約した大浦湾側の護岸建設工事4件についてあわせて170億円増額されたことが分かっています。


▽日本大学(地盤工学専門)鎌尾彰司准教授
「工事が終わったら、設計変更よりさらに増額なんていう可能性がどんどん出てくると思います」「ちょっとずつ(工費増額を)小出しにするっていうのが国のやり方なのかなという感じはします」

日本大学(地盤工学専門)鎌尾彰司准教授



移設工事の費用や工期について、政府の想定では総事業費約9300億円、工期は最短で12年とされていますが、大浦湾側の工事に着手していない段階で、すでに半分近い額が支出されていてます。

今後は前例のない深さで地盤の改良工事を進めることなどから費用の増加は避けられず工期も延びることが考えられ、世界有数の豊かな生態系への深刻な影響も懸念されますが、沖縄県としては工事を止める有効な打開策を打ち出すのが難しいのが現状です。

そもそも県民は“埋め立て反対”の意思を投票で示している


<記者の視点>
今後工事が進むなかでも忘れずに考えたいのが、ここまで政府が辺野古への移設を推し進めてきた経緯です。

県民投票をはじめ移設問題を争点にした県知事選など、何度も示されてきた沖縄の声に政府は向き合うことなく、埋め立て工事の変更承認を争った司法の場などでも、ここまで、県の訴えの“中身”が審理されることはありませんでした。

政府は普天間基地の危険性の「1日も早い除去」のために工事を進めてきましたが、工事は後12年以上かかるという矛盾、不条理からも目を背け続けています。

にもかかわらず、沖縄の基地負担がいつの間にか沖縄の「責任」であるかのように“辺野古が唯一”と振る舞う姿勢が県民の目にどう映ってきたか。

政府には、難工事や自然環境の保全といった数々の懸念に答えていく責任がありますし、今後もこうした“県民に対する姿勢”が問われ続けます。(取材 平良優果)

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